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中国のライドシェアはなぜこんなに便利になったのか。Uberをも凌駕する小隊長制度の秀逸さ

先日、中国のいろんな街でBaiduアポロプロジェクトの自動運転タクシーがどんどん普及しています、という投稿をしました。多くの人が読んでくれて、日本の皆さんがライドシェアやタクシー雇用、自動車の話題に興味があることを再認識しました。

このnoteを読んで、中国のシェアタクシーは何種類かあるんですか?との質問をもらいました。日本でのGoタクシーアプリではタクシーとハイヤーの二種類かもしれませんが、中国ライドシェアの場合は様々な分類の車を呼ぶことができます。

拼车:システム任せの相乗り
快车:白タク
出租车:専業タクシーの車両
专车:優良白タク
豪华车:AudiやBenz、BMWなどの車種の白タク
代驾:代行運転

など選べる選択肢がとても多いです。と、これを見てもよくわからない、特に相乗りについて馴染みがないと思うのでもう少し補足して解説しますと、拼车を使って白タクで、乗車地と降車地での近い乗客が相乗りしたりできます。

ドライバーからしたら、同じ道を走っているのに1人分のタクシー運賃より少し多めに稼げるのだから効率は良いし、乗客からしてもかなり安く乗れるのでメリットを感じる人も多いです。ちなみに値段はこんな感じです↓

上の一覧を見た後ですと、なんとなく伝わりますでしょうか

例えば、滴滴(Didi)で北京の首都国際空港第三ターミナルから北京のニューオータニホテルまで設定すれば、高速費抜きで正式タクシーの料金は約95元(混み具合にもよる)、知らない人と相乗り乗車の場合(最大三人、たまに若干遠回りますが基本的には同じルートの人)、一人は34.3元になります。白タクでクーポンなしの場合は約74元、優良白タクの場合は正式タクシーとそんな変わらない97元。豪華車の場合は260元程度です。

様々な選択肢があることは個人的にはメリットしかないです。自分で使ってもよし、他人のために呼んでもよし、ビジネスの面での利用も非常に便利です。

と、前置きが長くなりました。今日は中国のライドシェアの話です。中国版のUberこと滴滴(Didi)に関するもので、2000万人近いドライバーをどうやってマネージメントしたり安全管理を行っているのか?やドライバーの収入アップをどのように図っているのか?といった内容が話題だったので紹介しましょう。

■中国ライドシェアの規模は数字で見るとすごいインパクト

2023年に中国で新たに148.2万人の配車ドライバーが増えたという交通省からのデータを見るだけでも中国の人の多さとライドシェア業界の雇用のインパクトがわかるかと思います。

Didiの財務報告によると、2023年の1年間で1900万人以上が滴滴で配車の仕事を受注(そのほとんどが配車サービス)しているそうです。そのうち200万人は毎日稼働していて、さらにそのうち80万人のドライバーは1日平均8時間以上稼働する、”フルタイムのドライバー”となっているとのこと。

ちなみに世界で展開しているUberは2023年3月末時点で、月次の稼働ドライバー数が全世界で570万人。70以上の国で展開してるというのはすごいですね。

これだけのドライバーを管理し、さらにやる気をもって毎日働いてもらい、サービスを成長させていくのは難易度がとても高いとネット民が議論していますが、Didiはこれをやってのけています。

↑以前はネガティブな話題も多かったDidiの努力の賜物です。Didiは、ライドシェアが始まったころの各社シェア争いからトップに立った後、2018年ころから徐々に大規模なシステムを構築し始め、より透明性の高いルール、一定の昇進機会、新しい収入分配メカニズムを提供しています。

今ではDidiの中国配車チームは、ドライバー管理、安全対策、トラブル処理のために7000人以上を雇用していて、もはやただのライドシェアプラットフォームというよりも、中国の交通運輸サービスインフラ企業といってもいいでしょう。

