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六本木クロッシング2022に、子ども4歳・2歳といった話

年末、冬休みに入った矢先に妻が体調不良でダウンしてしまい、4歳と2歳の子どもと一緒に暇になったぼくは、思い切って3人で森美術館にいくことにした。

その道中、たまたま入ったスタバで偶然出会ったアレルギー対応フードに感動した話は、昨日書いた。

今日はその森美術館での体験を書こうと思う。

昼食を食べて、じゃあ美術館に行こう!といい、エレベーターで上がって「ママン」を見る。大きなカニだね、と娘が言う。カニだねえ、と息子も言う。

美術館フロアに向かうために、チケットを買う。娘は4歳なので600円のチケットを支払う。こうしてちょっとずつ、子どもの体験にもお金がかかるようになっていくんだよなと、ちょっと寂しくなる。

そしていよいよ52階へ。冨樫義博展で賑わうアートセンターフロアを横目に、ベビーカー置き場にベビーカーを置いて、エスカレーターに乗る。わちゃわちゃする子どもたち2人をエスカレーターに載せるのは一苦労だ。

そして、美術館に入る前にトイレにいく。2歳の息子のぱんぱんにおしっこがはいったおむつを替え、そのあいだに娘はトイレを済ませる。前は2人ともおむつだったなとかちょっと懐かしくなる。こうしていよいよ、美術館の入口に立った。今日のめあては『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』だ。

展示会場に入った瞬間、3Dスキャナーのごとく空間を把握する。まずは神経を子どもたち2人の体の接触範囲にまで拡張する。そして触っちゃいけない絵、立ち入ってはいけない線、登ってはいけない展示台などの環境にも神経をめぐらせる。そのうえで、作品を見る。

というわけで、子どもと一緒に見ることができた作品をいくつか、ダイジェストで紹介したい。

彫刻のポーズを真似する

まずはじめに入った部屋では、O JUNと青木千絵の作品が目に飛び込んでくる。いわば、展覧会ぜんたいの「つかみ」の位置だ。子どもたちは楽しそうに美術館を闊歩し始める。

なんというか、子どもにとっての美術館体験は、散歩のようなものなのかもしれない。ときおり道草を食うように作品を見たり触れたりする。興味のないものはスルーしていく。思い返せば、大きめの公園での行動と、美術館内の行動はちょっと似ている気もする。

最初の部屋では、青木千絵作品が気に入ったようで「浮いてる!」とか「おしりのあたまにおしりがついてる!」などと言葉を発し始める。この格好、どうやってやるんだろう、と彫刻のポーズを真似し始めたりして、なかなか上々の反応だった。つまり、つかみはバッチリだった。

2人とも床に這いつくばったり、ヨガのポーズのような姿勢をとったりしはじめたので、ちょっと周りの目を気にして止めてしまったが、しばらくポーズを真似する遊びを続けたかもしれない。

松田修の映像をじっと見る

次に目にとまったのが、松田修作品だった。尼崎にあったスナックのママを題材にした作品で、ママの静止画からDeepNostalgiaのようなアプリで表情を動かせるようにしたムービーに変換されたものを通じて、こちらにスナックのエピソードを語りかけてくる。そして最後は、画像を顔にお面のようにつけた人間が写し出される。

「自分が選んだ人生じゃなかった」「奴隷の椅子やんけ」などのフレーズが鮮烈な印象を残す作品だった。その語りは、女性の生、貧困、経験などを照らし出していた。内容は重く、難しいが、奇妙な映像の仕様が子どものこころを掴んだのか、なぜか子どもたちはじっと映像を見つめ、作品を見ていた。

未来SUSHI

本展のなかでも最もビジュアルのインパクトが強い作品の一つ、市原えつこ『未来SUSHI』は、子どももとても楽しんでいた。

作品の詳細は市原さんのnoteでも描かれている。

人工イワシや、培養寿司といったFOOD TECHを参照しつつ、ディストピアとして未来の寿司屋を描き出していく。ペッパーくんが対象として接客をして、寿司の説明をしていく。なかには「瓦礫」のパフェも登場し、得体がしれない。

ペッパーくんの物珍しさと、寿司ひとつひとつのキモ面白い造形がヒットしたようで、寿司を何周も見ていた。(ちょっとだけ触ってしまい、監視員さんに怒られたりもした)

市原さんの作品から続く、石内都、潘逸舟の流れも非常によかったのだが、割愛する。

低速の無人搬送車が、作品を撤去・設営し続ける

遅すぎるミニ四駆に心を奪われた

そして今回のぼく自身の目当てでもあり、子どもたちがもっとも長く滞在したのが、やんツー『永続的な一過性』であった。

2022年夏に「どうぐをプレイする」展(ICC)で展示されていた『近代的価値から逃走する』では、極端に遅いミニ四駆を走らせるインスタレーションを展開していた。このとき、子どもたちはなぜかすっかりと心を奪われ、じっと、この作品を鑑賞していたのだ。

そんなやんツー氏の新作を、子どもたちはどう見るのか、楽しみで一緒に来て見た。

『永続的な一過性』

「昨今の無人化が進む物流倉庫で用いられる無人搬送車(AGV)が作品の搬入、設営、撤去をし続ける新作インスタレーション」として、やんツーさんご本人のinstagramでも紹介されている。

