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「金が無いと結婚できない」は事実だが「金があっても結婚しなくなる」

前回の記事でも、「割合(率)の話と実数を両方把握せずに、片方だけで結論づけても間違えるよ」って話をしましたが、生涯未婚率でも同様のことがいえます。

生涯未婚率は、45-49歳と50-54歳の未婚率の平均であり、要するにおじさんとおばさんの未婚率の話です。だからもうこれ以上結婚の見込みはないという意味で「生涯未婚率」といわれているわけですが、どうやらこの「生涯未婚率」という言葉に噛みついた奴がいるらしく、公式には「50歳時未婚率」という名称に変更された。が、私は相変わらず「生涯未婚率」と言いづけるつもり。だって、本当に50歳を超えて初婚する例なんて稀だから。

で、この生涯未婚率は2020年の国勢調査では、配偶関係不詳補完値という新しい計算式を導入したことにより、大幅にあがり、男28.3%、女17.8%となった。そのあたりの統計的な裏話はこちらに書いてあります。

さて、この生涯未婚率という指標が認知されたこと自体はよいのですが、じゃあこの生涯未婚になる対象者とはどんなものかということで、年収別生涯未婚率や雇用形態別生涯未婚率なんてのも世の中では話題になります。私の記憶が確かならば、そういうデータを最初に出したのは私であったかと思いますが、今では国の白書にも使用されています。これもよいことだと思います。

年収別生涯未婚率でいえば、男は低年収ほど未婚率が高く、逆に女は高年収ほど未婚率が高いという、実にネタにしやすいファクトが出てくるので、これをもって「稼げない男と稼ぐ女は結婚できない」などと煽ったりのすることもできます(すみません、私が煽っていました。よいネタなので)。

率からいえば、それは紛れもない事実ですが、その場合、世の中にいる45-54歳の生涯未婚者が男は低年収だらけで、女は高級取りだらけかのような誤印象を受ける人も多い。実際、実数でみるとそうではない。

そんな話を書いたのがこの記事です。

タイトルですでにネタバレしていますが、じっくりお読みいただければと思います。
実際統計上では、もっとも生涯未婚男性人口が多いのは年収500万円以上の層です。100万未満の低年収の生涯未婚率が高いとはいえ、実際100万未満の未婚者はそんなに存在しないのです。金を稼いだとて未婚人口が増えている。

そうなると「金を稼げない男は結婚できない」説は嘘かというと、そういうことではない。前述した通り、生涯未婚率はもはや結婚対象外の年齢の未婚率であり、「金がないから結婚できない」という若者層とは別だということです。若いうちは稼げなくて、50歳になってやっと年収500万超えという人もいるだろうということ。

で、問題は「金があれば結婚するのか?」という話なわけですが、人は金だけで結婚を決める奴ばかりではない。実際、日本の初婚はほとんどが男女とも20代で占められ、結婚時点の年収中央値も300万円台である。つまり、結婚している若者は金があろうとなかろうと結婚しているのである。無論、その300万円の年収すら超えない層もいて、だから「結婚には年収300万円の壁がうる」ともいわれるのも事実だが、実態はそうした複層的な要因が絡み合っての未婚化と非婚化なのであり、単純に「金があれば結婚できる・金がなすから結婚できない」という話ではないということである。

加えて「若者の草食化・恋愛離れ」でもないことは繰り返し言ってきていることであるし、そもそも恋愛や結婚に興味のない層もいるのだという視点が抜け落ちている。

あまつさえ「パラサイトシングル」とか「子ども部屋おじさん」とかの蔑称を使って、それがさも未婚化の要因であるかとのようにのたまう学者や内閣府の委員やっているなんとか研究所の人間とかがいるが、とんでもない大嘘で、そういう要素があるから未婚化なのではなく、本来何も考えず20代で結婚がお膳立てされた時代が1980年代に終わり、自由恋愛という恋愛の自己責任化という事態によって当然引き起こされる、恋愛強者と弱者の格差によって、結果として独身のまま実家にいつづける中年の親元未婚が増えたという話で、因果は逆なのである。

