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FOMC議事要旨と円金利上昇に思うこと

追加利上げ示唆も市場は落ち着き
ECBの議論をしたところで、ちょうどFRBの議事要旨も公表されましたので、こちらも簡単なメモを作っておきたいと思います。直近の指標や金融政策運営については基本的にメンバーシップに限定せず、誰でもお読みできるものにして参りたい所存です(指標や政策運営の早打ち解説のようなコンテンツに有償の価値は無いと私は思います):

22日公表されたFOMC議事要旨(4月30日~5月1日開催分)からは改めてFRBの利下げが難しそうな実情が透けました。特にスタッフ経済見通し(Staff Economic Outlook)の項目において以下の文章が明記されたことが目を引きました:

Several participants commented that growth of aggregate demand would likely have to slow from its strong pace in recent quarters for inflation to move sustainably toward the Committee's goal

裏を返せば米国経済の現状が力強い総需要で支えられているというのがFOMCの基本認識ということになりましょう。さらに同じ項目の結びの部分には以下の文章も記述されました。この点も重要でした:

Various participants mentioned a willingness to tighten policy further should risks to inflation materialize in a way that such an action became appropriate

端的に追加利上げの必要性にまで言及する参加者が複数存在したということであり、議事要旨通じて総じてタカ派色は強かったという印象です。

もっとも、周知の通り、このFOMCから2週間後となる5月15日には米4月消費者物価指数(CPI)の減速が確認されているため、経済・物価情勢の減速が実現しつつあるという見方も足許では可能です。議事要旨を受けて米金利がさほど上昇していないのは、直近の経済指標を重く見ている金融市場の胸中を反映していると考えるべきでしょう

とはいえ、追加利上げを要求するようなインフレ警戒感が単月のCPI減速だけで払拭できるのでしょうか。普通に考えればそれは難しいはずで、基本的に早期利下げの難しさを訴える内容であったことを為替見通し上、留意すべきだと思います。現状のCPIを見る限り、賃金の騰勢を反映するサービス物価は下げ渋っており、失業率も横ばいが続いています:

議事要旨では名目賃金の伸びが緩やかになっていることについて言及も見られていましたが、現実問題としてサービスを含むCPIの押し下げに顕著に繋がっている状況はまだありません。年内利下げパスは文字通り「data dependent」であることに尽きますが、市場予想通りの1~2回とした場合、最速で9月に1回目、次に12月に2回目といったスタッフ見通し改定に合わせたペースが無難と見受けられます
 
金利差縮小でも進む円安
片や、22日の日本では金利上昇が話題となりました。具体的に長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは22日午後に2013年5月以来、11年ぶりに1%をつけたことがヘッドラインでも騒がれています:

円安対応として警戒される日銀の国債買い入れ減額がいつ、どの程度になるのか読めない中、超長期債(40年債)の入札が不調となり、これが10年債利回りも押し上げたという解釈が支配的です。

もっとも通貨防衛を念頭に置き始めている日本の市中金利が上昇する展開は教科書通りでもあり、意外感はありません。むしろ、意外感があったとすれば為替市場でしょうか。22日は円金利が上昇、米金利が横ばいとなる中、日米金利差の縮小が意識される展開にあったにもかかわらず、ドル/円相場は156円前後から156円台後半まで上昇しています。率直に言って、過去1年間を振り返っても、日米金利差とドル/円相場にそこまで安定した関係があったとは思えませんが(図)、依然として市場では両者の安定した関係に期待する論調は根強く、22日から23日かけて見られたような日米金利差とドル/円相場の「ねじれ」が慢性化すれば一段と金利差以外の円安要因に注目が集まりやすくなる可能性はあります

今後、日銀が引き締め政策を重ねたとしても米金利との距離感が目に見えて縮まるにはまだ相当の時間を要します。それゆえ、「拡大した日米金利差が円安の要因」という定説を為替市場が信じるほど、日銀に求められる利上げ幅は大きくなってしまうという現実があります

noteでは執拗に論じている点ではありますが、円安には国際収支構造の変容に付随する需給構造変化も寄与しているはずである(全てがそうだとは申し上げませんが)。にもかかわらず、これを脇に置いて金利経路一本で円安圧力の鎮圧を期待すると過剰な水準まで政策金利が引き上げられてしまう恐れもあるように感じます

もちろん、日銀は経済・物価情勢を勘案して政策判断を行うはずですが、為替市場の期待と投機に飲み込まれる中、金利差縮小に訴えかけようとして自傷行為のような利上げを繰り返す展開は歴史的に新興国が悩まされてきた展開でもあり、リスクシナリオとして検討に値するように感じます。

定着する「為替との戦い」、そして求められる処方箋…..
以下はメンバーシップ内での記事ではありますが、既に日銀は「為替との戦い」に引きずり出されてしまっている感もあり、如何に上手に時間稼ぎを噛ませて米国の利下げを待つのか、という局面に入っているように感じます。時間稼ぎは日銀だけでは難しく、政策総動員が必要だと思いますが、こちらも処方箋をまとめたコラムをご用意しました。ご関心のある方はメンバーシップを覗いて頂ければ嬉しいです:


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