パーパスなるものを考えてみた
この夏は、暑かったですねー。異常気象か、温暖化の影響か、何かのせいにせずにはいられない暑さです。今月は姑息シリーズを一度お休みして、パーパスについて考えてみたいと思います。
ところで先日、個人的には衝撃的なニュースを見ました。
「パナソニック」若者の5割知らず ブランド戦略を聞くhttps://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF02DPG0S2A600C2000000/
なんとパナソニックブランドの若年層(20代)の認知率が約5割となったという話です。
これも時代の流れというべきか、商品や広告媒体における顧客接点の変化や事業環境変化が引き起こした必然とも言えますが、それにしてもさすがに驚きました。
最近弊社に入社した若手スタッフにも聞いて回ったのですが、みんな驚いた様子。
「でも、そういえば家電は知人に譲ってもらうか、CtoCで買うかだし、ほとんどブランドのこと意識しないなぁ」なんて声もちらほら。
もはや総合家電メーカーが市場を席捲していたのは過去のことなのかもしれません。
近年パナソニック同様にグローバルブランドランキングが低下していたソニーが、2018年以降急転上昇に転じたのとは対照的ですよね。事業ポートフォリオの変化とブランドのプレゼンスは不可分ではないことが窺えます。
個人的には、我が家の家電は9割方パナソニックですし(パナソニックの炊飯器で炊いたお米はとってもおいしいです)、かつてお仕事をご一緒していたこともあるので、何とも寂しい限りです。そしてやっぱり松下幸之助好きとしては、ここから事業としてだけでなく、社会的プレゼンスもV字回復してほしいと思っています。
さてパナソニックホールディングス(株) ブランド戦略・コミュニケーション戦略担当 執行役員 森井さんはこの難題へ向けて次のようなことを述べています。
また以下のようにも述べています。
そして今後世の中に一番説明しなければならないこととして、「パナソニックの存在意義=パーパス」を挙げています。そして端的に表した言葉として「幸せの、チカラに。」
これは近年よく言われているパーパス経営とも紐づくものです。
この言葉やそれに紐づく活動を梃(てこ)に”新生”パナソニックの躍進に期待せずにはいられません。
メッセージ、抽象的になってしまいがち問題
ところで、いつも複数の事業活動を持つ企業や、大きな所帯の企業のブランドビジョンや企業スローガンを見ていると難しさを感じます。
どうしても、自身の事業全体に当てはめようと考えると、抽象的あるいは高尚な言葉にならざるをえないことがあるようです。
確かに間違ってはいない(いや至極真っ当)のだが、メッセージが発信された後によく起こる現象があります。
社内においては、
「ところで、私たちはいったい何をすればいいのでしょう?」
あるいは、「じゃあ今まで通りでいいということですね。」
届けるべき生活者(株主)にとっては、
「、、、、、なんでしたっけか?(特に記憶に残らず)」。
別に企業のパーパスやメッセージだけで、何かが一変するわけではないので、過度に期待することは間違いなのですが、きっちりとその企業・ブランドの本質を見つめ、社会環境も照らし合した上で、言葉を紡いだはずなのに、なかなか効果を発揮しづらいことがあります。
良質な(パーパス)メッセ―ジを考える
じゃあ逆に、良質な(パーパス)メッセ―ジとはどのようなものでしょうか。
例えば1997年から2002年までAppleの広告キャンペーンのスローガンとして使われたメッセージ「Think different」。Appleの存在意義を決定づけた非常に印象的な言葉です。中の人にとっての行動規範であると同時に、社会あるいは生活者自身の生きるための道しるべともなりえるものでした。
ジョブズは1994年、PBSのドキュメンタリー番組『One More Thing』のインタビューで、次のように述べているそうです。
「Think different」は、システムや規範につい囚われてしまう社会に対しての強烈な一刺しだったのだと感じます。
さて、もう一つご紹介したいメッセージがあります。
太陽工業株式会社「膜にこだわり、膜を超える。」
多くの方は、「太陽工業?」となるとは思いますが、ドーム球場などスポーツ施設やイベント会場、空港などの建造物で使われる大型膜構造建築物において世界シェアトップクラスを誇る企業です。
古くは、1970年の大阪万博において数々のパビリオンを手掛け、建築業界において膜構造という新しい構造を一般化させた企業でもあります。
コーポレイトサイトのトップページの力強さは半端ないですよね。
これこそ社内外問わず、自分たちにとっての矜持、信念を奇をてらわずにストレートにだしたメッセージですよね。もはや信じるしかない!と感じてしまいます。
「メッセージ」の要を考える
これら両者のメッセージに共通するポイントがあります。
さてそれは何でしょうか?
