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「女王蜂症候群」〜”若い時に苦労したから今の自分がある”...だから私たちも耐え忍ぶべき?

ずいぶん前の食事の席で、かわいいお子さんを連れて参加されていた当時30代後半の女性の方から、“若い時に苦労したから今の私がある。子どもを持てるのは苦労したからこそ。みんなもまずは仕事を頑張ってね。”という趣旨の言葉をかけられたことがあります。当時も今も、どうしてもどこか引っ掛かりを覚える言葉です(だからこそ何年も覚えているのですが…)。

「女王蜂症候群」という言葉を知り、あの言葉に自分が感じたモヤモヤに合点がいったお話しです。

「女王蜂症候群」とは

 「女王蜂症候群(クインビーシンドローム)」は、今から50年近く前の1970年代、米ミシガン大学のグラハム・ステインズ、トビー・エプステイン・ジャヤラトナ、キャロル・タブリスの研究論文「The queen bee syndrome」( Psychology Today, 1974)で使われた言葉で、男社会で成功した女性が、自分の地位を守るために他の女性の活躍を快く思わない心情を表している。

 “女王蜂”は、男社会の中で必死で頑張ってきたエリート。育児も仕事も完璧にこなすスーパーウーマンで、仕事もできるし、身体もタフ。職場のマチョタイム(会社人間時間)に適応し、夫とも対等な関係を築いている。

 「この地位を手に入れられたのは、自分ががんばってきたからだ」という自負が強く、今の地位も気に入っているので女性全体の地位向上には至極冷淡というのが当時の解釈だった。

日経ビジネス:「女王蜂」上司が女性部下を潰す不都合な真実

まさに、冒頭の彼女を思い出さずにはいられませんでした。可愛い盛りのお子さんを見つめる眼差しは愛情に溢れていたし、私たちに向けられた言葉にも悪意は全く感じられなかった。けれどその言葉を受け取る私には、チクリと刺すものがあったことは今も忘れられません。

「女王蜂」を見倣うことを求める女性活躍推進はしんどい

パラレルキャリアの一つとして、2年前からメンタリングの仕事をしています。社内で管理職となることを期待されている女性メンティから漏れ聞こえてくるモヤモヤにも、「女王蜂」の影が見え隠れすることがあります。具体的な存在がいることもあれば、会社の或いは社会の雰囲気が生み出した「女王蜂」を感じることも。

“管理職を打診されているが、パートナーか両親/義両親を頼るか、時間外で子どもを預けるかシッターを雇わないと到底無理な働き方。睡眠を削ってでも家庭と仕事を両立させてきた先輩たちがそうしてきたのはわかるけれど、そうでないと管理職を引き受けられないかのような雰囲気はしんどい。*”
*お話しくださった方の了承をいただいた上で記載しています。

女性活躍推進が叫ばれる昨今、昇進の機会を得ても、実際には環境が整っていないことにジレンマを感じている女性たちに多々出会ってきました。家庭と仕事を両立するためのやりくりは、自助努力に委ねられている現状。たくさんの企業が急ピッチで女性活躍推進の旗振りのもとに制度づくりを進めている一方で、まだその制度の利用例がなかったり、利用例が出たとしてもその後のフォローアップ体制までは整っていなかったりすると職場の雰囲気は変わらないまま。先陣きってその制度を使い倒し新しい両立スタイルを築くのは、勇気がいることだと思います。

女性の半数超が「管理職になりたくない」と考えている

日経新聞:「管理職なりたくない」半数超 

…という統計が出てしまうのは、女王蜂に倣うような働き方を覚悟しなければ、管理職の務めは果たせないと思わせてしまうような状況があるからではないでしょうか。

そう考えると、「女王蜂」という表現にもやや問題がある気がしてきました。「女王蜂症候群」的な状況に陥っているのは、女性に限らず、社会そのものかもしれません。

自分の中の「女王蜂」をなだめて働きやすい社会を作る一助となりたい

「女王蜂症候群」について書いてみようと思いついたときに、一昨年の「逃げ恥」元旦スペシャルのことも思い出しました。日本の社会問題に対する提言てんこ盛りの内容だった中でも、沼田さんのリスク管理問題についての発言はインパクト大でした。

●名言19:リスク管理問題
「誰が休んでも仕事が回る。帰ってこられる環境を普段から作っておくこと。それが職場におけるリスク管理」by沼田さん
開始1時間08分29秒
→今回の名言大賞と言ってもいいのではないでしょうか。会議の場で、平匡さんの育休取得について嫌味を言う灰原課長に、沼田さんが言った決め台詞。

東洋経済オンライン:「逃げ恥SP」詰め込まれた"30の名言"が凄すぎた
あれから4年、「ニッポンの課題」がてんこ盛り

簡単じゃない。そうだと思います。でも沼田さんのいうようなリスク管理の行き届いた社会に住んでみたい。そのためには、社会全体でこの問題を自分ごとと捉え、向き合う必要があるのではないかなと思います。

「女王蜂」は、ジェンダー問わず誰の中にも存在しえるものだと思うのです。私自身も、他人と比べて自分を憐んだり誰かを羨んだり、認めて欲しいと思う承認欲求を捨てきれなかったりすると、自分を肯定したい気持ちが働いて「女王蜂」的な言葉が口をついて出そうになることがあります。そんな自分は嫌だなと思うのですが、その感情を消し去ることも難しい。それなら自分の中の「女王蜂」を認めて、表に出てくることはやめようねとなだめてあげたいと思っています。

このテーマを扱うのは正直相当ドキドキしたのですが…そろそろ当時の彼女の年齢に追いつく今。自分が女王蜂になることは決してないように、自分を顧み続けたいという決意を込めて。


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