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マイノリティのために働き方の選択肢を増やす意味

昨今、様々な企業で多様な働き方を可能にする制度が導入されるようになってきた。

その背景として、個人の就業観の変化や、少子高齢化・グローバル化が進む社会環境下で多様な人材に活躍してもらう必要性が出てきたこと、また情報技術といったテクノロジーの進化によって、今までできなかった働き方が可能になったことが挙げられる。

かくいうサイボウズも、働き方の選択肢を増やしてきた企業の1つであり、現在、社内には多様な働き方の人たちが存在している。

無期雇用社員(正社員)のなかにも、週4勤務や週3勤務の人、ある曜日の所定労働時間だけを短くしている人、あるいは、フルリモートワークの人や、他社で幾つも複業をしている人、中には、本業の仕事を持ちながら、週2日はサイボウズで副業として雇用され、かつ、フルリモートで働いているというメンバーもいる。

こうした多様な働き方をする人が取り上げられるたび、他社の人事の方から、「そんなに多様な働き方の人が沢山いると大変そうですね」と言われることがある。

確かにそれは事実なのだが、よくよく話を聞いてみると、まるで、色んな働き方の人が社内割合的にも満遍なくいるようなイメージを持たれていることがある。しかしながら、上記で挙げたような働き方をしている社員は、社内全体からすればマイノリティであり、そんなに沢山特殊な働き方をしている人がいるわけではないというのが実情だ。

今回は、働き方の選択肢を増やしたあと、実際に社内に起きている現実と、働き方を多様化・柔軟化することの意義について考えてみたい。

「多様な働き方」の現実

もちろん、働き方の選択肢を増やし、それを実際に選択する人がいる以上、社内における働き方の多様さが増していることは間違いない。

それに伴って人事的な事務コストや、職場でのコミュニケーションコストが増えるということもあるだろう。

しかし実態として、働き方の選択肢が増えたからといって、いきなり全員が満遍なく多様な働き方を選び始めるかといえば、そんなことはない。

現在サイボウズで働いている人のなかで、時間の量という観点で、週5フルタイム以外の働き方をしている人は全体の15%程度である。

逆に言えば、大半は週5フルタイムの、いわゆる「一般的」な働き方をしている(時間帯や残業時間の制限範囲などを加味すれば、その中にもさらにグラデーションがあるが)。

また、副業をしているメンバーも全体の30%*ほどで、これも到底マジョリティ層だとは言えない。

*サイボウズでは特定の条件を満たさない副業について申請不要としており、正確な数字はわからないため、外部機関の調査に協力した際のデータを参照

つまり、働き方に多様な選択肢があることと、実際に多様な働き方の人が大勢いるかどうかは別の話なのである。

ここで次に考えたいのは、働き方のマイノリティのために選択肢を増やすことに一体どんな意味があるのか、ということだ。

マジョリティとマイノリティを往復する

ここまで見てきたとおり、現在、(当たり前だが)サイボウズの中にも働き方のマジョリティとマイノリティが存在している。

ここで最初に留意しておきたいのは、働き方というのは、常に変化し続けるものだということだ。

たとえば、元々はフルタイムで働いていたが、徐々にサイボウズでの勤務を減らして他社での副業の割合を増やしたという人もいれば、サイボウズでのコミットは少なめで採用された後、社内にマッチする業務が増えてきたためコミット度合いを増やしていったという人もいる。

実際、ぼくが働いている労務チームのメンバーには、育児や子どもの受験といったライフイベントに合わせて「週3日9:00~15:00」→「週4日9:00~16:00」→「週5日9:00~18:00(水曜はAMのみ)」と、都度チームと働き方を再合意している人がいる。

つまり、ある働き方の割合がマイノリティと言っても、その割合の中にいる人たちは入れ替わることがあるのだ。

働き方の選択肢がある、ということは、裏を返せば、誰でも人生のタイミングによって訪れる可能性がある、今までどおりの働き方ができなくなるような事態に直面したときにも、働き続けられるということだ。

実際、社内で活躍する人の中には「もしサイボウズにそういう選択肢がなければ、そもそも入社すらしていなかったと思う」と話す人もいる。

どんな人でも、今まで通りの働き方ができなくなったとき、可能な範囲で貢献し続けられる環境をつくっておくことは、組織にマッチする人材の確保という観点からも、意味があることと言えるのではないだろうか。

マジョリティとマイノリティが入れ替わる

ここまでは、誰もが働き方のマイノリティになる可能性がある、という話をしてきたが、そもそも社会的な環境変化などによって、現在、マイノリティとされている働き方が一気にマジョリティになるケースもある。

直近でいえば、新型コロナ禍の影響で、働く「場所」は大きく変化した。

サイボウズは2012年から在宅勤務制度を導入しており、元々、働く場所の選択肢は多くあったが、新型コロナ禍の前は出社率70%程度だった。

テレワークはマイノリティの働き方だったのである。

それが新型コロナ禍の影響によって、出社率は一気に10%程度にまで下がった。つまり、テレワークが一気に社内における働き方のマジョリティになったと言える。

ここでサイボウズがスムーズにテレワーク主体の働き方に移行できたのは、コロナ前から、可能な限り紙を使った業務を減らしたり、グループウェアですべての情報を共有することで出社/在宅の情報格差をなくしたりと、社内でマイノリティ層だったテレワーカーも働きやすい環境を既に構築していたことが大きな要因の1つだった。

不測の事態は、言葉どおり、いつ起こるかはわからない。

マイノリティのために選択肢を増やしていくことは、決して単なる「やさしさ」ではなく、この不確実な時代において、いち早く変化に対応するためには必要なことだといえるかもしれない。

時代はどんな働き方を選択するのか

働き方は、個人の人生のフェーズによって変化し続けるものであり、また、社会環境によって、どんな働き方がマジョリティ(マイノリティ)になるのかも、常に揺れ動いていく。

少子高齢化が進み、これまで以上に、育児や介護で社員が働き方の制限を余儀なくされるケースが増えることで、フルコミットが難しい人でも継続して働ける環境づくりが急務になっていくかもしれないし、あるいは、情報技術の進化に伴い、空間的制約が外れることで、これまで以上に複業をしたいと思う社員も増えるかもしれない。最近では、サイボウズで週3勤務で働きながら複業として起業していた人が、自身の事業に専念したいと完全にスピンアウトするようなケースも出てきた。

参考記事:開かれた組織は、本当に人の可能性を開くのか【世界経営者会議】

また現在、日本社会でマジョリティ(デフォルト)とされている無限定正社員も、元々は、女性に家事育児を分担することで成立していた日本特有の働き方であり、専業主婦世帯よりも共働き世帯が多くなってきた現代社会において、今後、見直されていくことも大いに考えられる。

そういう意味では、サイボウズは既に条件を個別に限定した働き方がマジョリティ(というか全員)になっている会社である。

どこかで、業務内容や時間、場所を個別に限定した働き方がマイノリティからマジョリティに変わっていく瞬間だって訪れるかもしれない。

参考記事:情報技術で「正社員改革」に福音を

どんな働き方がマジョリティ(マイノリティ)になるのか、それはある意味、その時代が選択するとも言える。

時代がどんな働き方を選ぶのか。

それはぼくにもわからないが、少なくともそうした時代の変化に対応できるよう、社内に選択肢を増やしておくことはできるかもしれない。

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