それは【出し手の文脈】と【受け手の想像】だと考えています。
まず【出し手の文脈】が大切です。
出し手の文脈として、実事業における自社の振る舞いや製品・サービスとそのメッセージがつながりを持っているのか。言葉だけが浮足立って、自社の活動と結節できなければ単なるお題目と化してしまいかねません。
例えばAppleであれば、「innovation for the future」とか言われるよりもとにかく地に足がついていますよね。確かにAppleが生み出してきた製品群は”これまで”を疑い、”これがいい”に徹しきる、”違う”ことを考えることによって生み出されてきたのではないかと感じます。
思考と実行が一体となることによって説得力が増すわけです。
太陽工業でいうならば、この言葉と共にコーポレイトサイトのトップページで紹介されているアーカイブがものがたっていますよね。
サウジアラビアのMedina Haram Piazzaに建てられた超巨大アンブレラ群は壮観です。訪れた礼拝者を太陽や雨から守るためのものですが、143,000平方メートルという途方もない規模の可動式アンブレラです。もはや膜にできないことはないとでも言わんばかりの規模感ですよね。
そりゃ膜も超えるわ(笑)!!!と、妙に納得してしまいます。
そして同時に【受け手の想像】が大切。
これは【受け手の文脈】とも言い換えることができます。要は受け手にとって想像がつくのか、まだ見ぬイメージが頭の中に湧くのかどうかということ。上記のように”実”を伴うものであれば確かに同時にかないやすいのですが、仮にまだ”実”を伴っていない場合にどうすればいいのか。ここが一番難しい課題なわけです。
PASS THE BATON MARKETの場合
弊社の事業であるPASS THE BATON MARKETのスローガンは「日本の倉庫を空っぽにしよう」。
これも、【受け手の想像】をものすごく意識した言葉です。本当の目的は”空っぽ”にした先に生まれるであろう創造性や可能性にあるのですが、敢えて誰しもにとってトリツクシマのある、イメージすることができるところにコトバを置きました。結果、参画企業の多くの方々からの賛同と、そして来場するお客様にとっての共感を生み出せているようです(自画自賛ですいません)。
そして【受け手の想像】といえばもう一つ外せないメッセージがあります。これは松下幸之助の言葉で、ビジネスマンにとってはあまりにも有名な言葉「水道哲学」です。
やはり優れた経営者からは優れた言葉が生まれるということか、誰しもがイメージできる具体的事象をもちだし、企業の理念に拡張するお手本のような言葉です。きっと松下幸之助には、この水道哲学が叶った未来の姿を想像しきれていたに違いないですね。抽象的な言葉は、様々な事情や事象を丸め込んでくれる性質があります。あるいはすべての事象の目的をラダーアップしていくと、確かに”豊かさ”や”幸福”に繋がっていくものです。それそのものは否定しようのないことではあるのですが、結局はどんな企業でも同じ回答に行きついてしまうのではないかと思います。
優れたパーパスにはその企業なりの矜持、固執するもの、こだわり、HOWが詰まっています。
それはAPPLEにおける”Different”であり、
太陽工業における”膜”であり、
松下幸之助における”水道”だということです。
さて、皆さんのあるいは皆さんの会社における矜持はいったい何でしょうか?スマイルズで言うならば、それが”N=1の自分事”ということかもしれません。
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