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同調圧力に屈せず推奨されることは積極的な行動で示していきたいー子どもたちのためにー

松野博一官房長官は12日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染防止対策としてのマスク着用に関し、屋外で「少なくとも2メートル以上の距離を確保できている場合にはマスクを外すことを推奨している」と述べた。11日の会見で、熱中症のリスクがあるとして「人との距離が十分とれれば屋外でマスクの着用は必ずしも必要ない」と説明していた。松野氏は12日の会見で「(屋外でのマスク着用の方針は)リーフレットや動画、SNS(交流サイト)などで周知をしてきたが、今後も周知、広報に努める」と語った。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1230Z0S2A510C2000000/

厚労省・マスク着用の考え方

 マスク着用に関する様々な見解が出されているにもかかわらず、相変わらず屋外でマスクを外している人を見つけるのは困難な状況が続いています。そもそも感染対策としてのマスクの役割は「咳エチケット」であり「飛沫を飛ばさない」「飛沫や有害物質を吸い込まない」等のためにつけるものです。たとえ屋内であっても誰とも会話をしない状況では飛沫も発生せず、それを吸い込む可能性は皆無です・・。というと「近くにいたマスクをしていない人が突然くしゃみをしたらどうするんだ!」などという意見が必ず出てきます。それはくしゃみをした人が感染源であった場合であり、もしそうであったとしても1回飛沫を浴びただけで必ずしも感染するわけではありません。このような場面で感染が成立する確率は「その人が感染源である」×「飛沫に含まれる病原体量」×「飛沫を浴びる時間(おそらく数秒)」ですが、感染源でなければ掛け算ですので答えはゼロです。無症候性感染者が街中を出歩いていることもわずかながらあるようですが、感染が成立する確率はどの程度なのでしょうか?限りなくゼロに近い可能性が心配な方はマスクをしていれば良いのですが、きわめて稀な事象のことを毎日考え続けたらきりがありません。しかもその病原体は致死率のきわめて高いものではないのです。

 マスクを外せない理由として日本人特有の「同調圧力」があるとよく言われますが、

私は識者としてそれに屈することなく屋外ではマスクを外すようにしており、推奨されることは積極的な行動で示すことで徐々にマスクを外す人が増えて同調圧力が弱まること

を期待しています。以前テレビである識者が「他人の眼があるから外すのは難しい」などど発言していたようですが、これは本末転倒かつ素人同然であり、識者であるからこそ見本を示すべきであると考えます。公式見解が示されているにもかかわらずいつまでもこのままの状態では、外したくても外せない人、気分が悪いのに無理をしてまで外さない人、さらには「同調圧力」による差別やいじめなどにまで発展する可能性も懸念されます。大人が率先してこの同調圧力を緩めていかないといつまでも気の毒なのは子どもたちです。そんなことを考えていた矢先に以下のような提案がなされました。

小児における新型コロナウイルス感染症の課題について

発育途上にある小児に対して過剰な警戒を強いることなく、一方では小児における感染の拡大を避け、感染した場合でも早期発見し、早期に医療に結び付け重症化をできるだけ防ぎ、保護者を含め日常生活をできるだけ保つようにすることは時に困難を伴うが、小児の健やかな発育発達のために我々大人が努力すべきことである。

第86回(令和4年6月1日) 新型コロナウイルス感染症対策 アドバイザリーボード提出資料

2 歳未満やそれ以上の年齢であっても自分でマスクの着脱ができない場合、 マスク着用はむしろ危険となる場合がある。呼吸が苦しくなり顔色が悪くなっても周囲は気付きにくいマスクしたままで嘔吐すると誤嚥や窒息の恐れがある。健康な子どもでも運動の時や炎天下での戸外活動であれば、マスクは熱中症のリスクを著しく増大させる。さらに幼児においてはマスク着用で表情の読み取りが学習できなくなる弊害を示す研究報告もある。