「子ども部屋おじさん」という言葉を生贄として溜飲を下げさせ、自己の商売につなげようとする専門家の醜悪さについてはこちらでも書いた通りだ。

毎度、ネタを提供してくれるヤフコメにもこんなのが届いた。

高々年収400万で一人暮らしで満足のゆく生活はできません。ほぼ贅沢は出来ず趣味に大金をつぎ込む事もできず質素な生活になります。 彼ら彼女らがなぜ400万程度で結婚意欲が減退するかと言うと実家にパラサイトしているからです。 生活費を全て親に依存しての年収400万はかなり贅沢ができます。おまけに親が家事を全てやってくれて、同居人にもなるので寂しくもありません。 昨今の結婚意欲の現代は間違いなく実家暮しの増加です。 断言しますがこどおじこどおばを実家から追い出すような政策(実家暮らし税など)をすれば必ず結婚意欲は上昇します。 ちなみにこどおじこどおばからは猛烈な反感を受けるためこの意見は必ず「そう思わない」ばかり入れられることになります。それでもこれは紛れもなく事実です。

https://news.yahoo.co.jp/profile/comments/16693710481997.ea99.00044 

「昨今の結婚意欲の現代は間違いなく実家暮しの増加です」とあるのは完全に間違い。前述した通り、それは結果であって原因ではない。そもそもかつての若者のほとんどが「結婚して家を出て行った」わけで、進学や就職で都会に出なるか、結婚でもしない限り実家を出る合理的な理由などない。今も昔も。

「こどおじこどおばを実家から追い出すような政策(実家暮らし税など)をすれば必ず結婚意欲は上昇します」なんてのも居酒屋の酔っ払いの与太話と同レベルで聞く価値もない意見。独身税や子無し税もそうだが、結婚することや子を産むことを絶対善として、それ以外に罰を与えらればなんとかなるなんて発想は、「奴隷を服従させる論理」と一緒で甚だ危険である。少なくとも日本ではそんなことはしない。国民は奴隷じゃないから。

事実を誤認して、誤った認識のまま凝り固まっているところに、マスコミのネタ的にわかりやすい切り取り報道や「少子化がヤバい」などの危機感煽り報道に触れると、このヤフコメのような「間違い認識に基づく他責・他罰思想」がわきおこる。そういう輩ほど「誰に責任があるのか」ということさえ明らかにすれば、問題の本質が何も変わっていなくてもそれで始末がついたと思ってしまう。愚かな事です。

これも何度も言っていることですが、婚姻の減少はとまらないし、少子化も人口減少もとまらない。だって絶対人口が減っているんだから当然。いい加減、現実と向き合いましょうよ。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66173460R21C22A1M13500/

これが異常事態なのではない。たかたが100年の歴史しかない皆婚時代の方こそ異常だっただけで、世界的な国民国家思想と戦争下の国民総動員体制の20世紀が爆発的な人口増加と同時に多くの戦争を生んできたわけです。言い方を変えれば、多くの人間が死ぬから多くの出生が発生するのであり、少子化は人間が無闇に死ななくなった社会を意味する。


フランスを見習おうが、すでにフランス政府自体が自国の少子化を予測しているわけで、どうにもならない。フランスがダメだっていってることを見習ってどうにかなるんですかって話。

どうにもならないことをどうにかなるかのように取り繕うのはいい加減終わりにして、婚姻は減る、出生は減る、高齢者は増えるという不可避な現実への適応を考えるステージに早く移行すべき。

そんな中、こんなコメントも寄せられた。

納得の記事です。 ガチソロという言葉を最近知ったのですが、人と一緒に暮らす事が苦痛な人が2割程度いるのだそうで、、、 タレントの中居正広さんは、人と一緒に暮らせないと言われてましたし、石田ゆり子さんも一人が好きといわれてましたね。結婚しようと思えば秒で可能な人達ですから、強がりではないと思う。 結婚願望が強い人は、理想を下げてでも30代前半までには結婚すると思う。なので、お金に困らないソロ勢が結婚していないという事なのでしょう。 一人でも平気な人というのは、精神的にも安定している人が多い。一人で楽しむ方法を知っている。 「一人の方が幸せ」という人を無理に結婚させるのは、不幸なカップルをつくり出す事になるかもしれない。そっとしてあげた方が良い。 皆婚時代が不自然だったのでしょうね。

https://news.yahoo.co.jp/profile/comments/16693633506724.7af3.00041

独身研究をはじめたのは2014年から。かれこれ8年かけて、こういうコメントが増えてきたことに、いろいろやってきた甲斐があったものだとしみじみします。



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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。