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人事はどこへ向かうのだろう?「Only Oneのカッコいい人事になる」-#3

こんにちは、ファンリーシュの志水です。シリーズ最後となりました。長編にも関わらず読んでくださりありがとうございます!まだ読んでない方はこちらからどうぞ!

「人事はどこに向かうのだろう?」という壮大なテーマを掲げてみたものの私は正解を提示することはできません。誰も解をもっていないかもしれません。それでも書きたいと考えた理由があります。

まず、戦略人事をやりたいと考えている人事部門は多いのに願望と現実との間にある大きなギャップがなぜ埋まらないのか疑問に思ったからです。
経営者から次のような言葉をよく耳にします。
「人事は管理部門にすぎないから事業に貢献できない」
「人事が戦略を推進するレベルではない」
経営者の期待に応えられないのは人事担当者の能力や努力が不足しているからでしょうか?
次に、人材マネジメントの理想とされる「戦略人事」は21世紀の目標としてふさわしいのだろうか?そのために過去から今私たちがいる場所を振り返り、これから向かう方向性を再確認したいと考えたからです。

約25年ほど私は事業会社で人事・経営の仕事をしてきた実務者です。人事リーダーとして戦略を実現するために組織を構築し社員をエンゲージするアクションをとってきました。時にはリスクを冒し失敗を重ねながらも多くのアイデアを実行して事業に貢献してきました。
これまで支援したクライアントを通して得た知識も豊富にあります。実践の経験からこの問いを考察してみます。皆さんの知識や経験を総動員させて私と考えてみませんかという意図もあります。

用語の整理:人事と人材マネジメントの区別

人事以外の読者もいらっしゃると思うので、まず用語の整理をしておきます。私は(恐らく皆さんも)「人事」と「人材マネジメント」という言葉を意識せずに使っています。混同して使っていることもあります。けれどこの二つの言葉には明確な差があることをご存じですか?
人事という言葉は業務、課題、部門、専門性などを扱うときに言及されます。組織や人を管理する日常業務や規則などをまとめて人事と呼ぶこともあります。人事業務は主に4つのカテゴリーに分類されます。(図を参照)

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一方、人材マネジメント(タレントマネジメントと呼ばれたりします)は「組織の短期的・長期的な成果を実現するために人的資本を最適化する統合的な取り組み」と定義されています。(2009 ASTD)
現場のラインマネージャーは採用面接、チームや部下の育成、1on1 、評価など人や組織に関わる仕事を日々行っています。ラインマネージャーの仕事の中でも重要な役割です。この「人や組織に関わる仕事」を人材マネジメントと呼びます。したがって人材マネジメント=人事部門の仕事ではありません。
これに対して「人事部門」の役割は「人材マネジメント」を実行するラインマネージャーや社員を支援する目的で設置された専門家の集まりです。
本編では、人材マネジメントを行う現場のラインマネジャーや社員を支援する専門部隊である「人事部門」を指して「人事」と呼んでいます。

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人事の進化:管理から戦略人事へ

ここ数年、戦略人事という言葉を聞くようになりました。戦略人事の話に入る前に、簡単に人事の歴史を振り返ってみましょう。詳細を説明すると本テーマからそれるため要点だけをまとめます。(歴史や進化に興味がある方はぜひ論文や学術書を参照ください。)

人事の起源については諸説ありますが100年ほど前に米国で従業員の苦情処理係として誕生したというのが有力です。ビジネス初期の頃は、人材=コストとみなされたため、人材の管理は購買部門の仕事でした。その後1950年から70年代にかけて、採用、報酬、福利厚生、労使関係などが加わり人事の基礎が確立されました。当時は「管理のために必要な部門」であり、「従業員の問題とコストを最小限にすることが主な任務」とみなされていました。70年代には新しい学問領域から組織行動(OB)や組織開発(OD)が加わり、80年代からは戦略的な側面についても論じられるようになりました。

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大きな変化が見られたのは米国で構造改革が起こった90年代です。ウルリッチをはじめ多くの学者や識者が人事の担うべき新しい役割(下の図)と人事に必要なコンピテンシー(優れた成果を生むために必要な能力と行動特性)の研究結果を発表しました。この時期、GEをはじめ先進的な企業は戦略人事を積極的に導入しました。「企業の競争力を高めるのは人材」であるとそれらの経営トップが考えたからです。それに伴い、人事にはビジネス感覚、戦略的思考、システム思考などの能力が求められるようになりました。
人事は人材マネジメントの責任を担う経営者や現場のラインマネージャーを支援するパートナーになるべき』とウルリッチは著書で主張しています。これが数年前から日本企業が目指している戦略人事の基本概念です。

戦略人事の組織は下記のような機能から成り立ちます。
●COE (Center of Expertise): 採⽤・育成・組織開発など⾼度な知識や専門性を集約したエクスパート
●HR Shared Service: 全社的な管理業務を集約したHRオペレーション
●BP(ビジネス―トナー):経営者や事業部トップのパートナーであり、COEやSharedと協働しながら事業戦略を実行する

戦略人事になるには「必要な管理能力が組織に備わっている」というのが大前提です。そもそも管理人事の基盤がなければ戦略人事へ進化することはできません。皆さんの組織には管理人事の基盤は整備されていますか?

