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2023年の働き方は、性悪説<性善説、管理ベース<モチベーション向上ベース、になりますように

筆者が今まで経験してきた企業の多くでは、物品購入や接待などのために経費を使う際、稟議による事前許可を得ることが必要でした。

そして、経費の支出後は、領収証などの証票とともに詳細を報告する業務、つまり精算が要求されることがほとんどです。

この事前許可と精算は、組織のお金を使う以上、必要なプロセスであるように直感されます。が、ここでちょっと筆者が、行動経済学者 ダン・アリエリー氏のオフィスで経験したエピソードを紹介させてください。

ダンの会社は従業員100名ほどの小体な組織で、そのほぼ全員がPhDの研究者です。その名もBEWorks。BE=Behavioral Ecconomicsなので、行動経済学は役に立つ、というダンの信念を体現したような社名です。

ここの社員は、経費を使う際、稟議は求められていません。その代わりに運用されているルールは

・実際に費用を拠出する前に、胸に手を当て、これがもし自分のお金でも同じ使い方をするか?と自問自答し
・答えがYesであれば、会社のクレジットカードを使っても良い

という至ってシンプルなもの。精算も必要ないので、業務のサイズもミニマムで、コストの上でも大きなメリットがある由。

その鷹揚さに驚いてしまうようなこの制度、よく考えてみるとかなり巧みに設計された上手いやり方のように思えます。

まず、この方法は、会社が性善説に立っており、社員に信頼を寄せていることが強力にメッセージできます。そして「信頼されている」という実感は、社員にとって大きなモチベーションの材料になります。

次に、この方法は、事前申請・精算という通常の方法だと社員が感じがちな「管理されている」という感覚を減じ、Autonomy(=自由・自律・裁量)を実感してもらうことができます。管理されている感覚は、モチベーションに良い影響は与えないでしょうし、Autonomyは逆にその源泉です。

つまり、経費の運用という、その会社の業務の本丸とは関係ないところでも、社員のモチベーションを高める仕組みとして使えるし、そのためのメッセージングの媒体になる、という次第。

この逆をいくようなエピソードもあります。

私の知人が務める会社では、コロナの影響でリモートワークが導入されたのですが、始業時から終業時までは少なくとも常時オンラインでいることが求められる由。つまり自宅で仕事していても、いつでもスクリーン越しに上司や同僚に声かけられる環境、というわけで、こうなると自宅に軟禁されているようなものです。

さて。
上の2つのエピソードは、どちらも「社員がどのように働くか」に関係する制度に関することです。

考えてみると、我々人間は、制度設計をするとき、ともすれば「何か問題が生じたら」「制度が悪用されたら」などの仮定に立ち、それを未然に回避するような思想で臨みがちです。常時オンラインのリモートワーク、何ていうのは、その典型ですよね。背後には、社員は放っておくとサボるものである、という考え方があると思われ、これは社員を信頼しない、極めて性悪説ベースな立脚です。

ダンのオフィスの事例は、それとは真逆の思想で作られています。すなわち、性善説をベースに、社員のモチベーションを上げるための制度、という考え方です。プロセスが軽いのでコストも安いという副産物がついているのは、上に記した通り。

どっちの職場で仕事をしたいか、という社員の立場で考えると、、、、、、どうも性善説ベースの方に分がありそうですが、では、この思想で作った制度のもと問題は起きないのでしょうか?

実はこれと全く同じ質問をダンにぶつけてみました。
彼の回答はふるっていました。

・実際これを悪用して経費を誤魔化した社員がいた
・その時は寄せた信頼を裏切られたような気がして制度を変えようと思った
・が、少し考え、例外的な事象を根拠に、この優れた仕組みをやめるのは勿体無い、と考え直した

もちろん、会社のサイズや業容、経営者の考え方によって同じことはできないかもしれませんが、トラブルに対して何か制度をいじるにせよ、反射的に対応するのではなく「性善説をもとにした社員のモチベーション重視」という方針をできるだけ継承する、という考え方が大事だと思わせる内容です。

さらに一歩議論を進めてみると。

上は、制度設計においては

・オートノミーを担保や、信頼のシグナルにより、社員のモチベーションを向上させられる
・従来型の管理ベース・性悪説ベースの思想だと、それは起きにくい

という話ですが、モチベーションの源泉は、オートノミーや信頼だけではありません。

報酬の額よりも、その公平性の方がモチベーションへの影響が大きい、というのは有名な話です。報酬の額に限らず社員間の公平性や、そのベースとなる透明性を制度上どのように担保できるか、というのは、うまく設計できるとモチベーションの向上につながりそうです。

さらに。制度設計は、一旦「社員を管理する」という考え方を離れると、さらにいろいろな活用ができます。

チームのパフォーマンスは個人の合計のそれに勝る、という鉄則から、どこの組織でもいかにチームワークを促進するか、は重要なアジェンダです。

一方で、人が集まった集団では、どこでも課題になるのがサイロ化。
これらを解決する目的で比較的多くの企業がすでに実践しているのがピアボーナスです。

ピアボーナスは、社員が他の社員に対して報酬を支払える、という制度です。これは
・報酬する対象を探すために、同僚に関心を持つようになる
・報酬する対象、してくれた相手に対する親近感が生じる
ということを起こすことにより、チーム内でのアジェンダを増やし、コミュニケーションが発生しやすい環境にするとともに、建設的な仕事ができる土壌ができる、という大きなメリットがあります。チームワーク、円滑になりそうですね。

以上、組織において制度が持つ力についていろいろ考えてきました。

今回のCOMEMOのお題は、2023年の働き方。

筆者としては、知人の企業のような性悪説ベース・管理ベースの制度の勢いが弱まり、逆に性善説ベースで、モチベーション・チームワーク向上などによるパフォーマンスを狙いとした制度がメジャーになっていく、ということを願望まじりで指摘し、2022年の筆を置きたいと思います。

2023年も、引き続きよろしくお願いいたします。読者のみなさま、どうか良いお年を!


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