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土用の丑の日の「うなぎ」に、日本のモノづくりの本質を観る

本日は土用の丑の日、うなぎを食べる。今年はうなぎ屋だけでなく、外食チェーンで、ファミレスで、スーパーで、弁当店で、うなぎを見かける。うなぎはうなぎ屋で食べるものだった頃から、夏が暑くなり夏が長くなってから、夏のうなぎをいろいろな場で見かけるようになった。気のせいか?

土用の丑の日とはなにか?中国の暦の12支由来で、土用とは立春・立夏・立秋・立冬の前の18日間、丑の日は12日周期で丑の日がやってくる。土用の丑はこの組み合わせで、今年の土用の丑の日は6日あり、夏土用の丑の日は7月24日と8月5日である
 
なぜ夏土用の丑の日に、うなぎを食べるようになったのか?古来より、丑の日に「うのつく食べ物」を食べると縁起が良いと、うどんや瓜や梅干しなどを食べて無病息災を願った。とりわけ暑い夏を乗り切るために、精がつくと信じられていたうなぎを食べるようになった
 
夏の土用の丑を食べるようになった所説のひとつ。天然うなぎの主流は秋から冬で、江戸時代にうなぎ屋さんが「夏場にうなぎが売れない、どうかならないでしょうか?」と蘭学者でアイデアマンの平賀源内に相談したところ、「土用の丑の日はうなぎの日」と店頭に張り紙してたらどうかとアドバイスされ、実践したら人気となった。他店もこれを真似して成功した。これを契機に、夏の土用の丑の日にうなぎを食べることが定着した。これが本当ならば、250年つづくマーケティングの成功事例である

ともあれ、土用の丑の日うなぎに
これからの日本のヒントを感じる


1 うなぎとラーメンの物語

7月の新聞の折りこみスーパーのチラシには、うなぎが躍る。うなぎ蒲焼に写真がいっぱい並ぶ。そのうなぎの横に並ぶコピーは、かつては「産地訴求」が中心だったが、現在はそれだけではない

「こだわり」という言葉が多い

養鰻場での気候・地下水の活用など飼育へのこだわり、無投薬飼育・うなぎの成長に合わせた餌のこだわり、うなぎの健康状態を把握する飼育管理へのこだわり、焼き・タレなどで香ばしい焼き上げなど調理へのこだわりなど、産地から調理場・店頭・食卓までのバリューチェーンでの安全・安心・美味しさへのこだわりをPRしている

静岡県浜松や愛知県豊橋に出張するときは、いつも浜名湖のうなぎを食べた

やっぱりうなぎは浜松じゃないと

産地は鹿児島じゃないと。うなぎの蒲焼は関東風の「背開き」と関西風の「腹開き」に分かれ、名古屋は「ひつまぶし」と、地域で違った。うなぎ産地と焼き方と秘伝タレが、うなぎ屋さんの差別化戦略だった
 
そのうなぎビジネスが変化している。産地、生育・生産、輸送、冷蔵、調理、販売といったサプライチェーンの各プロセスの現場の改善活動と創意工夫で、うなぎのバリューチェーンが高められた。目に見えて変わった

ラーメンビジネスの進化とシンクロする 

ラーメン店では、10年前から、麺・タレ・スープの種類を組み合わせて、自分好みのラーメンが食べられるようになった。何百通りの組み合わせで、オリジナルのラーメンが食べられることに感激した
 
その後、個性的なラーメン店が増え、ラーメン店の人気が一気に高まった。このラーメン店の成功要因は、Well‐Beingの「①自己選択できる ②自己決定できる ③自己責任である」という3原則を踏まえた、自分好みのカスタムラーメンが食べられるラーメン店を開発したことにも、そのひとつではないか

2 世界が「日本式」を真似する

「ゲーセン」や「クレーンゲーム」は日本の発明ではないが、ルーツを洗練させて進化させた日本式サービスモデルが世界に拡がっている。ベンチマーク、物真似、模倣、海賊版、パクリと言い方はいろいろとあるが、日本モデルであることが消えて、日本は収益を上げられていない

ビジネスは、なにかを観たり聴いたり感じたり学んで、触発され着想を得て、なにかを生むことが多い。なにかに刺激を受け、新たなモノ・コトを生みだす思考プロセス「類推(アナロジー)」がビジネスのひとつの型である

世界で成功しているビジネスで、日本を「通過」しているものがある。日本のビジネスに着想やアイデアを得て、日本的なモノ・コト・サービスをベースにして世界で成功する。日本に観光やビジネスに来て、観たり聴いたりして、感動したこと、感激した「日本式」を軸に、世界で成功していることがある。逆もまた然り、日本もそうだった

このような事例が増えている。アニメや漫画やコスプレや玩具や生活品や家電や料理など、枚挙にいとまがない。日本文化が世界で拡がって、よかったね、すごいね、素晴らしいねと持て囃されて、満足するだけではいけない。良い人で終わってはいけない

