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テック企業等が約1,100億円を投じて「炭素除去市場」創出を目指す「呼び水」ファンドがとても斬新

先日公表された国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書には、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑えるためには、3年以内の2025年までに排出量を減少に転じさせる必要がある、と厳しい指摘がされていました。

排出量の削減が目標達成に必要なペースより遅れている状況を踏まえ、「地球温暖化を抑えるためには大気中から二酸化炭素(CO2)を除去する方法が「不可避的に」必要である」と、初めて明確に記されたことにも注目が集まっています。

そんな中、4月12日に決済大手のStripeを中心としたShopify、Alphabet、Meta、McKinsey の計5社による、炭素除去の開発を加速するためのStripe社の子会社としての非営利ファンド、「Frontier」を創設することが報じられました。

https://frontierclimate.com/

脱炭素に取り組むために今後8年に渡ってコミットする9 億 2,500 万ドル(約1,161億円)という額の規模のみならず、その事前買取制度 (AMC= Advanced Market Commitment)という手法も含め、とても注目に値するものであると感じます。

米メタや米アルファベットなど5社は、新しい脱炭素技術を開発する企業の支援に共同で取り組む。新技術により見込める将来の二酸化炭素(CO2)削減量を取引できる市場を立ち上げる。5社は共同で2030年までに9億2500万ドル(約1000億円)を投じて自ら削減量を購入し、自社の脱炭素にも生かしつつ、世界で進む脱炭素技術の開発を加速させる。
支援の対象はCO2を回収し永久貯蔵したり、自然の力を利用して岩石に変えたりするCO2除去技術を想定している。メタやアルファベットのほかに、電子商取引(EC)サイト構築のカナダのショッピファイと決済大手の米ストライプ、米マッキンゼー・アンド・カンパニーが参加する。

日本経済新聞4月12日

事前買取制度 (AMC= Advanced Market Commitment)?

事前買取制度?と最初にこの表現を目にし、難しいと感じる方も多いかもしれません。

これまで炭素排出量削減に取り組んでいる起業家は「未だ見ぬ」新製品・技術の開発をしているため、顧客がその製品にお金を払うかどうかを知らなければ会社を作らないし、投資家は、市場シェアの価値を知らなければ会社を支援しないという課題が存在しました。今回創設されたフロンティア・ファンドは、新製品・技術の開発を加速させるために需要を保証することで、研究者、起業家、投資家に対して、自分たちの技術には、大きな市場があるということを伝え、脱炭素除去技術の開発を推進することを目指すしくみです。

https://frontierclimate.com/

直近の例で例えるならば米国によるコロナワクチン開発・供給計画「オペレーション・ワープ・スピード」に近いかもしれません。
当時のトランプ大統領の政策により180億ドル(約2兆円)が費やされ、ワクチンの需要(買い手)を保証することでワクチン開発の速度、規模をスケールさせることに成功したと言われています。

実際2000年代半においても、貧困国において肺炎球菌という細菌が感染することで起こる感染症のためのワクチンを 手に入れることができませんでした。当時製薬会社はコストを回収できるだけの需要があるかどうかわからないため、ワクチン開発に資金を費やす気になれない状況でした。2009年、政府と慈善団体は製薬会社が十分な低コストで肺炎球菌ワクチンを製造できる場合、15億ドルを投じてワクチン購入を補助することを約束する取り組みがされました。その結果、何億回分ものワクチンが購入され、世界中で配布された結果、ワクチンの普及が5年早まり、推定70万人の命が救われたと言われてます。

▶「フロンティア」紹介動画

今回のファンド創設の中心を担っているStripeは以前から炭素排出削減への取り組みを進めていて、2020年10月には「Stripe Climate」というサービスをリリースしています。オンライン決済会社であるStripeのソフトウェアを経由したデジタル売上の一定割合を寄付することで、顧客が二酸化炭素排出量削減に参加できるようにするしくみを提供しています。

Stripe Climate https://stripe.com/jp/climate

米ビジネス誌『FastCompany』が毎年選出している「Most Innovative Companies 」の最新のランキングにおいて、Stripe(Climate)は1位を獲得していることもあり、今後の「炭素除去市場」の成長に期待が寄せられています。

ただし、誰もが炭素除去技術に注目することを前向きに評価しているわけではないことも留意しておく必要があります。

ペンシルベニア州立大学教授で「The New Climate War(新しい気候戦争)」著者でもある気候科学者のマイケル・マン氏は、『炭素回収は「将来的には役割を果たすかもしれないが、当面は化石燃料の燃焼から(既に存在し効果も見込める太陽光・風力等の)再生可能エネルギーへの迅速かつ劇的な移行がより重要だ」とCNBCの記事でコメントを寄せています。

IPCC報告書には二酸化炭素排出量を削減させるためにさまざまな方法・手段が紹介されていて、今後何年にも渡って世界中の政策立案者、企業経営者、起業家、投資家、そして市民がそれぞれの立場で取るべき行動の指針、ロードマップとして活用することが期待されてます。

個人的には「未だ見ぬ」新しい技術の開発の可能性を探求してくことの重要性も十分にあると感じています。そんな意味でも今回の「Frontier」創設のニュースはとても意義深く、今後の発展を注視していきたいと思います。

参照記事:

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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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