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実は既に「労働者概念」は多義的になっているのではないか

フリーランスの政策が活発に議論されて以降、頻繁に問題になるのは、「現行の労働者概念を見直すべきではないか。」という論点です。

このような議論になった時にいつも思うところとして「実は既に『労働者概念』はかなり多義的になっているのではないか。」ということです。

労働基準法上の「労働者」とは

労働基準法では、「労働者」を以下のように定義しています。

「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

これを整理すると、一般に①使用従属性、②報酬の労務対償性がある場合には、「労働者」とされるとしています。

労働組合法の「労働者概念」とは違う

労働者概念が既に多義的だ、という意味では、まず労働基準法の労働者と、労働組合法の労働者の違いがあります。

労働基準法上の「労働者」は上記のとおりですが、労働組合法上の「労働者」は、以下のように定義されています。

「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。

労働組合法上の「労働者」の定義は、労働基準法上の「労働者」の定義と文言、立法の沿革に照らして異なっており、労働組合法上の「労働者」は労働基準法上の「労働者」よりも広いと解されています。

労働基準法の「労働者」の中身も実は様々なのでは

上記のように労働組合法上の「労働者」と労働基準法上の「労働者」が違うというのは、定義されている法律が違うので分かりやすいところでしょう。

ただ、よくよく考えてみると、労働基準法の「労働者」の中でも既に様々な形態があるのではないかと思われます。

典型的な「労働者」としては、特段の労働時間制度の適用がない通常の労働時間制度が適用される労働者です。
この場合は、おそらく多くの人がイメージしている「会社から指揮命令を受けて、時間や場所に拘束されて働いている人」という労働者イメージが当てはまるでしょう。

しかし、労働時間制度の多様化によって、会社からの指揮命令、拘束の度合いが低くても「労働者」であるパターンが出てきています。

まず、フレックスタイム制が適用される労働者は、始業・終業を自らの決定に委ねられているので、「労働時間の拘束」は典型的な労働者に比べると弱くなります。

また、裁量労働制も、その業務の性質に照らして主体的に仕事のやり方を認めるべき業務について、実際の労働時間にかかわらず労働時間を「みなす」仕組みを採用しています。

さらには、働き方改革で導入された「高度プロフェッショナル制度」では、労働時間規制の適用が排除されます。
高度プロフェッショナルは要件が厳しくまだ利用が多くないところですが、今後見直しの議論が開始される見込みです。

これらの労働時間制度が適用される人は、業務の進め方などについて相当に裁量を有しており、典型的な労働者とは違うことは明らかですが、労働基準法上「労働者」として位置づけられていることは明らかです。

労働者概念の議論の前提としてどの「労働者」がイメージされているか

このように、典型的に「労働者」としてイメージされてきているのは、「会社から指揮監督を受けて、時間や場所が拘束されている人」というものですが、労働時間規制の多様化によって、明らかにそうではないものの「労働者」ではあるパターンも登場しています。

荒木教授の「労働法」によると、「裁量労働者の労働者性を基礎づけているのは、企業組織に組み入れられて、就業規則や企業秩序に服し、企業秩序違反等に対しては懲戒処分等もあり得るという点で、使用者の指揮命令下で就労していると評価できることにある」としています(荒木尚志「労働法」(第5版、有斐閣)第57頁)。

フリーランスとの関係で、「今の労働者概念は狭いのだ」と議論する場合、おそらくは上記の典型的な労働者パターンが「暗黙の前提」とされているのでしょう。
ただ、よくよく見ていくと「労働者概念」が多義的になっているのであるから、労働者概念の議論をする場合には、議論の前提となる労働者概念をどのように捉えているかを明確にしたうえで議論をすべきではないでしょうか。

※なお、個人的には、現時点では、労働者概念の拡張などは否定的に考えています。
その理由としては、以下もご参照ください。


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