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なぜ観光産業の地位が上がらないのか?

昨日まで9月23日・24日と1泊2日でG1関西in淡路島に参加していた。
観光セッションではパネリストとして登壇したのだが、その時、参加者から挙がった質問だった。「観光って国策って叫ばれるわりに地位が低いのは、なんででしょうか?」

非常に多くの質問に紛れてしまい、私も一言「ものづくりニッポン神話(成功体験)が強烈だからですかねぇ」という、いい加減な返答しかできなかった。一晩、ゆっくり眠って目覚めた今朝も、魚を食べていて喉にひっかかった小骨のように、この質問にちゃんと回答できなかったことが気になっていて、その”ひっかかり”を原動力に今日は書いてみたい。

※読んだら「スキ」じゃなくても是非「スキ」ください。w 反応は励みになります。

2022年9月24日 G1関西in淡路島 観光セッションの様子。私だけなぜか立ってます。ごめんなさい。www(あまり意味はない、結構、無意識…走り出したかった??)
左からアソビュー代表 山野さん(モデレーター)、山田 桂一郎さん JTIC.SWISS 代表(パネリスト)、星野 佳路さん 星野リゾート 代表(パネリスト)、そして、私、WAmazing代表(パネリスト)

質問者「なぜ国策だと言われながら観光産業の地位は上がらないのでしょうか」

この質問者がどうして観光産業の立場が低いと思ったのかはわからない。ただ、私も同じように感じているため、今日は「本当に地位が低いのか?」という議論は置いておいて、「重要性の割には地位が低い」という前提で話を進めたい。ちなみに私が地位が低いと感じている理由は数多くあるが、たとえば観光庁は「省」ではない。観光庁発足から14年たった今も、「国土交通省の外局」である。また、発足当時の年度予算は100億円程度だった。当時の農水省の牛乳課という牛乳専門の部署の年度予算が300億円はあったので「我が国の観光は牛乳の3分の1か」と思って驚いた記憶がある。最も歴史ある観光学部を擁し、観光学部として最も偏差値の高い立教大学は世界大学ランキングで1000位~1200位であるが、米国でホテル経営学やホスピタリティ産業について学べるコーネル大学はアイビーリーグの一角をなし世界大学ランキングは22位である。
(大学ランキングや偏差値高いことが絶対大事というわけではないが、わかりやすさのための一例である)
あとは観光産業従事者の給料が低いとか、それは生産性が低いからだとか、いろんな話がある。

地位の低さの仮説:「GDP」「産業区分」で表せないからではないか?

昨日の観光セッションで私が回答したかった仮説は、「観光産業という産業セクターが無いからではないか」ということである。
GDPとは、「Gross Domestic Product」の略で、「国内総生産」のことを指す。学校で習った人も多いだろうし、経済の頻出&定番ワードでもある。 1年間など、一定期間内に国内で産出された付加価値の総額で、国の経済活動状況を示す。増えれば好景気、減れば不景気、経済減速と言われる。パンを例に考えると、農家は自分が作った小麦を100円で製粉業者に販売して利益を得る。製粉業者は小麦粉に加工してパン屋に200円で売り、100円の利益を得る。パン屋は小麦粉からパンを作り300円で売り、100円の利益を得る。この時、農家、製粉業者、パン屋が得た利益を合わせた300円が、付加価値の合計だ。
そして、観光にGDPはない。ないというか…表現されていない。上記で例えに使ったパンを観光客が訪問した地域で買って食べる。これは観光消費ではあるが、GDP上は農家と製粉業者、パン屋の付加価値であり「農業」と「製造業」と「小売業」に分類される。どこにも「観光」の文字はない。
産業というのは「産む業(なりわい)」であり「消費」を表すものではない。言わば、産業というのはプロダクトアウト型の統計値、観光はマーケットイン型でしか表現できない。
以下は総務省による「主な産業の名目GDP及び実質GDPの規模」という円グラフであるが観光の「かの字」もない。

(出典)総務省「ICTの経済分析に関する調査」(平成29年)

人間というものは「目に見えるもの」しか、なかなか信じられない。世の中では、データや統計をあたる人は驚くほど少ないが、そうした”ファクトフルネス系の”人間ですら見えないのが観光産業である。そりゃあ、地位が低いのも当然ではないだろうか、見えないのだもの。

観光産業を「見える化」するにはどうすればいいのか?

観光という産業セクターはない。産業というのは「生産する側、供給する側」を示しており、消費する側のものではないからだ。パンの例でいえば産業としては「農業」「製造業」「小売り業」にまたがっているが、消費する側からすれば「観光客による観光消費」となる。
観光の経済規模をはかるためには、別の統計・指標が必要ということになり、TSAという世界基準が、国連世界観光機関(UNWTO)によって定められている。
※既にこの時点で、かなりマニアックだが、なんとか我慢して最後まで読んで欲しい。(笑)
TSAというのは、Tourism Satellite Accountの略であり、日本語にすれば、観光サテライト勘定と言う。
GDPが「産みだす側、生産側、供給側」にフォーカスして割り出すのと対照的に、こちらは「消費する側」にフォーカスした統計だ。
原 忠之先生(セントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリテイ経営学部副学部長)のわかりやすいお話を、そのまま以下に引用しておく。

