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アフターコロナの都市のあり方を示す「インターネット・オブ・プレイス」とは何か


新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワーク・在宅勤務が普及する中で、働き方、住み方を見直す機運が高まっている。その多くは、地方移住など、これまでの大都市への一極集中に対して考え直すような内容を伴うものだ。

しかし、大都市と地方の関係性や、働き、住むための「場」のデザインは、コロナ以前から変わり始めていたのではないかと考えている。コロナはこうした動きを加速したに過ぎない。

筆者らはこうした新たな都市と場(プレイス)のあり方を検討するため、「プラットフォームとしての都市」と題した研究プロジェクトを行っている(東京大学大学院情報学環と三菱地所株式会社の共同研究)。本研究は、マッチング、価値の交換、信⽤の仲介、ネットワーク効果といったデジタル・プラットフォームで議論されてきた理論を踏まえ、デフレーミングの手法で都市と場の機能を再構築して捉えなおすものである。

本研究では、今後の大都市と地方の関係性や、人々が諸活動を行う場のデザインを検討し、一つの概念にまとめてきた。その概念を我々は「インターネット・オブ・プレイス(Internet of Place: IoP)」と名付けている。

「インターネット・オブ・プレイス」はIoT(Internet of Things)になぞらえた言葉だが、データ連携のみならず、より社会経済的な場のネットワークを含んだ意味で使用している。今回は、まだ検討途上であるものの、この研究会で議論している「インターネット・オブ・プレイス」の概要を紹介したい。

大都市と地方の二元論を越える

これまでの都市は、生活圏となる一定の地理的範囲において、働き、住み、遊ぶための場所を包括的に提供してきた。遊びに関してはレジャーや旅行で遠出する場合があるものの、大半の趣味や娯楽などは概ね同じ地域で行えるよう設計され、また人々もその前提で生活の基盤となる場所を選んできた。

こうした中で、多様な人々と出会う効果や、取引コスト削減の観点から、大都市の集積効果が発揮され、大きな都市はより大きくなり、地方の人口はより少なくなるという現象が長く続いてきた。

人や企業の集積が進み、固定化していく中で、大都市と地方の間には経済の活性度合いに大きな差が生まれ、それが自治体の財政状況にも反映されるようになってきた。また人々の居住地選択の基準においても、大都市=仕事には良いが住環境は悪い、地方=住環境は良いが仕事がしにくい、という二元論の関係が生まれてきた。

大都市と地方を取り巻く環境変化

しかし、様々な環境変化により、こうした大都市と地方の二元論を越えられる可能性が出てきている。それらの変化を以下の3点にまとめたい。

第一が、情報通信技術の発達による場所の制約の低減である。コロナで多くの人が認識するようになったように、日本中どこにいても、大抵の場所であればテレワークを行える通信環境とサービスにアクセスできる。また、インターネット通販と物流網の発達により、どこにいても簡単に買い物をすることができるようになった。街に映画館がなくとも、動画配信サービスで最新の映画やエンターテイメントに触れることができる。

また、サイバー空間でのワークプレイスも近年急速に普及した分野の一つである。Slack、Zoom、Microsoft Teams、Githubなど、コミュニケーションだけでなく、共に働く人の関係性を維持し、コラボレーションを支える技術群が大きく普及してきた。また、教育コンテンツやニュース、言論空間もインターネット上のものが占める割合が多くなり、どこにいても最新の知識にアクセスでき、また知識を生み出して発信することができる。

第二に、自然環境や、食、文化など、地方が得意とする領域への価値が高まっている点が挙げられる。例えば長野県飯綱市に本社を構えるサンクゼールは、地元や地方の農産品、加工食品を全国に展開している。そこでは地域の歴史や自然環境に基づくストーリーが、商品やサービスに付加価値を与えている。また、アウトドア商品を展開するスノーピークは、新潟県三条市に本社を置いている。本社直結の広大なキャンプ場は、キャンパーたちの憧れの地になっており、また、三条市の金属加工産業の伝統と技術がその製品のブランド価値に反映されている。こうした地域の自然、食、文化、歴史といった要素が付加価値となり、低廉な不動産価格とも相まって地方の価値の見直しにつながっている。