ドライバーにインセンティブを与え、かつ安全対策を実現する仕組み。ドライバーを乗客が評価して、質が低く努力の足りないドライバーはレーティングが下がり淘汰されていくシステムはUberやGrabでも採用され、とても良くできていますよね。そして、今回Didiを調べていてボクが今まで知らなかった、面白いなと思ったのはDidiの小隊長システム。

評価値を積み上げ、小隊長になり昇格する、といった形でDidはドライバーの収入アップの道筋を設けています。ちなみに、評判値は「出行分」、「サービス分」の2つ。「出行分」とはプラットフォームからの評価で、月間の配車回数やピーク時のオンライン時間などが反映され、「サービス分」は乗車客からのレーティング、ドライバーへの評価や違反、苦情などです。

2023年のDidiプラットフォームには約2万人の「ドライバー小隊長」がいて、40-60人のドライバーごとに優秀なドライバー1人を小隊長に任命。小隊内の他のドライバーの管理を補助させていて、小隊長は、隊員に毎日の出勤を促したり、新人のフォローをしたり、各種ポリシーやインセンティブ制度を周知したりすることが求められます。この対価として小隊長には毎月追加のサラリーがDidiから支払われる。さらに、小隊長からもっと評価を高めて専用車のドライバーに昇格すると収入を大幅に増やすことができるようです。

個人的には、この人材管理システムの構築は非常に優れたものだと思います。もともとまとめにくい、いわゆるアウトソーシングみたいな運転手さんのモチベーションを保ちつつDIDIのために働いてくれるか、を解決する最高の知恵と言っても過言ではないです。

具体的には、働けば働くほど、良いサービス提供すればするほど、オーダーが少ない時にオーダーが取りやすくなり、比較的良いオーダーが分配されます。例えば朝晩の激混みの通勤時間を運転手は嫌がりますが、この時間で働ければより多くの点数が稼げます。安全運転や乗客から高い評価を貰えば、点数も高くなります。すると良いオーダーが分配され、他の運転手との収入の差が出るのです。

ただ実際に運転手と話してみると、本来ちゃんと働いてもらうためのインセンティブシステムがもはや資本家からのニンジンと感じる、自分がロバのようにプラットフォームの都合で動かなければならないと嫌がる意見も多いですが。

■2018年の事故とUberとの違い

ネット配車サービスがグローバル市場で素早く展開できたのは、初期の軽量運営モデルによるところが大きい。Uberの有名な「3人組」モデル(1人が市場、1人が運転手管理、1人がその他業務を担当)では、わずか3人で新規都市に参入できました。

Didiも創業当初はこのモデルを信奉し、自らを軽量ITインターネット企業と位置づけていて、需給関係に基づく価格設定と補助金支給で情報の非対称性を解消できれば、移動産業を変革できると考えていたようです。しかし2018年に起きた2件の相乗り事故を機に一変します。

当時、組織全体が事故の影響を受け、士気が著しく低下。チームは崩壊寸前だったという記事もありました。ただ、当時のCEO柳青(リュウチン)は、変革を推進。リスクの高い相乗りサービスは一時運休・改革され、その後10か月をかけて370万人のドライバーの資格を再審査。この審査では30.6万人のハイリスクドライバーを排除するという本気ぶりを見せました。

さらに、このタイミングから、優秀なドライバーを隊長に任命する小隊長制度を開始。プラットフォームがドライバーの状況を把握したり、ドライバー間で経験を共有・助け合うよう促し、安全性の向上につながるだけではなく、業務が以前より遥かに効率化されました。

そして、今現在ではDidi中国の配車事業には約1万人の従業員が雇用されていて、技術開発・本社運営部門が約3,000人、安全・ドライバー管理・地域運営関連で約7,000人(安全部門には約900人、ドライバーと乗客のトラブル処理を専門とする判定チームが約1,300人在籍)いる巨大企業です。

冒頭のnoteのリンクでも紹介したように、今後は自動運転タクシーがどんどん普及してくる中でDidiがどのようなビジネスを展開してくるのかすごく興味があります。この分野、また面白い内容を見つけたら紹介していきますので、ぜひハートでの応援とフォローをお願いします。

(参考資料)


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