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副業の労働時間通算解釈の変更を法改正でやるか通達改正でやるかは大きな問題

副業・兼業の場合の労働時間通算のルールが見直されるようです。

詳細はまだ不明ですが、記事によると現在厚労省で行われている有識者会議(おそらく労働基準関係法制研究会と思われます)の報告書で「通算管理の仕組みをなくす方針」を示し、労政審で詳細を議論するようです。

記事だと「通算管理」とあるだけなのでハッキリわからないところもありますが、おそらくは副業の場合の割増賃金支払義務や上限規制等の関係での労働時間の通算を不要にするものと思われます。

通算解釈の廃止には賛成

このテーマについてはこれまでたくさん書いてきたとおり、個人的には通算解釈には反対でしたので、今回の方向性が出ることは喜ばしいと考えています(他の私の記事も読んでいただけると嬉しいです)。

私が反対している理由はいくつかあります。

① 通算方法が複雑すぎ、負担が重い

まずは単純に実務上管理が複雑になりすぎるということです。
これは、厚労省としては「管理モデルを出したではないか」という反論があるのでしょうが、管理モデルは本業先、副業先の両方のOKが出ないと使えないので、常にこれが利用できるわけではありません。

また、変形労働時間制などの特別の労働時間制を適用している場合には、さらに通算方法が複雑です。
特に、フレックスタイム制になると、通常の企業の人が理解するのは極めて困難と言えます。

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001079959.pdf

こうした通算方法の複雑さから、法的に有効かどうかはともかく、多くの企業では、「業務委託型」の副業のみを許容するという形になっており、ある種いびつな形になっていました。

実際、私のお客様でも、副業を認めたいということで相談に来られるものの労働時間の話を聞くと、「一旦ペンディングにします…」としてストップすることが多かったです。

② 解釈論上「通算する」と読めないのではないか

上記①は、実務負担の観点からの意見でしたが、より踏み込むと、そもそも解釈論として「通算」が成り立たないではないかとも思っています。

そもそも厚労省が労働時間を「通算する」としているのは、労基法38条1項の「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」という条文の中の「事業場を異にする場合」には「事業主を異にする場合」も含むのだと「解釈」しているからです(昭和23年5月14日付け基発第769号)。

つまり、実は条文にはハッキリとは書いていないことなのです。

そのため、学説上は、「事業主を異にする場合は含まない」とする非通算説も有力です。

個人的にも、上記のようなフレックスタイム制の場合の通算は、Q&Aにびっしりと考え方を書いていますが、労働基準法上はどこにもそのようなことは書いていません。
つまり、労政審もとおしていないQ&Aだけで、極めて複雑な通算方法を決めてしまっているのです。
これはもはや解釈の余地を超えていると考えています。

③通算が副業者の利益になるか

また、労働時間の通算は労働者保護のため必要だというのが厚労省の主張でしたが、それも疑問です。一つの会社のなかで指揮命令を受けて長時間労働を行うのと、複数の会社で併せて長時間労働になるのとでは、副業を行うタイミングでは自らの意思で開始するので、違うはずなのです。

そもそも、通算によって、副業先では、所定労働時間の1時間目から残業代が発生する可能性があるので、そもそも副業先が雇用するか疑問ですし、雇用されたとして、申告しないことが想定されます。

通算解釈の廃止を法改正ですべきか、通達改正ですべきか

では、通算を不要とする場合であっても、それを解釈通達の変更でやるべきか、通達改正でやるべきかは悩ましいところです。

法改正でやるとすると、国会という重たいプロセスを踏む必要があり、その過程のなかで当初の思惑と異なる内容が入ってくる可能性もあります。
その点を考えると、解釈通達の変更がスムーズで良いように思われます。

ただ、本筋としては、解釈の疑義をなくすためには、法改正でやるのが個人的には良いと思っています。
行政の解釈通達は、司法権である裁判所を拘束するわけではないので、解釈通達の変更だけでやったとしても、裁判所の判断として、通算解釈が取られる可能性があります。
実際、労働時間の通算を前提とする解釈を示した裁判例もありますので、結局この点の論点は司法的には解決しないままになります。

厚労省の立場としても、令和2年のモデル就業規則の改定の時ですら「管理モデルを作るので通算は維持」として頑なに通算を維持してきたわけですので、今から「促進のため解釈を変えます」というのは言いにくいのではないかと思われます。

いずれにせよ、副業の場合の残業代請求の論点をなくすとすれば、やはり法改正でハッキリさせたほうが理念的には良いと思っています。

いずれにせよ、今後の議論をしっかりとみていきたいです。

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