マンガ・アニメ・ドラマのもうひとつの意味④―なりきりニッポンを取り戻す
「日本ドラマは俳優・女優で見る。韓国ドラマは物語で見る。日本ドラマは短く、韓国ドラマは長い」 これが今回の論点―なぜ日本のドラマは見られなくなったのだろうか?
ドラマはテレビでしか見れないので不便だから、スマホでも見れるようにした。しかしそれで日本ドラマを見る人が大きく戻ったわけではない。一方、韓国・韓流ドラマにハマる人が多い。日本でもアジアでも世界でも人気がある。ネットフリックス等で、いつでもどこでも簡単に見ることができるようになり、人気の長編ドラマを倍速で全編一気見する人も多い。この数年で、ドラマの見方ががらっと変わった。そこに、大きな課題が隠されている
1.なぜ日本ドラマを見なくなったのか?
韓国ドラマは、分かりやすい。あり得そうで、ないストーリー。なさそうで、ありそうなストーリー。韓国を舞台にしているが、現実の韓国ではない。最初から世界を意識している場の設定。
人間の本性を抉(えぐ)り、人と人の関係性の根源的な本質を真正面に捉える。複雑なストーリーのように見えるが、単純でありながら明快で深く波乱万丈なストーリーが展開される。だから主人公に同化して、熱くなる。
しかもドラマ1話が長い。場合によれば80分と長い。シリーズも長い。20話、30話、50話、200話までつづくドラマもある。さらにK-POPアーティストたちが歌う主人公のテーマソングがここぞという見せ場で流れてきて、盛り上げる。だからそのドラマの「主人公」にドキドキうきうきと感情移入して
主人公になりきれる
一方、日本のテレビドラマは面白くないから、見なくなったという人が多い。なぜか?
日本のドラマは、複雑になった。分かりにくい。こんな話、絶対にないだろう、意味わからん訳わからん。複雑すぎて普通ではない物語か、底が浅くて答えがすぐわかる物語か刑事ものか医療ものか弁護士ものかビジネスものかラブストーリー。偏差値が高いか低いかで、真ん中がない。
しかも視聴率狙いやスポンサー企業の絡みのため、演技力がないアイドルグループのメンバーを主人公に据え、かれら中心のストーリーに原作から改変されているので
日本のドラマは
現実から、ズレるようになった
最近の日本社会の現実が捉えられていない
そんなん、ありえへん…
そんなストーリーが増えて、見なくなった。そもそも物事は
単純な方向性に真理があるのに
この鉄則を外して、日本のドラマを見なくなった
2.なりきりニッポンー現実とリアル
日本のマンガやアニメは、日本のみならず世界で、読まれ見られている。人気理由のひとつに、「主人公の存在感」がある。社会や日常生活に普通にいるようで、いないような主人公。いないようで、いそうな主人公である。その魅力的な主人公のマンガやアニメを読んだり見た人たちが、その主人公になりきろうとする。たとえば、かつてマンガ「課長島耕作」を読んだサラリーマンは、八面六臂の活躍をする島耕作に感情移入して、島耕作になりきろうとした
自分も「課長 島耕作」になれば
企業は強くなるという空気があった
みんなが現実の「課長 島耕作」にはなれない。しかしリアル「課長 島耕作」にはなりきれる。つまり大切なのは
現実ではなく
なりきって、リアルになること
重要なのは「リアル」。「現実とリアル」の違いは
現実とは、 与えられるもの
リアルとは 、感じとるもの
ドラマ「下町ロケット 」にも、それにちがいないノリがあった。阿部寛さんが扮する主人公佃航平になりきって、会社の危機一髪を乗り切りたいと、視聴者は感情移入した。昔、高倉健の任侠映画を観ると、高倉健になれるような気分になった。映画館を出たら、肩で風を切って高倉健になりきった。法で裁けない悪人を依頼者になりかわり恨みを晴らしたドラマ「必殺仕事人」の中村主水の気分になりきった
それは、まるで京都の街で着物を着て歩く外国人のような、日本人そのものになれないが、着物を着た「リアル」ニッポン人になりきって、日本人を感じ取る。これが
日本のなりきり文化だった
3 弱くなった日本のストーリーを再起動する
時代の記憶・空気が、童話・小説・マンガ・アニメをうんだ。童話・小説・マンガ・アニメが、時代の記憶・空気を濃密にして拡散してきた。
みんなが「課長 島耕作」になりきったら
仕事やチームワークはドラマチックになると思った
昔、男の子が「巨人の星」の星飛雄馬に夢中になったように。
昔、女の子が「エースをねらえ」の岡ひろみに憧れたように。
今、子どもも大人も「ONE PIECE」のルフィに憧れているように。
今、子どもも大人も「鬼滅の刃」の竈門炭治郎に憧れているように。
みんな、主人公になりきって
想いを実現しようとする心を育てた
しかしスポ根は時代の空気にあわなくなった。
ひとりのスーパーマンが艱難辛苦を乗り越えて夢を実現するのではなく、みんなが主役になって頑張ろうというマンガが増えた。「ONE PIECE」のように、みんなで協力して頑張ろう、みんなで協力して巨人を倒す「進撃の巨人」に、みんなで協力して鬼を倒す「鬼滅の刃」に、みんなで協力して脱獄する「約束のネバーランド」に、みんなで、協力して、目標を達成しよう、そんな時代になった
甲子園の高校野球もそう。エースかつ4番バッターの高校生離れした選手ひとりの活躍では、甲子園の優勝は難しくなった。甲子園の深紅の優勝旗を持つための戦略を描き、そこからバックキャステイングして、長期的な準備をして、選手のみならずスタッフ・応援団を含めて組織で戦っていかないと、優勝はできなくなった。大切なのは
それぞれが
それぞれの役割をなりきること
球児たちはそれぞれの役割をなりきって、それを果たすから、ドラマチックになり、目標をたぐりよせることができる
松本幸四郎さん扮する伝説のギャルソン千石武がレストランオーナーやスタッフの強みを再起動させて、つぶれかけていた老舗フレンチレストランを復活させたドラマ「王様のレストラン」は一級の経営の教科書であり、ビジネスの現場はドラマにそれぞれの俳優・女優に感情移入し、なりきり、現実のビジネスを頑張った
駅伝もそう。400メートルリレーもそう。ラグビーもそう。サッカーもそう。EXILEもそう、AKB48もそう、乃木坂46もそう、Perfumeもそう、King &Princeもそう
それぞれが、それぞれになりきって
想いを叶えようとする
しかしみんがなりきろうとするなかで、醒めている人やサボっている人は、ドラマの舞台から降板させられる。だから
なりきらないといけない
そのシナリオ、ストーリーが弱くなりつつある。どうしたらいいのか?
面白いストーリーをつくる
現在、日本のドラマが面白くなくなって、なりきる主人公や登場人物が魅力的ではなくなる。それは、ドラマの世界だけではない。ビジネスの世界でも、ものづくりでも、アートでも、社会全般がそういう傾向がなりつつある。
たかがドラマではない。たかがマンガ・アニメではない。社会の空気を大きく変えうる存在である。日本を強くするための方向は、倍速やファスト映画を多用することで失われてしまうことがあることに気づくこと。そして
間や情景や周辺は関係ないと思わないこと
ストーリーをおろそかにしないこと