第86回(令和4年6月1日) 新型コロナウイルス感染症対策 アドバイザリーボード提出資料

安易な保育施設・教育施設の閉鎖は子どもの遊びと学びの機会を奪い、子どもの健全な発 育発達を阻害するばかりでなく、学習能力の低下が将来における社会全体の経済損失を起こす恐れがあるともいわれている 。また2020 年は前年と比べて子どもたちの自殺が100人増加したが、その傾向は昨年も続いていることにも注視が必要である。 運動会や卒業式のような学校行事、修学旅行、課外活動などは単なるセレモニーやレクレーションではなく、子どもたちの健やかな成長・発育にとって極めて重要な教育活動である。 3 成長の過程で失われた時間や経験は後から取り返すことは出来ず、子どもたちの一生に関わる負の遺産となるので、感染対策を工夫した上でできるだけ実施する方向で考えてもらいたい。

第86回(令和4年6月1日) 新型コロナウイルス感染症対策 アドバイザリーボード提出資料

 私は以前より、感染対策ばかりに重点をおいていると社会経済活動の再開が遅れるだけではなく、過剰な対策による健康被害や社会の歪みが増大するリスクの懸念についての私見を述べてきました。
新型コロナ出口戦略ーいつまでも守ってばかりいるのではなく攻めていかなければ何も見えてこない。そのためには正しい知識のアップデートと実践が望まれる|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com)
インバウンド受入再開も大事だがアウトバウンドが推進できるような計らいと同調圧力の緩和も必要|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com)

 もちろん、一律に感染対策を緩めるということではなく、これも以前より何度も申し上げている「メリハリのある対策」を効率よく実践するということです。新型コロナが発生した当初はわからないことだらけであったので、対策もまちまちでしたが、流行の波が起こるたびに対策が強化され足し算になっていきました。例えばマスク+フェースシールド+アクリル板(1+1+1=3)などで、今でも多くの人が集まる店内などでその光景がみられます。しかし、飛沫対策は不織布マスクで十分です。フェースシールドは人工呼吸器などの吸引を行う際に大量の飛沫を直接浴びるようなリスクのある行為の場合に眼を守るための防護装備(PPE: Personal protective equipment)であり、アクリル板はPPEではありませんが、お互いがマスクなしで会話をする場合に直接飛沫を浴びないようにするための暫定的な遮蔽物です。従ってお互いマスクをしていればアクリル板は不要ですし、そもそも日常生活でフェースシールドなどは不要なわけです。むしろアクリル板やビニールシートにより空気の流れを阻害することや、シールドを手で触ることによる汚染の方がリスクが高まることになります。従って3-1-1=1にするような引き算の対策を効率よく徹底することが理想です。

 私は2年半にわたり多くの新型コロナの患者さんの外来診療にあたってきましたが、発生当初の数か月はフェースシールドを使用したことがありましたが、その後はお互いがマスクをして一定の距離を取ったうえでの診療で、院内にアクリル板は設置していません。ただ咽頭の診察をした後に「そういえば自宅で検査をしたら陽性だったのを忘れてました」などと言われたことが何回かあり、かなり焦りましたが幸いにもうつった気配はなく、罹患したかどうかの抗体検査(ワクチンの抗体検査ではありません)も定期的に行っていますが、いまだに抗体は陰性のままです。すわなち一度もウイルスに曝露していないということです。特別な対策や過度の自粛をしている訳でもないのですが・・。
 マスクを外すことが美徳であるということでは決してありません。
「咳エチケット」「体調の悪いときは必ず着用する」はコロナに限ったことではなく、さらに現段階では
「至近距離で会話をする時には着用する」
ということはマナーとしては必要でしょう。それ以外の場面では

必要な時に適切に使用する。
使用したい方はご自身の判断で。
他人を責めることはしない。


そういえばもう一つ頑なな同調圧力がありました。

「エスカレータの片側を開ける」

です。隣に階段があってもです。量販店などでは時に「2列でお並び下さーい」とアナウンスがありますが、まったく効果がない印象です。エスカレータで歩くのは危険行為で大事故につながりかねないのに、空いている側で立ち止まることは絶対にできませんよね。
 
#日経COMEMO #NIKKEI

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