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私のいた会社でも2000年代初めに戦略人事の概念に基づき人事のミッションが大きく変化しました。事業と人材マネジメントを戦略的に結びつける戦略パートナー(以下BP)チームを導入したのです。

「戦略的な人事の存在なくして組織も人も成長しない。
これまでの経験と知識を生かしてリーダーに寄り添い事業の成長に貢献してほしい」

当時の経営トップの言葉です。大変そうだけど挑戦してみようと思ったのは事業に強い影響を与えられると感じたからです。実際にやってみると想像を超える難しさでした。明確なBPの姿が描けていなかったため、理論と実践の差は大きくすぐに壁にぶちあたりました。BPの醍醐味を理解するには多少時間が必要でした。今では経営者・事業リーダーの決断に影響力を及ぼし、社員に寄り添うBPほどやりがいのある仕事はないと感じています。

戦略人事への道を阻む要因

日本企業で戦略人事がなかなか実現できないのは二つの大きな理由があると思っています。
一つ目は、「人事は管理だけやっていればいい」と長い間トップから言われ続けたために、当事者である人事が任務は管理だけだと思い込んでいることです。事業や顧客を理解しようとせず、新しい領域に挑戦するマインドセットの転換ができません。
二つ目の理由は、経営者がこれまで人事に対して投資をしてこなかったために管理業務から抜け出せないことです。スキルアップや能力開発の機会を人事が自ら求めることは不可欠です。けれども定期異動で人材が入れ替かわり、知識や経験が残らない。結果として専門性の高いプロが育ちにくい環境になっています。また優れた人材を人事に登用する会社もまだ少ないようです。(幹部候補に必ずBPを経験させるような会社もありますがその数はまだ少ないです)テクノロジーの活用にも消極的です。システムに投資をしないのでインフラ整備が他国と比較すると極めて遅れています。

重要な資産である人材と組織のプロである人事の重要性を日本企業の経営トップが理解していない事実は深刻な問題です。例えば、グローバル企業の大半の経営者は人事を戦略部門とみなし、CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)を経営メンバーのなかでも中心に置いて自分の右腕として捉えています。
日本の経営トップはどうでしょうか?ビジネスの会議に人事を呼ぶことを躊躇する経営トップさえいます。「事業を知らないのだから貢献できるわけない」そんな偏見がまだあるのです。大量のペーパーワークと管理業務に忙殺され、保守的で官僚主義。規則やルールを振りかざす。付加価値の低い管理業務を行う生産性の低い部門。これまでそんな人事しか見たことがないのでしょう。このようなイメージは人事が作ってきたのかもしれません。

私の経験を少し共有します。初めてBP部門を立ち上げたとき、ビジネス会議にも呼ばれず、事業部から無視に近い状態でした。このあたりは#1#2のエピソードをご覧ください。私たちBPチームは毎日のように現場に通って、市場・競合・財務・顧客について事業部リーダーに質問しました。とにかくリーダーや社員と対話をしました。当時の経営トップが組織と事業部リーダーにメッセージを出してくれたこともあります。

「人と組織の成長によって業績が向上する。人材が何よりも重要だ。ぜひ人事と連携して取り組んでほしい」

トップの全面的な支援とチームの努力により、「人事がいないと事業戦略が決められない」とまで言われるようになりました。こうして事業にも参画し、耳を傾けてくれるようになったのです。

事業部のリーダーや社員から「価値を発揮する人事」として認められるために心掛けていたことは以下の通りです。


①質問する:
質問する行為は「事業をもっと理解したい」「経験豊富なあなたから教えてもらいたい」というメッセージとして伝わります。学びたいという謙虚な姿勢があれば余程のことがない限り教えてくれるはずです。
②課題を探し仮説を共有する:事業の根本的な課題を常に考え、自分で考えた仮説を問題提起します。フィードバックを反映すれば精度もあがり理解も深まります。
③成長させるという視点を持つ:人事の仕事をしようとすると管理的な側面ばかりに目が向きます。管理や事務は最大限削減し「事業を成功させるために何ができるか」という視点に変えます。組織・社員にとって価値を生まない作業はなくしても大きな支障はありません。
④事業部リーダーと社員に寄り添う:現場から出たアイデアを否定するのではなく専門性を駆使して何とか実現できる方法を考えます。支援して達成した成果は絆を生みます。

これが正解ではありません。他の方法もあるでしょう。もっとも重要なのは経営者や事業部リーダー、社員から「信頼」を得ることです。事業部リーダーや社員と一緒に問題を探し解決に向けてひたむきに取り組む。そこで共感と信頼が生まれるのだと思います。

人事の未来を考えるー戦略人事だけでいいの?