通常は産業セクターの産出物は見ればどの産業セクターが作ったか(供給側)が分かりますね、例えば、ミカンは農業、サカナは漁業、車は自動車産業。TSAの場合は、「誰がそれを消費したか?」と言う需要側に着目して、訪問客が消費した場合にはそれを「観光消費(tourism consumption)」とみなします。その観光消費を年間総額として各産業セクターから寄せ集めて合算すると年間観光消費総額が計算できます。最後にこの需要側数値を、供給側数値と照らし合わせて精度を上げて完成です。
うんとわかりやすい例を挙げましょう。当方(米国居住者)が訪日して皆様とオフィスそばの食堂に4人で懇親ランチに行くとします。一人千円割り勘。皆が同じサンマ定食食べたとしても、3/4の3,000円分は居住者の消費で、当方のサンマ定食だけは1,000円分観光消費として計上されます。その食堂が年間でそれしか売上が無ければ、観光産業依存度は25%となる訳です。
米国の場合は、レストランの観光産業依存度は17%,ホテルで80%,レンタカーが50%ぐらいです。そうやって各産業セクターから観光消費額を寄せ集めて推計して出来るのが観光消費額です、故に、供給側データを使って国民経済計算体系(SNA: System of National Accounts) に枠組みでGDPを計算している数値と重複カウントしないように使うのが重要です。


観光庁でもTSAを算出している

観光庁には、旅行・観光サテライト勘定(TSA:Tourism Satellite Account)のサイトが作られ以下にまとめられている。

https://www.mlit.go.jp/kankocho/tsa.html


うっ…苦しい。一応、これが専門の私でさえ、もう見る気を失っている。第一、GDPの認知度は100%に近い気がするがTSAって何よ。日本国民に尋ねてもおそらく認知度1%以下じゃないだろうか。
つまりは、これが「観光って、国策だって叫ばれる割に地位が低いよね」の原因ではないかと思うのだ。

まだ気力がある方は以下をお時間あるときにでもご覧ください。

▼旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究https://www.mlit.go.jp/common/001415552.pdf

2030年、国の目標が達成されれば自動車輸出を抜いて「日本ナンバーワンの外貨獲得産業」へ!

2016年第二次安倍内閣の時に設定された「明日の日本を支える観光ビジョン」、こちらには2030年、6000万人のインバウンド旅行者を迎えて、彼らによる日本国内消費を15兆円にするという目標が高らかに宣言されている。
現・岸田内閣もこの目標を変更せずに堅持している。

2016年に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」

外国人が日本にやってきて、宿に泊まったり、飛行機や新幹線やバス・タクシーに乗って移動したり、飲食店でご飯を食べたりお酒を飲んだり、買い物をしたり遊んだり…これは大元は米ドルだったりユーロだったりウォンだったり人民元だったり台湾ドルだったり香港ドルだったりシンガポールドルだったり…とにかく「外貨」である。
つまり人が日本に来て消費しているものだが、自動車や鉄鋼を輸出して外貨を稼ぐ輸出産業と比べることができる。
それをわかりやすく表すと以下。
2030年の目標が現実になれば、2019年時点でトップの外貨獲得産業である「自動車輸出」を抜いて、「観光インバウンド消費」がナンバーワン外貨獲得産業になる。

出典:総務省「貿易統計」、観光庁「訪日外国人消費動向」をもとにWAmazing社にて作成

こういったことの世間認知度は非常に低いので、上記はWAmazingが資金調達をするときに投資家(VCやCVC)に向かって話す資料から抜粋したものだ。私が起業した理由は、日本最大の外貨獲得産業が健全に、地域の幸せに資するために成長して、地方創生に結び付くためのプラットフォームになるためだが、そのためには、この部分から力説して認知啓発しなくてはならない。
なぜなら「観光の地位が低いから」…。

だから、何度でも何度でも言い続けるし、書き続けるし、説明し続けたい。
観光インバウンド消費は日本最大の外貨獲得産業へ。そして、その市場が地域の豊かさとその地域に暮らす人たちの幸せにつながるように、行動し続けたい。

冒険仲間を絶賛大募集中!

創業した2016年7月。私はお金にも仕事のやりがいにも困っていなかったし、スタートアップ創業するには遅咲きと言われる40歳だった。
けれど、これをやるのは自分たちしかいないんじゃないかという、誰にも全く頼まれても期待もされていない使命感によって起業してしまった。(笑)

▼創業の経緯、現在の当社を詳しく語った最新インタビュー

構想と挑戦が壮大すぎて6年たった今も、30億円近く資金調達した今も、自慢じゃないが「まだ何も証明していない、何者でもない」…。
もちろんコロナ禍のせいもある。でも、ここからいよいよ証明フェーズです。これからが、一番、楽しい時です。
現在、役員含め156名のメンバー(2022年9月1日時点)がおりますが、まだまだ、この冒険をやり遂げるには仲間が必要です。
一緒に「いっちょ、やったろうじゃないか!」という方々の参加を、毎日、待ちわびておりますので以下に募集職種一覧をつけさせていただきます。


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