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民事再生手続きって? 日経電子版で学ぶ新社会人の基礎⑩

新型コロナウイルスの感染が広がるなか、異例の形で始まった新年度。頑張る新社会人を応援するため、日経電子版をまだよく知らない方にも分かりやすく、記事の紹介に加えて仕事に役立つ知識をお届けします。

今回から、「経済ニュースでよく見るキーワード」をテーマに解説したいと思います。

まずは次のニュースを読んでみましょう。

レナウンは日本を代表する老舗アパレルで、百貨店を中心に紳士服「ダーバン」「アクアスキュータム」といったブランドを展開してきました。アパレル業界の不振に、新型コロナ感染拡大による百貨店の休業、消費の減退が追い打ちをかけたということです。さてここで出てくる「民事再生手続き」とはなんでしょうか。

1.民事再生手続き

企業が経営難に陥ったときに、経営を立て直すための方法がいくつかあります。その1つが「民事再生手続き」です。

手続きとしては、まず「これからこれくらいの収入が見込めるので、一定期間に借金を分割で返済します」という計画を裁判所に提出します。お金を貸している債権者たちがその計画を認め、裁判所も認可を出せば、その返済計画以上の借金や債務は免除され、会社が立ち直りやすくなります。

法律に基づいた手続きにのっとることから「法的整理」の1つとされます。「仲がいい銀行にはこっそり返してしまおう」などということがないように、弁護士が管財人としてしっかり会社の財産を管理することになります。レナウンのホームぺージにもきちんと今後の手続きが書かれています。

エアバッグメーカーのタカタも1兆円以上の負債を抱えていましたが、この手続きを経ることで、99%の債務が免除されました。

この民事再生手続きは企業以外にも利用できます。例えば会社以外の法人。森友問題で話題になった「森友学園」も民事再生手続きで再建を図っています。

個人でも利用できるケースがあります。よく借金を抱えて「自己破産」する、などと耳にしますが、民事再生で立ち直る方法も用意されています。

2.会社更生手続き

企業が経営難になったときに、「民事再生手続き」「民事再生法」以外でよく聞くのが「会社更生手続き」です。「会社更生法」に基づく手続きにのっとって会社再建を目指すもので、こちらも「法的整理」の1つですが、民事再生手続きとはやや異なります。

近年の事例では日本航空が会社更生手続きを利用しました。

民事再生法と会社更生法の大きな違いは「経営陣の立場」と「強制力」です。まず経営陣ですが、民事再生手続きは旧経営陣がそのまま経営を続けることができます。一方で会社更生手続きは経営陣の退任が前提です。

民事再生手続きで取り上げた森友学園の事例では、籠池町浪理事長は手続き成立後も経営を続けることになります。逆に、会社更生手続きを申請した日本航空では経営陣が退任し、新たに着任した稲森和夫会長の下で再建が進められました。

「強制力」の面では、会社更生法は管財人のもと、厳格に再建が進みます。そのため、債権者が多かったり、複雑だったりする場合は会社更生法の方が有利です。日本航空の場合は同社の企業年金なども見直す必要がありましたから、こちらの手続きで進みました。同じ航空業界でもスカイマークは当時債券の約4割を機材リース会社が持っており、権利関係が複雑ではなかったことから民事再生手続きを選びました。

ちなみに法律の名前通り、こちらは企業だけが使える手続きです。

3.もう1つの手続き「私的整理」

上の2つは裁判所を通じた手続きのもとになされる「法的整理」ですが、裁判所を通じずに会社を立て直す「私的整理」という方法もあります。

よく知られるものだと「事業再生ADR」があります。最近だと自動車部品メーカーの曙ブレーキ工業が利用しました。

この手続きは政府の認可を受けた事業者を第三者として、そのもとで債権の整理など合意の手続きを進めます。法的整理と異なるのは「債権」の幅です。法的整理では取引先に支払いを待ってもらっているお金なども整理の対象になりますが、私的整理では基本的に減らしてもらう債権は銀行など金融機関からの借り入れや社債といったものに限られます。取引先への支払いなどはカットされないので、従来通りの取引を続けられる、というのがメリットです。

これまでの事例では消費者金融のアイフル、マンションのコスモスイニシアなどがこの手続きを使って再生しました。

デメリットは債権者全員の賛成が必要という点です。不成立の場合はより厳格な法的整理に進むことになります。日本航空も当初は事業再生ADRを申請しましたが不成立となり、会社更生法が適用されました。

お菓子などに使われる「トレハロース」で知られるバイオメーカーの林原も金融機関と合意に至らず、会社更生手続きに移りました。運輸業者のワールド・ロジという会社も合意がまとまらなかったため経営再建のめどがたたなくなり、そのまま破産しました。

これから新型コロナ感染拡大の影響が顕在化するなかで、国内外企業の経営破綻や再建へ向けた動きが多く報道されると思います。ある程度どの手続きがどのような意味を持つか知っておくと、より深くニュースを知ることができるようになります。


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