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コロナで加速する個人化をどうとらえるか デフレーミングの新展開

コロナ禍で多くの人が経済的な困難に直面するなか、一つの大きなニュースは、2020年度上半期だけでギグワーカーが100万人も増加したというものである。

私が『デフレーミング戦略』を出版したのは2019年7月であった。そのエッセンスの一つが、プラットフォーム技術の進展や、インターネットによる個人のエンパワーメントなどが相まって、これから企業という枠を超え、個人で働く場面が増えてくるという「個人化」であった。

その後、新型コロナウイルスのパンデミックの状況になり、この「個人化」が予想をはるかに超えた勢いで進展している。また、この1年で見られる個人化には様々な目的や形態の違いがあることが分かってきた。ここでは最近の個人化の状況を概観し、類型化して考えてみたい。

デフレーミング第3の要素 個人化とは

私のnoteを読んでいただいたことのある方は馴染みがあるかもしれないが、デフレーミングとは、フレーム(枠組み)が無くなるという意味の造語である。その定義を簡潔に示すと、『伝統的なサービスや組織の「枠組み」を越えて、内部要素を組み合わせたり、カスタマイズすることで、ユーザーのニーズに応えるサービスを提供すること』であり、3つの要素から構成される。

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図 デフレーミングの3つの要素

そして、その第3の要素が「個人化」である。

そして第三の要素が「個人化」です。これは、企業に所属し、専属的に働くだけでなく、フリーランスやクラウドソーシングなど、個人として働く場面が増えてきていることを指します。個人事業主として働くだけでなく、これからは兼業・副業など組織に所属しながらも、補完的に個人のスキルや意欲を発揮する場面も増えてくるでしょう。国内外でフリーランサーやクラウドワーカーの増加という形で広がりが見られますが、YouTuberやインスタグラム等で活動するインフルエンサーといった働き方も出てきています。その一方で、個人に立脚して働くうえでは孤立化を防いだり、知識の創発に必要なコミュニケーションをいかに確保するかも重要であり、その観点からコワーキングスペースの重要性も高まっています。「個人化」は、デジタル化がもたらす組織運営や働き方に関する変革です。(過去のnoteより)

上記では主に平常時における働き手の立場から、多様で自律的な働き方に焦点を当てているが、コロナ禍の状況になり、個人化はまた違った側面も見せている。

緊急時の雇用の受け皿としてのギグワーク

冒頭で紹介したギグワーカー100万人増加というニュースはその一つだ。

背景にはコロナによる雇用環境の悪化がある。4月の休業者数は過去最高の597万人に達した。収入減をクラウドソーシングで補おうとする人が増えている。(上記日本経済新聞より)

上記のように、コロナ禍によって仕事を失った人、給与が減少した人などが、緊急避難的にクラウドソーシングで収入を補う形でギグワークが使われていることが示唆されている。特にUber Eatsなどの配送は、テレワーク・在宅勤務による宅配需要の増加に伴って仕事が増加したのかもしれない。

もちろん、こうしたギグワークには、給与水準が低い、収入が不安定であるといった問題も指摘されており、英国ではUberの運転手を労働者扱いとする判決が出たばかりである。

その一方で、ギグワークだからこそ、いつでも、すぐに働き始められるといったメリットや、企業側も柔軟に仕事を発注できるという面もあり、特にコロナ禍のような急激な経済的変化の下ではデメリットばかりとは言えないかもしれない。

また、特に我が国では生活保護制度の利用ハードルが高く、極度に困窮しなければ受給できない点が課題として指摘されている。そのため、そこまでは至らないレベルで収入を補完し、現在の生活を守る手段としてギグワークが必要とされた面もあるだろう。

長期的にはベーシックインカムのように、煩雑な手続きなく生活を保障する制度や、ギグワーカー向けの収入保障保険、融資、仕事の融通、コミュニティ機能なども検討すべきであるが、ギグワーカー向けの制度としては一部で検討が始まっているようだ。


事業難に直面する企業からの副業

また、コロナ禍による事業難に直面した企業が、従業員の雇用を守るために兼業・副業を取り入れるケースも見られる。

ANAがそうした取り組みを行っているが、雇用を維持しつつ、社員が他の企業で働き、収入を得ることを認める制度を拡充している。

ANAは食、観光、国際交流といった観点で社員の出向も進めており、急激な環境変化への対応を進めている。

社員のケイパビリティ向上策として

その一方で、コロナ禍への対応というよりも、より中長期的な戦略として個人化を取り入れている事例も増えてきている。

みずほフィナンシャル・グループは副業を解禁し、社外で多様な経験を積むことを認める方向へと舵を切った。

同様の取り組みはIHIにも見られるが、ここでも社員が本業とは異なる分野で知見を磨いたり、デジタル・トランスフォーメーションのスキルを磨いたりすることを意図しているようだ。

電通は一部の社員を個人事業主化して、業務委託契約に転換する取り組みを始めた。これによって社員が電通だけでなく様々な仕事に携わることができるようになり、電通にとっても新しい事業機会の獲得に繋がることを期待しているようだ。実質的なリストラではないかとの見方もあるため、慎重に見極める必要があるが、社員との業務委託契約の導入は以前から少しづつ様々な企業で取り組まれてきた。

外部人材の柔軟な活用

また、組織が外部人材を柔軟に活用したいという意図から、兼業・副業を受け入れるというケースも出てきている。

ヤフーはギグパートナー制度を導入したが、約100人の募集枠に4,500人もの応募があったという。技術力やデジタルビジネスへの知見などを持つビジネスパーソンが、本業とは異なる場面で新しい体験をしたり、自分の力を活かす場として、関心を持った結果であろう。

さらには、政府のデジタル戦略の司令塔となる「デジタル庁」も民間からの人材登用を大々的に行った。ここでも兼業やテレワークなど柔軟な働き方が可能とされている。

もともと政府にはITに精通した人材が少ないこともあり、民間リソースの活用は不可欠だ。しかし完全な正職員となると評価やキャリアパスの点で障壁も多い。まずはこうした柔軟な人材登用で政府のデジタル化を進めようという狙いである。


以上のように、個人化はここ1年の間に急激な勢いで進んできた。その一部はコロナ禍による経済的影響への対応によるものであり、その実態や影響はより精緻に見て行く必要があるだろう。

一方、より長期的なトレンドとして、企業が個人のスキルをより活用し、個人も自らのスキルや意欲を活かそうとする試みも進んできた1年であった。

今後、個人化がどのように展開していくか、継続して注視していく必要があるだろう。




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