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拡大するインフォデミックとYouTubeの影響力〜ワクチン情報戦争への備え

世界中の科学者たちが新型コロナウィルスに対するワクチン開発に取り組む中で、以前から存在する熱狂的な反ワクチン活動家コミュニティの活動が活発化している傾向にあり、大きな懸念となっているようです。最近のニューヨーク・タイムズの記事でも「ワクチン情報戦争に備えよ」と題した記事でそうした危険性を紹介しています。

最近では全米各地で開催されている経済活動の再開を求める抗議デモ活動にも反ワクチンのスローガンを書いたプラカードを持って参加している人が多数いることも指摘されていますが、先週来海外を中心に話題になっている「Plandemic(プランデミック)」と題する陰謀論的なYouTube動画が800万回以上も拡散されるに至り、深刻な危機感をもたらしているようです。

国内においてもトイレットペーパー店頭から消えたり、医療従事者や感染者への誹謗中傷、誤った治療法などのデマ、フェイクニュース被害は深刻な問題をもたらしているものの、海外で起きているデマ、ミスインフォメーションの動向に目を向けると、そこには国家やメディアの分極化、陰謀論的なムーブメントの台頭など、深刻な様子を伺い知ることが出来ます。

先ほどの「ワクチン情報戦争」に関する記事の中では最近公開されたネイチャー誌の研究を引き合いに出しながら、フェイスブック等のSNS上において、反ワクチンコミュニティのほうがワクチン推進派に比べ戦略的に洗練された手法で拡散が行われていることが指摘されています。反ワクチン運動の活動の様子はネットフリックスのドキュメンタリー映画『パンデミック』の中でも詳しく描かれてますが、科学的・医学的な「正論」に対して、副作用のリスク、大手メディアやエスタブリッシュメントに対する不信、陰謀論などを持ち出して、真っ向から対立していて、いずれワクチンが認可された段階に、大きな問題に発展する可能性がありそうです。

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正直この"ワクチン情報戦争"について詳しく語る程、自分自身もその全体像を俯瞰的に理解できている訳ではないのですが、敢えて取り上げたのはここ最近、こうしたデマ、陰謀論に関し、いくつかの主要メディアが積極的に取り組んでいる様子を感じたからです。

以前に触れた米老舗雑誌アトランティックは早い段階から新型コロナウィルスに関する深い分析記事を次々に繰り出し、3月の月間新規有料購読者獲得数が3.6万人、4月にも3.4万人を獲得したと報じられています。同誌は先日、『シャドウランド(Shadowland)』という陰謀論を取り扱う連続特集記事シリースをスタートさせ、『Qアノン』と呼ばれる陰謀論ムーブメントについての記事は大きな話題になっているようです。

もうひとつ、注目しているのはニューヨーク・タイムズによる新しいポッドキャストシリーズの『ラビット・ホール(Rabbit Hole)』という番組です。4月中旬に公開され、毎週木曜日に配信され、現在5回のエピソードが配信済みですが、この番組ではいかにYouTubeのアルゴリズムと影響力が右翼思想、陰謀論、白人至上主義などを信じる人にとっての格好の場所になっているかが、詳しく描かれています。1億人のチャンネル登録者を持つスウェーデン生まれのYouTubeインフルエンサーのピューディパイ(PewDiePie)、過去10年以上YouTube漬けの生活を送ることで過激化(radicalization)した思想を持つにいたった青年、多くの視聴者に少しでも長い時間滞在してもらうためにYouTubeのアルゴリズムを開発していた元エンジニア、そしてYouTube CEO、スーザン・ウォシッキー(Susan Wojcicki)氏へのインタビューなどを通じてYouTubeの歴史、影響力、課題、これからについてを掘り下げる内容となってます。

新型コロナウィルスによって多くの人が不安を感じ、政治権力や大手メディアに対する信頼も様々な政治的スタンスによって大きく揺らいでいる中、今年の秋に開催される大統領選を考えるにつけ、今後インターネット上でどのようなやり取りが行われるのか、とても暗鬱な気分になります。

今回の新型コロナウィルスは多くのことがグローバルに影響を及びすことが予想されることもあり、国内においてもインターネット上の情報汚染がますます拡がるのではないかと感じます。2016年のブレグジット、トランプ政権の誕生などの背景でインターネットが果たした役割や罪は過去3年半の間に大きな議論をもたらしました。秋の大統領選は現職トランプ大統領のコロナ対応の信任投票的な様相が予想され、ますます予測がしにくく、不穏な印象が高まるばかりです。引き続き注視していきたいと思います。

Photo by Szabo Viktor on Unsplash

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