物流DXの潮流のなかで、世界中の倉庫や港湾では、無人ロボットが物を運びまくっているというのは、テレビやニュースで見知っていた。しかしその実物を、こんな場所で見るとは思っていなかった。

そう、ここに映し出されたような石像、陶器、木でできたオブジェ、Amazonの段ボール箱などが無人搬送車によって延々と、配置替えをされていく。『永続的な一過性』の名の通り、置かれるものは永続的にこの空間のなかにあるオブジェなのだが、その配置のされ方は一過性で、どんどん変わっていってしまう。

床に貼られた黒いテープに沿って、搬送車がLEDライトを赤と青に点滅させながら、ゆっくりと、小さなうねりをあげながら移動し、巨大なオブジェから小さなカバンまでを、持ち上げ、撤去し、設営していく。

物たちがあまりにもゆっくり動くから

各オブジェの横にはQRコードがついていて、それを撮影するとそのオブジェの説明がなされる。しかし、このやんツー作品全体における意味の説明はいっさいない。本当にその物の説明が書かれているだけなのだ。

ここに置かれている物たちが登場人物となって、何か物語が展開しているわけでもない。とかくゆっくり動くので、ものの配置換えが目まぐるしく起こるわけではない。しかし、なぜか見てしまうこの作品の魅力は、「次に何が運ばれてくるのだろう」という得体の知れない興味だ。

ロボットがどこにいくかが予想がつかない。順番がどうなっているかがわからない。月並みなたとえだが、子どもたちは目の前で巨大なピタゴラ装置が動いているように見ていたのではないだろうか。

「次は何がくるかなぁ?」「そろそろ、椅子じゃない?」「もしかしたらカバンかも?」「ぼくは、段ボールがいいなぁ。段ボール運ばれてこないかなあ」

と、子どもたちは呟きながら、目まぐるしく見る位置を替え、ロボットの行方を見守っている。

つい、物に語りをつけてしまう

本来、これほどまでに見られるほどのない無人搬送車を、こんなにも関心をもって見てしまう状況に思わず笑ってしまう。しかしここで運ばれてくるものが同じような段ボールばかりだったら、子どもたちはここまで興味をもっただろうか。あるいは我々大人も。

ここに置かれた得体の知れないオブジェたち。その意味は語られないが、その動きの遅さ故に、その動きを待っている、退屈さのなかで、運ばれてくるモノの意味やキャラクターをつい作ってしまう。つまり、物語がつくられてしまう。

ぼくたちが目にしない世界のあらゆるところで、物たちがロボットによって動かされ、配置を替えている。世界中からものが集められ、編集され、運ばれていくプロセスに、人間が関与しない世界もありえるかもしれない。人間がいなくなった世界のあとの風景なのかもしれない。

そんな物語を、悶々と想像してしまう。

この、やんツー作品がもつ「遅さ」は、我々に「退屈/暇」を与え、物語を想像するように仕向けているように感じる。大人があれこれと考えるのと同じように、子どもたちもまた、何かロボットとそこで運ばれるものの間に物語を見ていたのではないだろうか。

かれこれ30分、そこで鑑賞していた。気づくとメインの展示台には、初めにあったものはもうなく、新しいものが置かれていた。

カオの惑星

その後も、SIDE CORE、竹内公太、青木野枝と、インパクトの強い作品が目白押しだった。さすがに展覧会後半になり、疲れてきた2歳の息子がぐだぐだし始めたので、ちょっと早めに撤収しようとした。

しかし、同時開催のMAMプロジェクトで展示されていた山内祥太作品にも足を止めることになった。

ウェブサイトを通じてユーザーが質問に答えると、「顔」が生成されていく。その「顔」同士がくっついた惑星が宇宙を彷徨い、延々と会話をしたり、泣いたり苛立ったりする。

展示室内にクッションがあり、そこに腰掛けながら、映像が一周回るまでながめていた。

子どもたちのこの作品への謎の集中力はなんなのだろう。アートファンとしては作品を少しでも長く一緒に見られるのは嬉しいのだが、4歳5ヶ月と2歳3ヶ月の、この月齢ならではの、偶然の感受性なのだろうか。あるいはこれからも美術館を一緒に楽しんでもらえるのだろうか。

美術館の、中の人にも会えた

そんなことを思いながら展示室をあとにすると、偶然、森美術館のラーニングアソシエイトキュレーターの白木栄世さんにお会いすることができた。かれこれ10年以上まえから、トークセッションのゲストにきていただいたり、ぼくが企画したイベントにお越しいただいたりして、交流を続けている方だ。

10年ほど前、白木さんが対話型鑑賞をファシリテートをしながら展覧会をツアーする手腕を目の当たりにしたとき、ぼくは一流のラーニングキュレーターかくあるべしと思ったのを鮮烈に覚えている。

お客さんと待ち合わせをされていた白木さんとほんの少しでも話をすることができ、子どもたちともちょっとだけ話をしてもらえた。「白木さんはこの美術館で、作品を選んだり、イベントを考えたりする仕事をしているんだよ」と、子どもに言えたことがなんだか嬉しかった。

終わりに

というわけで気づけば4000字以上書いてしまったが、六本木クロッシング2022は3月26日まで絶賛開催中だ。全ての子どもにおすすめできる展覧会だ、とは言えないが、少なくともうちの子どもたちはとても楽しんでいた。


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臼井 隆志|Art Educator
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