ギグワーカーの労働者性とその先にある課題
先日の日経新聞一面に、ギグワーカーの法的保護に関する記事が掲載されていました。
記事によると、「厚生労働省はギグワーカーの待遇を改善する。新たに指針をつくって従業員と同じように最低賃金を適用し、有給休暇の取得ができるギグワーカーを認める。」とあり、新たな指針を出すようです。
また、「厚労省が最低賃金の適用や有給休暇を付与される労働基準法上の労働者の要件を見直すのは、法律の想定と現実にズレが生じていることがある」、「厚労省は2024年度中にも労働者としてみなすための指針を公表する。」とも書かれています。
少々意図が読みにくい書きぶりですが、新たな指針というのは、労働者性の判断基準に関するものかもしれません。
詳細はまだ不明確ですが、ここで少しギグワーカーの保護について考えてみたいと思います。
保護の在り方は大きく3パターン
ギグワーカー、ないしは、より広くフリーランスの保護政策としては、大きく以下の3パターンがあり得ます。
① 労働者概念を拡大し、労働者に包摂する
② 「労働者」と「事業主」の間の第三概念(例えば、「労働者類似の者」を創設し、労働法を部分的に適用
③ 労働者概念はそのままとし、必要となる保護のみを与える
今年の11月から施行されるフリーランス新法は、このうち③の方向性によるものであると位置づけられます。
アルゴリズムによる指揮命令という新たな論点
さて、フリーランスの中でも、プラットフォームを介して働くギグワーカー(プラットフォームワーカー)の問題として、ひとつ特徴的であるのは、配達先や時間、報酬等が人間を介さず、AIのアルゴリズムによって指定されることが挙げられます。
こうした問題は、国際的にも問題になっており、日本においても研究が進められています。
上記労働基準関係法制研究会においても、この点は問題になっています(以下の資料のP5をご参照ください)。
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001268134.pdf
ギグワーカーを労働者として保護すべきか
上記のようなAIによる指揮命令という論点はありますが、冒頭記事によれば、労働者性の判断基準について、何らかの指針を出し、ギグワーカーを労働者に含めるようにするとなっています。
したがって、労働者ではないとしつつ記事内にあるような最賃法や年次有給休暇等の保護を及ぼす方向性(上記③)ではなく、労働者概念を「解釈」によって広げるという方向であり、政策論としては上記①を取るつもりなのでしょう。
そうなってくると、「フリーランス」と一言でいっても、自分で仕事を取ることができるキラキラなフリーランスと、プラットフォームを介して働くプラットフォームワーカー、ギグワーカー等様々であるように、「ギグワーカー」の中にも多様な類型がいることを考える必要があろうと思われます。
すなわち、冒頭記事の中の関連記事にあるように、「ギグワーカー」は、本来、単発の発注を受ける人たちを指しています。
実際には、別途本業がありつつ、隙間の時間にプラットフォームを介して働くような「ギグワーカー」もいれば、プラットフォームを介した受注を本業とし、その収入をもって生計を立てているような類型もいるのだろうと思われます。
そして、その態様によって、政策的な要保護性は一様ではないと思われます。
そうなってくると、後者の場合はともかく、前者の場合も含めてまるっと「労働者」として労働基準法の保護を与えることが適当かということを考える必要もあるでしょう(例えば、前者のようなパターンで、年次有給休暇が必要なのかは検討の余地があろうと思われます。)。
そもそも「労働者」にすれば何でも解決ではない
個人的な見解としては、「ギグワーカー」のうち、一部の者については、労基法上の労働者に当たる場合もあり得るところであり、その場合は、労働者としての保護を及ぼすべきであろうと思います。
ただ、なんでもかんでも「労働者として保護しよう」という方向性は、必ずしも適切ではないと思っています。
以前、以下のnoteに書いたように、ギグワーカーを労働者としたとしても、おそらくは非正規雇用になるのだろうと思われます。そうなると、正規・非正規の待遇差が大きい我が国においては、それほど待遇が向上するとも思えません。
つまり、結局、非正規雇用の問題に論点が移るだろうと思います。
また、仮に労働者性を認めるとすると、「この人たちは労働者とされるのであれば、就業規則などで働き方を縛る」という流れも想定されます。そうすると、ギグワーカーが望んでいるであろう柔軟な働き方は難しくなるように思います。
今後の議論に注目
ギグワーカーの議論は諸外国でも進められており(むしろ、日本は遅れている印象です)、難しい議論です。
これもまた「そもそも」の議論ですが、労働基準法自体が、「労働者」の中でも、典型的な労働者の他、裁量労働、高プロのような裁量を持った労働者のように多様な類型の「労働者」の存在を前提としています。
したがって、「労働者に含めるかどうか」という議論をするだけでなく、労働基準法全体の在り方を併せて考えていく必要があろうと思います。
いずれにしても、現在厚生労働省で行われている「労働基準関係法制研究会」での議論と関連すると思われますので、この研究会の動きは今後も注目です。