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フリーランス新法の適用範囲と「労働者性」の問題をどう考えるか

さて昨日、いよいよフリーランス新法が成立しました。

前回、フリーランス新法を「保護法」とみるべきか「取引適正化法」とみるべきかという議論について書きました。

今回は、ある意味フリーランス政策の最大論点と言ってよいと思われるフリーランス新法の適用範囲と「労働者性」について思うところを書いていきます。

新法の適用範囲

「特定受託事業者」

”フリーランス”新法、と通称言われていますが、実際に法律の条文で「フリーランス」という言葉が使われているわけではありません。
実際には、「特定受託事業者」という概念が用いられています。

そのうえで、「特定受託事業者」とは、「業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの」を指し(正確な定義は条文をご確認ください。以下同じ)、個人事業で従業員を使用していないパターンと法人だけども従業員や役員が自分以外いないパターンの双方が含まれます。
要は、法人成していようがいまいが、「一人」でやっていれば特定受託事業者ということになります。ただし、短時間・短期間労働者を使用している場合は、「従業員を使用している」ことにはならないとされています。

「特定業務委託事業者」

他方で、様々な規制を受ける側である発注者側の定義としては、「特定業務委託事業者」という概念が用いられています。
「特定業務委託事業者」とは、「特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するもの」を言い、かなり幅広い概念になっています。
ここでのポイントは、冒頭に紹介した前回の記事のとおり、この法律の狙いが下請法の適用のない範囲のフリーランスとの取引適正化にあるため、資本金要件がないということにあります。

「業務委託事業者」

なお、(「特定」でない)「業務委託事業者」という概念もあり、これは、従業員を使用しないものも含み、特定業務委託事業者よりさらに広い概念です。
取引条件の明示義務については、この「業務委託事業者」にも適用されます。
つまり、フリーランスからフリーランスに対する取引についても適用されるということです。

「業務委託」

さて、実は忘れてならないところは、「業務委託」の概念です。
条文は少し長いので、要約すると、物品や情報成果物の製造・作成、役務提供を委託することです。

この「業務委託」もかなり広い概念となっており、下請法のように下請取引の構造にあることは必要となっていません。

これもまた、この法律の狙いが下請法の適用のない範囲のフリーランスとの取引適正化にあるためです。

フリーランス新法の適用範囲をどう見るべきか

さて、上記のとおり、フリーランス新法の適用範囲はかなり広いといえます。
要は「一人でやっている人」は全て含まれるので、(それ自体法律的概念ではないのでイメージは様々なのですが)「フリーランス」と呼ばれる方々のほとんどは対象となるといってよいだろうと思われます。

他方で、「事業者が事業者に事業のために委託する」場合に適用されるものなので、家事代行のようなBtoCには適用はありません。

また、トラブルの多い仲介事業者との関係ではも、仲介事業者のなかでも再委託型の場合は適用がありますが、単なる「場の提供」のようなプラットフォーム型の場合には、適用はないということになります。
ここは今後の課題にもなるでしょう。

労働者性の問題をどうみるべきか

さて、フリーランス新法はフリーランスを「事業者」として位置づけている法律です。
そのため、法案が出てきてからも「労働者性の拡大がないではないか!」という意見や、「これができることで労働者として保護する途が閉ざされるのではないか!」という声が聞かれます。

これをどう考えるかはフリーランス政策最大の論点であるといえるでしょう。

令和2年5月に内閣官房から公表されたフリーランス実態調査によれば、以下のように労働者性が疑われる人たちは存在します(「該当するものはない」が一番多いのですが)。

内閣官房「フリーランス実態調査結果」(令和2年5月)

これをどう考えるかですが、この結果から分かるのは、「そもそも今の労働者概念に照らしても労働者に該当する人が一定数存在している。」ということだけであり、「だから拡大しよう」とはならないでしょう。

したがって、まずやるべきは現行法の下での労働者概念を前提にしっかりと執行することではないでしょうか。

労働者概念の拡大をどう考えるか

私の基本的考え方は、「まず何を保護するか」から考えるべきだという考えです。
実際、フリーランスからの相談を受ける場面においても、例えば「報酬が払ってもらえません」という相談でで、民事的に請求する場合には、労働者であることは必須ではありません。
他方で、例えば損害賠償予定がありこれを争いたいというのであれば、労働者性を主張する意義が出てきます。
このように、実際のトラブル解決において、「労働者」であることは必ずしも必要ではないのです。

この点については、以下もご参照ください。


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