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副業の場合の労働時間の問題を本腰を入れて検討すべき

規制改革推進会議において来年夏の答申に向けた議論が開始されました。

上記記事にあるように、「副業・兼業の円滑化」も検討課題として挙げられており、労働時間の問題についても議論されるようです。

この点については、かねてからnoteに書いてきたところですが、これまで書いてこなかった課題について書いておきたいと思います。

※以下の記事も参考にしていただけると嬉しいです。


厚労省の整理は「知らなければ責任なし」

まず、前提として、厚生労働省は令和2年9月1日発出の解釈通達において、「労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、 労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間 が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時 間によって通算していれば足りる」としています。

つまりは、しらなければ責任はなしという解釈になっています。

残業代請求は「知らなければ責任なし」ではないのでは?

厚労省の解釈は、工場法時代からの解釈として「知らなければ故意がなく刑事責任がない」ということが前提とされていると思われます。

もっとも、企業にとってのリスクは、行政上、刑事上の責任のみではなく、対従業員との関係での民事上の責任、すなわち残業代請求でしょう。

「これも知らなければ責任なしで良いのでは?」と思われるかもしれませんが、理屈はそう簡単ではありません。

なぜなら、一般的に、残業代の請求のためには使用者の故意は要件ではなく、そうである以上「故意がない」ということは反論にならないからです。

裁判例では「確定的な認識がない」として使用者側を勝たせたものがありますが、条文上故意が要件でない以上は理論的な疑問は残ります。

「後から言われたらどうするか」はよくわからないことになる

結局、「知らなければ責任なし」というのは故意が犯罪の成立要件となる刑事責任との関係ではいえても、民事上の責任との関係では明確な根拠を欠いており、厚労省の一方的な解釈論に過ぎないということなります。

したがって、司法判断がそれに依拠するかは分かりません。

これに関してもう一つ問題になるのが、「後から言われたらどうするか」です。
厚労省の解釈通達は、この点に触れられていませんが、この点は実務的には問題になりやすいといえます。

考え方は2通りあるでしょう。

まずは、賃金請求権は各月の給与締日で確定するので、その時点で申告がなければ払わなくてよいという考え方でしょう。

他方で、通常の残業代請求のように、消滅時効の範囲内である限りは、後からの申告でも残業代の請求は可能という考え方もあり得るでしょう。

この点の結論は、正直私も分からないところです。
前者だと企業側は助かるでしょう。また、後者の場合は、信義則などの一般条項で処理する方法もあり得ます。

もう少し理屈を詰めた議論を期待したい

上記のような議論は、私のような若手(多分)弁護士でも容易に考え付く論点です。
しかし、厚労省の現在の整理は、こうした理論的な問題に対する回答がなく、結果的にかえって難しい論点(後から申告されたらどうするか問題)を惹起させているといえます。

今後の議論では、もう少しちゃんと理屈面を踏まえた検討を望みます。

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