なぜ世界は日本に行きたいのか?③―日本という文明性を売る
中国人が驚かれることがある―日本が使っている「漢字」が、漢の字と書くこと。「漢文」を現代日本人も中学・高校で勉強していること。日本は漢文を日本の古典とともに、戦前までは必修科目で学び、漢籍・漢詩・唐詩は日本人の価値観・思想・文学・芸術・歴史・生活など日本文化の基盤だった。戦前まで、日本の教養人は漢文・漢詩を書けた。1000年前に書いた清少納言の「枕草子」が現代中国の知識層や若者に読まれていることに、日本人が驚くが、古代からの中国と日本の交流史からすると、それは必然である。
コロナ禍で海外移動の制約があったが、コロナ渦が収束に向かい、日本へのインバウンド観光は戻りつつある。とりわけアジア、とりわけ中国からの観光客が激増するだろう。中国の旅行会社CEOの「中国国民、とりわけハイエンドのお客さまが日本に行きたがっている」という言葉が現実になる。みんな、待っている。しかしその本質はコロナ禍前のそれではない。直近の、円安で爆買いという文脈だけで捉えたらいけない。
1. なぜ中国のハイエンドは日本が好きなのか?
「日本はユートピアだ」という中国人が言う。
中国のハイエンドは教養人である。彼らは、日本がどれだけ凄いことをしてきたかを知っている。たとえば中国語のなかに、とりわけ近代に生まれた言葉に、日本由来の漢字が多いことを知っている。明治から昭和にかけて、日本人は欧州から手に入れた文献を漢籍に照らし合わせて次々と翻訳して、漢字を生み出した。政治・経済・哲学・文化・銀行・健康など、それはすさまじい知的作業だった。中国の教養人たちは、その日本の努力に敬意を表し、日本の文明度の高さを理解している。
彼らはビジネスで来日したり、観光にきたり、日本の大学に留学するなかで、日本の科学技術や施設やビジネスやサービスを経験して、日本人がつくりだすスペックはハイスペックだと
日本に高い文明を感じていた
日本のアニメやゲームに触れて、こういうモノを創ることができる日本は、どれだけ文明度が高い国だろう。いつか日本に行きたいと憧れる
ドラゴンボールやナルトやワンピースやなどのアニメを視て、日本はどれだけレベルが高いのだろうか。そういうことを含めて、日本にシンパシーを覚え、日本をポジティブに理解する
日本が好き
日本に行き、こんなに日本はすごい、こんなに日本は素晴らしい、日本はユートピアと中国に戻って語る
こういう話も聴いた。中国の百貨店のデイスプレイの最終チェックは、日本人がする。そのデイスプレイをチェックする日本女性が手直しをしたら、売り場の雰囲気がガラッと変わる。ちょこちょこと触るだけで、美しくなる。そのくらい、日本のバランス感覚、美的センスはすごいと評価されている。日本に行って、リアル日本を知る中国人が増えれば増えるだけ、日本のセンスが良い、日本美が良いと思う人が増え、中国の店舗でも日本式の陳列管理してみようと、和風という意味の「日式」のスタイルが広がる。
2.なぜ日本のコンビニのデイスプレイは美しいのか?
日本のコンビニは、ものすごい勢いで進化しつづけている。
古い店舗が、どんどん消えていく。時代の空気や人々の価値観の変化をつかみ、つねにアップグレードしつづける。新「日本」スペックにあわなくなった店は、消える。普通の店が閉まった夜中に、欲しかったモノがあって助かったという「便利」な商品アイテム中心から、弁当・パン・スイーツ・生鮮食料品のスペースが増えつづけている。コロナ禍を経ても、お客さまの変化を捉えて、進化しつづけている
中国人が日本を志向しているのは、日本の文明性が理由。文明はシビリゼーションというが、むしろ文明性はカルティベイテッドというほうが近い。土地を耕して、種をまいて、水と肥料をやり、虫が発生すれば駆除して、台風など風水害から守り、収穫して、その中から種を取りだし、また土地を耕して種を撒く。努力して、創意工夫して、磨きつづけ、洗練させつづけ、良きものを生み、育みつづられるチカラが「文明性」といえる。だから
中国の人は爆買いをするために
日本に来ている
とだけ捉えたら、中国人が日本に来られる本質を見間違う。日本に行き、日本のマンガ、アニメ、ゲーム、建物、店舗、寺社、庭園、芸能、産業、食、風土などを、日本で感じて、じかに日本の「文明性」をつつまれたいと考えておられる人が多い。日本の「文明性」に触れ、体験して、その背景を学び、自分もそれを身につけたいと考えている人も多い。そんな中国人の気持ちに寄り添えていない日本人
モノだけ、事象だけに囚われ、
心を理解しない日本人が多い
茶道や華道や書道など日本文化の大半は中国から日本に伝わった。日本は、その中国式の茶道や華道や書道を受け入れ、咀嚼して、本質を読み解き、洗練させ、多様化させ、承継つづけてきた。中国ではなくなったが、日本で残っている芸能も多い。それらを日本で学び、中国に戻って、和風という意味の「日式」の茶道教室、華道教室、書道教室を開く留学生が多い。それらは中国由来のものであるが、日本仕様のほうが良いと現代中国人は受けとめる人も多い
日本人は、ブラッシュアップして
ファインアップ化することが得意
マクドナルドを復活させたり、セブンイレブンを復活させたり、ユニバーサルスタジオをUSJ として進化させたり、ダイソンを世界展開商品に押しあげたりしたように、外国由来のものを磨き上げ、洗練させ、レベルを上げて、多様化していくチカラが、古来から現在も、日本人の強み。中国に学んだ漢字から片仮名を生み、平仮名を生んだ。それは、たんなるコピー、物真似とは違う。融合力とバランス力が日本の文明性を支えている。
とりわけ中国人は、もともとは中国由来のモノを洗練・進化させた日本の「文明性」を体験して、センスを磨く場所として、日本を見ている。
3.なぜ日本は日本の文明性を理解しないのか?
