荒川和久/「結婚滅亡」著者
「百聞は一見に如かず」伝言は嘘の伝言になりやすい。
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「百聞は一見に如かず」伝言は嘘の伝言になりやすい。

荒川和久/「結婚滅亡」著者

スウェーデンの方が自国の少子化対策について語っている記事です。こういう記事を「そうなんだー」と鵜呑みにするのではなく、ちゃんと自分で事実との整合性を見極めることが大事。

さて、では、ちゃんと事実との精査をしていきましょう。

そもそもスウェーデンの長期の出生率推移から把握していきましょう。

国連WPP及び人口動態調査より荒川和久作成。無断転載禁止。 

日本に比べて多少多いといえるが、それとて2.0を切っているわけで、スウェーデンとて2010年以降はずっと出生率は下降し続けている。

記事にあるスウェーデン人のコメントにあわせて時系列的にみていこう。

「1971年、家族ごとに課税する制度から個人ごとの課税制度に変えた。性別や婚姻状況にかかわらず、すべての人が自らの分の税金を払うことになり、既婚女性も自分の所得を持とうというインセンティブが働いた」

要するに「女性も働こう。税金は個人単位にする」という制度だが、この1971年の制度導入時、出生率はそれまで以上に下がっている。むしろ、客観的にみればこの制度を導入したから出生率が下がったといえる。10年以上もたった1980年年代から出生率は上昇に転じたが、果たしてこれは1971年の制度のおかけでといえるのだろうか?他の要因であがったといえないか?

95年には育児休暇の一定割合を父親と母親のそれぞれに割り当てる制度を導入し、父親の育児参加を高めるきっかけになった。

これとて、1995年から2000年にかけてむしろ出生率はさがり続けている。5年間も効果がなかった制度をとりあげてそれで「高めるきっかけとなった」とはさすがら我田引水すぎるだろう。

百歩譲って、これが効果があったとしよう。2000年以降の上昇効果が。しかし、だとすればなぜ制度が中止されたわけでもないのに2010年以降からまた減少するのか?その説明はなされていない。

事実を見よう。

女性の就業率があがれば出生は増えるのか?両方のデータのある2000-2019年の20年間の相関が以下である。

国連WPP及びILO統計より荒川和久作成。無断転載禁止。

相関係数は▲0.20であり、むしろやや弱い負の相関があるといえる。つまり、少なくとも「女性の就業率があがれば出生率があがるとはいえない」。もしそんなことを言っている新聞があるとするならば大問題だ。

これについては過去にも記事を書いているので参照されたい。

また、「政府の家庭支出のGDP比が高まれば出生率は改善する」などという意見がある。そう主張する者は、日本は欧米に比べてそれが半分以下だけからダメなんだと声を荒らげる。果たして本当だろうか?

スウェーデンの状況で見てみよう。こちらもデータのある1985-2017年で見てみる。

国連WPP及びOECD統計より荒川和久作成。無断転載禁止。

なるほど。家族関係支出のGDP比率が高くなればなるほど出生率は上がっている。相関係数は0.78という強い正の相関がある。
しかし、だからといって「家族関係の政府支出比率を高めれば出生率が増える」いう因果はない。むしろ逆で、「出生数が増えたから結果として子ども関連の支出が増えた」のである。そりゃそうだ。子どもの数が増えれば、その子たちのための支出が増えるのは当たり前だ。

むしろこのデータで注目しないといけないのは、2.0以上の出生率だった1990年代初頭は当然支出率も高いが、その時の支出率と出生率のバランスと現代を比べると、支出率がされほどあがっていないのに、それ以上に出生率があがっている点である。支出率4%もかけなくても、3.5%程度で同等の効果があがってんじゃないのか?という見方もできる。要は無駄金使っていなかったか?という点である。

「家族関係支出を増やしたら出生率があがる」という嘘についてはこちらの記事で詳しく書いた通りだ。

誤解のないように、何度も言うが子育て支援にカネを使うことは否定しないどころか推奨する。しかし、それは少子化対策とは関係なく今いる子どもたちのためにやるべきであって、「子育て支援をすれば少子化が解決する」という的外れな主張を非難しているだけである。

記事のタイトルにある「子への投資は国の将来への投資」という部分も当然否定しない。スウェーデンの政策すべてを把握しているわけではないので、ここでかの国の話をいちいちする気もないし、その資格もない。スウェーデンの専門家じゃないし。

しかし、どの国でもそうだが、政治家は効果がないものをあるかのごとく偽って、わけのわからないところに税金を使うという行動しがち。なんか予算つけて「やってる感」だけ演出しておけば次の選挙も通るよねという政治家の本音が透けて見えるのだ。「少子化」を自分の便益のための道具として都合よく利用するなよ、という話である。

出生というものはそんな単純な要因によって左右されるものではない。多岐に渡る要因のひとつとしてこういうのもあるよねというならわかるが、多岐に渡る要因すら調べもしないで。誰かが言ったことを鵜呑みにしたり、自分の主張と同じことを言ってくれる有識者だけを重宝したり、あまつさえ、有識者の言葉の切り取りをして主張したいないようにに加工して伝える(嘘じゃないが正しくない)のは感心しない。

と同時に、メディアの報道を鵜呑みにしないで、個々人がソースデータを参照し、「でもさ、こういう見方もできるよね」と自分で解釈をしていく訓練も大事だろう。それが合っているかどうかは別にして。

事実を把握するというのは、誰かの言葉をそのまま受け売りすることではない。事実は伝言ゲームでは伝わらない。むしろ、伝言は嘘の伝達になる。まさに「百聞は一見に如かず」とはそういうことである。


そもそも論をいえば、政策ごときで全世界的な少子化が解決されるとは思わない。人間の力でなんとかなるという話ではない。

https://comemo.nikkei.com/n/n581068b56d4e


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荒川和久/「結婚滅亡」著者

長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。

荒川和久/「結婚滅亡」著者
11/13に新刊「結婚滅亡」が発売です!他著書「ソロエコノミーの襲来」 「超ソロ社会」「結婚しない男たち」等。東洋経済等でコラム執筆したり、テレビ・新聞によく出ます。独身研究家として活動させていただいてます。メディア出演・執筆・対談・講演のご依頼はFacebookメッセージから。