FOMCを終えて~中立金利上昇と円安~
利下げは最速で9月開始、遅くとも12月に着手
既報の通り、6月11日から12日かけて開催されたFOMCは現状維持を決定しました。簡単に備忘録として私の基本認識をまとめておきます。今回は目先のお話ゆえ、誰でもお読み頂ける記事です:
メンバーによる政策金利見通しは年内利下げ回数(予想中央値)に関し、従前の3回から1回へ下方修正されています。6月7日の米5月雇用統計が強含んだことからこうした織り込みは既に進んでいました:
しかし、FOMC直前に発表された米5月消費者物価指数(CPI)も考慮した上でドットチャートは評価すべきでしょう。確かに、ヘッドラインで報じられるように、メンバーの中央値こそ「1回」で7名存在しましたが、最も多い予想は「2回」の8名で、1回は7名でした(ゼロ回が4名)。ドットチャートだけを見ればタカ派的な受け止めは多そうですが、約2年ぶりの低い伸びとなった米5月CPIを解釈する時間があればドットチャートも2回が中央値になっていた可能性は十分考えられます。ドットチャートはその程度の精度です:
もちろん、それでも「3回から2回」という修正で、「どちらかと言えばタカ派的」と受け止められた可能性もありますが、年内利下げ回数は1回ではなく「1~2回」と幅を持った予想を軸にすべきでしょう。実際、パウエルFRB議長は1回にしても、2回にしても「私にはもっともらしく見える」といずれの読みにも大差がないことを認めています。
なお、利下げの総回数自体を見ても「2026年末までに9回」という点は前回から不変であるため、政策金利に対する姿勢が3月対比で根本的に変わったとは言えないでしょう。現に、FRBスタッフによる経済見通し(SEP)も3月と殆ど変わっていません。重要なことは今次局面で何回の利下げがありそうかという話であり、年内の回数を当てることに本質的な意味はありません。
タカ派・ハト派のいずれにも偏っておらず、裁量を確保した上で引き続き経済指標次第で臨機応変な対応をするというのがFOMCの基本姿勢と考えるべきでしょう。こうした中、強いて政策金利予想を示すならば、利下げは最速で9月開始、遅くとも12月着手といった想定にはなりそうですが、当のFRBが判断を留保している以上、流動的と言わざるを得ません。
中立金利上昇と為替見通しへの影響
今回は政策金利見通しは元より中立金利が2.6%から2.8%へ上方修正されたことが注目点として挙げられます。粘着的なインフレが続く米国経済の状況と合わせ見れば、潜在成長率が押し上げられており、これに割り当てられるべき政策金利も高いものへと変わりつつある疑いが持たれます。
利下げを志向する現局面に絡んで言えば、「思ったほど利下げの総回数は多くないかもしれない」という思惑にも繋がってくる話です。さらに言い換えれば、米国経済の地力(潜在成長率)が想定以上に強いという判断でもあるため、現行の政策金利水準を変えないこと自体にも合理性が備わってくるという読み方もできます。
いずれにせよ、ドル/円相場の観点から述べれば、日米金利差の拡大を主因とする円売り・ドル買いに関しては根本的な修正が難しくなっている可能性を示唆しているとも言えるでしょう。今年に入ってからの円安・ドル高は決して金利差拡大に沿った動きとは言いづらいですが、そもそも利下げに至らない(至っても限定的)という未来を織り込んでいる可能性も考えられます:
現状の米国経済に目をやれば、確かに中立金利が上昇している疑義は抱かれるところです。直近のCPIこそ下振れたものの、雇用・賃金情勢の逼迫が一般物価の高止まりに寄与している疑いは基礎的経済指標からも読み取れるところであり、昨年12月FOMC直後に「2024年は年6回利下げ」という前のめりの織り込みが進んでいたことと比較すれば隔世の感があります:
当時、筆者は6回は過剰であると考えていた立場ですが、それでも3回程度は十分想定されるとも考えていました。それほど昨年12月FOMCの急旋回は鮮烈なものでした。しかし、結局雇用・賃金情勢の逼迫はさほど変わらず既に1年の半分が終わろうとしています。もちろん、インフレ収束の道のりは元々「bumpy(でこぼこ道)」と言われていたので、時期はどうあれ、利下げに向かって着実に進んでいるのであれば、それは長い目で見れば順当と言えるかもしれません。
しかし、そもそも中立金利がもっと高いのだとすれば今次利下げ局面で必要とされる利下げ回数自体が果たして現状の「9回」のままで居られるのかどうかは注目点になりそうです。例えば、下図を見る限り、サービス物価の動きは「bumpy」の範囲内なのか、それともこのまま底打ちしてしまうのか判断の難しい状況にあります:
常々申し上げているように、筆者は今の円安を日米金利差拡大に全て帰責させようとする議論には反対の立場ですが。しかし、仮に金利差がドライバーだったとしても、本当に米国の中立金利が上がっているのであれば、円安修正が難しい局面に入っているようには感じます。
円安の常態化とその構造的背景
今後、我々が直面するのは「FRBがこの程度の円高にしかならなかった」という現実であり、その際、常態化したと見なせる円安を使って何を成すべっきかという議論が求められます。この辺りの構造的背景や処方箋の議論はメンバーシップで展開しております(掲示板を通じて色々な意見を活発に頂けるのは嬉しい限りです)。直近では切り札のように語られる対内直接投資の促進についても、負の側面から敢えて議論しております(基本的に筆者は賛成の立場ですが)。宜しければ覗いて見てくださいませ。