ビジネスにつなげられていない
一円でも儲けないといけない

3 カワイイ「スリッパと弁当箱」物語

⑴   日本文化を象徴するスリッパ

外から家に帰ってきたら、靴を脱ぐ。家のなかでは、それぞれの場所ごとにスリッパを履いたり脱いだり別のスリッパを履く。ベランダや庭に出るときは、下駄を履く。勝手口から“ちょっと買い物”と下駄で外に出ると、カランコロンと音がするので、形状を工夫して

音がしない「つっかけ」が生まれた 

この「つっかけ」は変化する。ファッション性を高め、街のなかで普通に履いて歩ける「つっかけ」に進化する
 
また着物時代の足袋から、「地下足袋」がうまれた。親指が一本出た地下足袋を、昔のマラソン選手は履いた。日本人は力仕事をするとき、親指に力を入れて地面を蹴る。だから親指が分かれていないと、足に豆ができる。日本人の運動スタイルが、地下足袋を生んだ。日本人は、下駄・草履・地下足袋・つっかけと転じて、次は

「ビーチサンダル」を発明した

“履いていたら乾く”という誰も考えつかなかった機能を加えた。石文化の西洋では、サンダルは足を痛めるので履かなかったが、日本人が足にやさしいサンダルに進化させたので、“すばらしい、いいね”となって、世界中の人が履くようになった。これらが日本式ものづくりの本質

⑵ ぬいぐるみを履いた日本人
 スリッパは、さらに多様化する
熊や猫がのっかり、可愛らしく、もこもこした内履き・部屋履きスリッパに、世界は熱狂した。カワイイ履き物!と、日本のお土産として買う。ぬいぐるみのスリッパが世界アイテムとなった。これも日本発なのだが、多くの日本人は気づいていないが

“ぬいぐるみを履く“という発想は
世界にはなかった

スリッパを履くならば、ふわふわしたほうがいい。ふかふかした生地を使うのならば、カワイイほうがいい

それで、熊や猫をつけた

しかし熊やスリッパは“部屋履き”である機能ははずさない。フワフワで、気持ちよく、あったかく、それに動物の顔をくっつけて、ぬいぐるみみたいになって、なおかつスリッパである
 
日本人は精神性をはずさず、機能性を満足させ、洗練させ、そのうえでカワイイものにする。カワイイスリッパだけではない、スリッパの機能を必ず満たす。バッグがカワイイ、ハンカチもカワイイ、スマホのケースもカワイイと、生活全般に

「カワイイ」を拡げる 

⑶ カワイイ弁当箱
まだまだある。
カワイイ弁当箱も、ふたを開けたら猫の顔が出てくる「キャラ弁当」も、決して「弁当箱」であることを外していない

弁当の原型は江戸時代にある
「メンパ」と呼ぶ木製の箱に、家で調理した食べ物をつめて、外での仕事や旅のためにメンパを外に持って出た。“外にいながら、内を感じられる” “内と外をつなぐ”という精神性を込めて、パーソナル用の「主食と菜(な)」をセットにして、持ちはこんでもこぼれない

しかも愛母弁当・愛妻弁当として想いが込められるという “弁当”を今も学校や職場に持って行き、食べている。江戸時代の流儀が今に続いている。その弁当が「BENTO」という世界語となり、「キャラ弁」としても発展して世界に拡がっているが、日本人の多くの人はそのことに気がついていない

note日経COMEMO(池永)「スリッパ物語(下)」

4 モノづくりにこだわる

日本人は与えられた「レギュレーション(規則)とルール」のなかで、なにができるかを徹底的に考えて、洗練させ、かつ多様化させるのが得意だった
 
欧米の人は“スリッパは、こんなものだろう”と考えるが、日本人はスリッパにこだわる。スリッパというお題があれば、そのスリッパをもっと楽しいものにできないか、カワイイものにできないか、キレイなものできないかと考えて、スリッパをいろいろなものに転じる

ただし精神性、機能、根本を変えない

その範囲のなかで、どっちみちならカワイイものを、どっちみちならば楽しいものにという発想で、物事を多様化させていった

日本の生きる道は、このモノづくりにあるのではないか?
モノやコトの本質と価値観を外さず、そのうえで転じて、幅広く展開し、創意工夫して多様化させる。スリッパならばスリッパに、弁当は弁当にこだわったうえで、転じる
 
傘もそう。傘ならば傘の領域で、どこまで行っても傘にこだわり、キレイな傘、カワイイ傘、折れない傘、折りたためる傘へと転じるが、どれも傘であることを外さない

日本的なモノづくりは
本質・精神性にこだわる

ビーチサンダルしかり、折りたたみ傘しかり、これまでやってきたことを活かす道はないのか、生き残る道はないのかと試行錯誤するなかで、いっぱいの失敗を経験して、“これ、いいのとちがうか?” “みんな、喜ぶのとちがうか”?という価値あるモノやコトを追求して生み出してきた

うなぎもラーメンも、この日本的モノづくりが活きている。なんどもなんども試行錯誤と失敗を繰り返して、現在にたどり着いたが、現在にも満足していない

店頭に並ぶ「うなぎ」に、日本の未来を観た


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