そんな日本の文明性を世界は評価しているが、日本はその意味合いを正確に理解していないのではないか。逆に韓国がその意味を理解して、日本仕様の「音楽・エンターテインメント」を韓国仕様して、世界を席巻している。
マンガやアニメやゲームが、その二の舞になってはいけないと、国はクールジャパン戦略を策定して、「日本性」をクール(かっこいい)と位置づけ、外国人の日本へのファンづくりをめざすとしているが、その目標設定自体がずれているような気がする。日本のソフトパワーというが、戦略に具体性がなく、ビジネスのダイナミズムが感じられない。
国で議論する人たちは、「重厚長大産業」時代の価値観で育った人たちが中心。マンガやアニメを世界展開にしようとか、エンタメを戦略的ビジネスにしようといったら、思考が固まってしまう、意味が分からない、そんなのは、産業ではないという。日本の主たる産業は、重厚長大産業で、自動車・機械をつくって輸出することが、なによりも尊い。マンガを輸出したり、アニメ・ゲームを世界に売るのは、真っ当な産業ではない、趣味の世界だという前提から、抜けきれなかった
自分の子どもの結婚相手がトヨタや日立の人ならいいが、マンガ家やゲームクリエーターや料理人ではダメという価値観・文化を変えないといけない。
「日本の文明性」を世界に輸出する。
これまで、取り組んでこなかったわけではない、クリエーター・職人・料理人・企業・学校・各業界・団体が、それぞれ一所懸命、切磋琢磨して頑張ってきた。国内のみならず世界展開をしてきた。成果もあったが、
本来の「日本の文明性」のチカラが
活かしきれていない
これまでの枠組みで、できることとできないことがある。国にしかできないことがある。価値観を変える。世界視点で、日本の文明性をビジネスで捉えなおして、輸出する
その輸出型の「日本の文明性」産業は、マンガ・アニメ・文学・映画・映像・ゲームというコンテンツビジネスだけではない。インバウンド観光や旅行のみならず、食や茶道・華道・書道など日本文化産業も、コンテンツ産業である。外国人に「日本の文明性」を体験してもらい、日本にお金を集め、真水を増やすことが現代日本に求められる
それを進めるうえで、課題がある。韓国の音楽や映像などエンタメビジネスが世界を席巻しているが、日本の音楽・映像が世界に広がらないという決定的な理由がある。それは
韓国人は英語ができ、英語で歌っているから
日本人は英語が苦手で、英語で歌えないから
ではないか。日本の歌謡界や実演型の演劇や芸能は、言語上の制約で、輸出が広がらない。エキゾチックだが、メジャーにはならない。だから色物扱いとなる
人が演じるエンタメビジネスは、英語など言語能力が左右する。だから英語力が弱い日本人には限界がある。しかしマンガ・アニメ・文学・映像・ビジュアル・ゲーム・映像・華道・茶道・書道など、人が表現する創作系のコンテンツビジネスは、言語よりも重要なのは「コンテンツ」の品質。言葉は翻訳すれば世界展開が可能
日本の文明性のコンテンツビジネスには、もっとある。日本人の繊細で洗練された飲食店も理容も美容もエステも整体も、日本の文明性のコンテンツビジネスである。極論すれば、日本のサービスビジネスが、日本の文明性のコンテンツビジネスといえる。現実、中国でそれらの店の「日式」の店が増え、受け入れられている。欧米でもそう。日本が評価していないが、世界には評価されている。もうそろそろ、それに気がつかないといけない。これからの日本は
日本の文明性を核とした
創作系のコンテンツで真水を増やす
それを真剣に考え、実行する。どう増やしていくかは、次回考えたい。