第三の変化が、産業構造の個人化である。以前、デフレーミングでも記載したように、個人が組織の枠に捉われることなく、自律的に働ける社会経済システムへと変化しつつある。フリーランスや起業家だけでなく、雇用労働者でも、兼業・副業など、個人として働ける場面が増えている。こうした中で、都市においても個人に立脚した活動をどうサポートしていけるかが重要となっている。コワーキングスペースの増加はその一つであるが、孤立化を防ぎ、創発を生み出すためのコミュニケーションを支える新たな仕組みが求められている。

活動とプレイスのデフレーミング

こうした環境変化のなかで、どうすれば人々の「働く・住む・遊ぶ」に対する潜在的なニーズをより高い次元で満たすことができるだろうか。また、社会や地域において、イノベーションを生み出す活力を高め、そして大都市と地方の双方が繁栄に向かえるような社会を実現することができるだろうか。

そのためには、人間活動と場(プレイス)を分解し、それぞれに適した場所をサイバー、リアルに捉われずに組み直していくことが必要だと考えている。なお、ここで物理的(および電子的)で客観的な空間を意味する「スペース」に対して、「プレイス」はスペースに人々の活動や文脈を紐づけ、意味づけられた場を意味する。

デフレーミングの考え方を応用すれば、そうした意味付けられた場としてのプレイスを一つ一つ検証し、分解し、再統合することができる。また、その再統合は固定的でなく、時と場合によってダイナミックにスペースに与えられた意味づけを変えていくこともできるだろう。

インターネット・オブ・プレイスの概念

上記のような環境変化を踏まえ、活動とプレイスのデフレーミングという観点を加えて導出されてきたのが「インターネット・オブ・プレイス」という概念である。これは、大都市と地方、サイバーとフィジカルといった二元論に捉われず、人々が行う諸活動のために最適な場を組み合わせ、人々が柔軟にそれらの場を活用できる状態である。

なお、インターネット・オブ・プレイスという言葉は、IoT(Internet of Things)の特殊形態として、場所に紐づくデータの連携という意味合いで使われる場合もある。しかし我々の研究では、それらを含みながらも、より社会経済的な意味合いでのプレイスの相互連携を示す言葉として用いている。

プレイスは都市と地方、サイバーとフィジカル、組織の内外など多種多様なレベルのものがあり得るが、それぞれのプレイスはプラットフォーム機能を提供するものと捉えている。すなわち、マッチング、価値の交換、信用の仲介といったプラットフォーム理論に基づく機能を持ち、ネットワーク効果が働くものである。

一方で、インターネット・オブ・プレイスが目指すのは、一か所への集積ではなく、プレイス間のネットワークである。こうしたネットワークは、既存の仕組みでは姉妹都市などがあるが、インターネット・オブ・プレイスはこれをより日常化、多層化、柔軟化していくものである。

インターネット・オブ・プレイスでは、プレイスのネットワーク上で、人や組織が今までよりも柔軟に動き回ることができる。これまでは、オフィスビルなど固定的な場の中にいくつかの組織が入り、それらの組織の中に雇用されている人がいる、という縦の構造が中心であった。

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これまでのプレイスと人の関係

それに対して、インターネット・オブ・プレイスでは、プレイス間を、人も組織も柔軟に行き来できるようになる。また、組織に属せず働く人も増える中で、組織を介さずにプレイスを直接使う場面もある。これは、プレイスの果たす役割がこれまでより重要になることを示しており、個人化を支えるコワーキングスペースの増加にも見られることである。

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インターネット・オブ・プレイスにおける関係

このように、インターネット・オブ・プレイスは、プレイス、組織、人といった複数のレイヤーにおいて、既存の枠組みや意味づけを分解し、重層的なネットワークで再結合したものである。また、これは柔軟に組み合わせ直すことができるダイナミックなものである。多様なプレイスによる多層ネットワークを利用することによって、人も組織も境界を越えて自由に繋がり、その可能性を活かすことができるものである*。

先述の通り、この概念は生活に対する人々の潜在的なニーズをより高い次元で満たすとともに、社会の活力を高め、そして都市と地方の双方がより繁栄するための方向性として検討しているものである。今後、さらに検討を深め、まとまった形で発信していきたいと考えている。


(注記)
*一人の人間が複数のコミュニティで異なる役割を果たす分人の考え方との関連も議論している。

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