新型コロナ・感染症法5類移行後の現況
新型コロナウイルス感染症(COVID)が感染症法5類に移行してほぼ2週間以上が経過しました。前回の記事「新型コロナ・感染症法5類移行の前に思うこと|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com)」では「5月8日以降、医療現場の変化があるのかどうか、流行状況の変化があるのかどうか、患者さんの意識変化がみられるのかどうか、来週以降でまとめてみる」とお伝えしていましたが実際には現場はどのようになっているのでしょうか?
まず5月19日に5類移行後に初めて定点把握による流行状況が公表されました。前週比で1.5倍です。これだけ感染者が多く、重症化率も低下した感染症ではトレンドを知ることで十分であり、つい最近まで連日速報で感染者数を流し続けていたメディア報道はやはり意義は高くなかったと思うところです。以下は私が厚労省関連資料から作成したものです。
大型連休が終わったうえに5類移行となるので「第8波以上の第9波が訪れる可能性が高い」などと言っていた有識者がいたような気がしましたが・・前週比では増加傾向であったのは確かなことですが、トレンドでは多くが急増ではなく微増です。もちろん届け出る数自体が減っているのと、医療機関を受診する、あるいは検査する該当者の数も減っているので実際よりは少なく見積もられているのもまた事実でしょうが、入院病床が急激に埋まってきている等の情報は地域では上がってきてはいませんし、医療逼迫の状況もまったくみられません。私はむしろ通常診療、特に海外渡航者の診療がかなり忙しくなっています。
COVIDはさておき、インフルエンザの散発的な発生もこの時期としては珍しいことです。私の施設のある千代田区でも4月初旬に近隣の小学校で学級閉鎖がありました。インフルエンザは例年1月過ぎからA型の流行が始まり、遅れてB型の流行がみられることもありますが、いずれも4月末頃までに収束するのが通常です。最近みられた体育祭などでの集団感染は、大人数が集まり大きな声で応援を行ったりするので、飛沫感染のリスクが高くなったことによるものと考えられますが、そもそも感染源がいなければ拡がることはありません。COVID前でも体育祭などは同じように開催されている訳ですので、たまたまその地域に感染源が残っていて、拡がりやすい環境が生じたことで集団発生につながったのでしょう。また今シーズンのインフルエンザワクチン接種率の低下(当院でもかなり余りました)、効果が減衰する時期などの背景も拡がりやすかった要因として考えられるのではないでしょうか。ただこれを発端に大流行するというのは過剰すぎる反応と考えます。
また感染性胃腸炎も定点あたりの数は依然として高い水準であり、この時期にはあまり目立たない感染症が現在もくすぶっているような状況です(東京都感染症情報センターの定点報告疾病(週報告分)インフルエンザ2.01、新型コロナ3.53、感染性胃腸炎7.42)
次に実際の診療状況についてですが、当区では発熱患者さんが増加しているという印象はありません。ただ発熱で受診した方で検査を希望する方に実施するとCOVIDと判定される方が4月に比べて微増したという印象はあります。インフルエンザは4月には散見されましたが、現在はほとんどみられなくなりました。高熱でCOVIDでもインフルエンザもないという方も散見されますので、定点報告の信憑性は概ね現況を反映しているものと思われます。現段階で大騒ぎするほどのことではありません。
一方で患者さんの反応ですが、発熱がない方であれば検査にこだわる方がかなり減った印象です。当区では以前より検査にこだわる方は多くはなかったのですが、当方から提案しても希望されない方が増えました。医療費のこと(検査を行うと3割負担で3500円程度です)もあるのかもしれませんが「特別視」しなくなったという良い傾向なのではないかと思っています。
5類移行してほぼ2週間経過しましたが、何となくCOVID前の通常診療に戻りつつあることを実感しています。「特別視するべきではない」と提言したのがもはや2022年2月のことですが、(いつまで新型コロナを特別視するのか?|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com))もう少し早くこのような状況にすることができなかったのか、そうすれば回避できた不幸なこともあったのではないかと考えるところです。
#日経COMEMO #NIKKEI #新型コロナとの付き合い方
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