事業を取り巻く外部環境の変化、社会が抱える課題の複雑化はかつてないスピードで起こっています。私たちがいま変化の真っただ中にいることを否定する人は誰もいないと思います。
ここまで戦略人事について解説してきたので「人事は戦略的部門に変わるべきだ」というまとめになるだろうと想像している方もいらしゃるでしょう。
結論からいうと、日本の人事が戦略部門に進化することはかなり困難だろうと予測しています。むしろ目的地を見直したほうが良いかもしれません。

先述したように、ウルリッチが戦略人事の概念を提唱したのは90年代です。当時ビジネスの世界では生産性・効率・成長・拡大という言葉が溢れていました。戦略人事は成長・拡大と親和性がありました。グローバル企業が戦略人事を導入したのはそんな背景があるからです。
でもちょっと考えてみてください。90年代といえばインターネットが誕生した頃です。携帯も普及していませんでした(AmazonやGoogleが生まれたのは90年代後半)その後インターネットが私たちの社会、経済活動、人間の生活を一変させたのはご承知のとおりです。
20世紀は事業の拡大、企業の成長がビジネスの命題であり、私たちは「市場の競争に勝つという戦略」の実現に取り組んできました。

そして2020年、私たちは新型コロナのパンデミックを経験しました。いま私たちは予想さえしなかった場所に立っています。どう生きるべきか?働き方はどうするのか?本当に大切なことは何だろうか?世界中の人が考え始めています。いま方向性の転換をせまられているのです。

少し前の記事ですが、昨年の秋に発表された共同報告書(New Compass charts path to European Green Deal)をご覧ください。「生態系の崩壊と経済危機の両方に取り組むため、統治のあり方、金融制度、消費のあり方、競争力などの再定義を求めている」とあります。
まさに転換期を生きている私たち。30年前に提唱された戦略人事を目的地として目指すのは本当に正しいことでしょうか?

これらを加味して人事はどこに向かうのだろうかという問いについて考えてみます。私は下記のようなことが起こるのではないかと予想しています。

①管理業務の移管・統合:人事の定型業務は標準化が進んでおり、すでに多くの企業が外部にアウトソースしています。グローバル規模でシェアードサービス部門に統合している会社もあります。管理業務の削減と定型業務を外部委託する傾向はさらに加速します。仮に内部に残ってもロボティクスなどのテクノロジーにより代替されるのは明らかです。管理業務は人事から切り離され、その時間を使ってより付加価値の高い仕事へのシフトが求められるでしょう。管理業務だけに従事する人事は、やがて経理や購買など他部門の管理業務を統合して行うサービスセンターになるのではないでしょうか。

②戦略的な人材マネジメントの分散:「戦略的人材マネジメント」の仕事は、事業と人材を理解している現場のラインマネージャーに移行していくと思います。日常的に行われているため大きな混乱はないでしょう。権限や裁量が与えられれば意思決定のスピードはより高まります。ただ、現場には組織・人材の課題を解決できる専門性が不足している可能性があります。事業部からのニーズに対応できる戦略人事が存在する組織ならば、引き続き人事が現場を支援するでしょう。人事に戦略的な能力が備わってない場合には、経営トップは外部プロからの支援を求めるようになります。従来のようにBPを人事に集約させる中央集権的な体制ではなく、顧客や社員に近い現場に人材マネジメント機能が移行していくのは理想かもしれません。

③人事の新しいミッション:これまでのようにお金のために働くのではなく、仕事を通して豊かな人生をおくりたい、良い社会を創る一員として生きたい。多くの人が生き方を見直し、働きがいを感じる職場を求めるようになるはずです。管理業務の削減と戦略的人材マネジメントの移行によって得た時間を活かして新たな価値を創る必要があります。ジョブクラフティングなどを通して、ひとり一人が「働く意義」を見出し、「意味づけ」できるような支援を人事は求められるでしょう。また、学びに対する継続的なモチベーションを引き出すニーズもより高くなるでしょう。
AIの台頭により人間性の回帰が叫ばれています。尊重・協力・感謝・思いやりなど本来人間が持っている特性を引き出し、社員、契約社員、外部プロ、ビジネスに関わるあらゆる人が「働きがい」と「幸せ」を感じる組織にアップデートしていくことが人事の重要なミッションになると予測しています。

「未来を自分で作ることが未来を予測するもっとも簡単な方法なんだ」とアラン・カーティス・ケイが言ったように、未来を作るのは私たち自身です。
未来の人事を企業や経営者に委ねるのではなく、自分たちの在りたい人事の姿を描いて行動しませんか?
人を感動させ、しびれさせ、周囲に大きな影響力を与え、物事や人を動かすカッコいい人事というのがこのシリーズのテーマでした。
自分の働く意義を見つけ能力が生かされ社会を良くしていると感じられる組織。本当の意味で人を尊重する企業を増やしていけるのは人事なのです。一人の力では難しいかもしれません。でも共感する仲間がいれば小さな力は大きなうねりとなって広がります。自分の想いや能力を今以上にGiveして社会をより豊かな場所にするために役立てませんか?Together We Can!!

挿入写真




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(株)Funleash代表取締役、アカデミア学長。人事ソートリーダー。Linkedin認定インフルエンサー。「2020インフルエンサーオブザイヤーTOP10」複数の外資系企業で人事責任者として変革を実行。人と組織の可能性を引き出す変革の外部支援。講演、執筆など幅広く活動中。