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「自社業務への専念」、「疲労による業務効率の低下」を副業禁止理由とすることの違和感

以下の記事にて、今勤めている会社とは別のところで行う副業ではなく、今勤めている会社内の複数の部署で働く「社内副業」について書かれております。

確かに、社内副業は、個人のキャリア自律という観点では有益な取組でしょう。
他方で、「自社では得られない経験を得る」という観点からは、やはり今勤める会社とは別の会社での副業でなければ得られないものもあるでしょう。

もっとも、同記事では、このような「社外副業」についての調査も掲載されており、副業・兼業については、45%が全面禁止とし、その理由として「自社業務に専念してほしい」「疲労による業務効率の低下を懸念」が多いとしています。

今回は、法的観点も踏まえ、この調査結果の問題点を指摘したいと思います。

しつこいようだが副業の全面禁止はできない

さて、これまで日経COMEMOでもしつこく書いてきましたが、そもそも副業・兼業を全面的に禁止することは、法的には認められていません。
これは昭和の時代の裁判例から確立した考え方です。

なぜなら、社外副業は、基本的に就業時間外に行われる行為であって、労働契約による拘束の「外」にあり、また、労働者には憲法上職業選択の自由が保障されているからです。

したがって、副業・兼業は原則として自由であり、せいぜい例外的場合に禁止をなし得るにとどまるのです。

法的観点からみれば、全面的禁止は、公序良俗違反で無効とする考え方が有力であり、上記45%の企業は、そもそも法的に無効である取扱いをしているといえます。
詳細は以下の記事もご参照ください。

副業をすると「本業に専念できない」のか

今回、私が特に指摘したいのは、禁止している理由の点です。

確かに、副業・兼業が原則として自由であるとしても、本業に支障が出る場合には、これを禁止できるとするのが裁判例です。

しかし、「本業に支障がでる」という理由と、「本業に専念できない」という理由は厳密には一致せず、副業・兼業を行うことで、「本業に専念できない」とする考え方は、本来おかしいといえます。

上記でも述べたように、通常、副業・兼業は就業時間外に行われる個人の活動であり、本業が終わってから副業・兼業を行っているので、副業・兼業をすることで「本業に専念できない」ということはあり得ないはずです。

ちなみに、中には本業の就業時間中に副業・兼業を行った事案について、会社からの懲戒解雇を無効とした裁判例がありますので、「本業中の副業」であっても、禁止できない場合があります(当然好ましくはないですが)。

なお、副業・兼業によって本業に支障がでるかというと実際にはそうでもないようです。

令和元年度成長戦略実行計画より

「疲労」は副業だけによって生じるのか

もう一つの理由として挙げられている「疲労による業務効率の低下を懸念」についても、考えてみるとおかしいです。

なぜなら「疲労」というのは、副業・兼業という「仕事」のみによって生じるものではないからです。
これを理由として副業・兼業を禁止するとすれば、仕事が終わってハードなトレーニングを行うことや、スポーツに励むこと、深夜までゲームをすることなどによっても疲労は蓄積するはずです。

しかし、これらの活動について「仕事終わってから筋トレするな」などと指示する企業はないでしょう。ゲームについては「控えるべき」という考えはあるでしょうが、それを理由に懲戒解雇をする企業はないでしょう。

こうした筋トレがゲーム等については厳しい措置をとらないのは、これらの活動が「プライべートだから」という理由でしょう。
しかし、法的観点からみれば、就業時間外に行われる副業・兼業は、本業先企業の労働契約の拘束「外」の活動であり、「プライベート」であることに変わりはありません。

今回はあまり深く書きませんが、「労働者には休息をとる義務があるのか」という議論があり、古い裁判例ではこれを肯定するものがありますが、学説では、上記のような視点から、「これを認めると私生活の全てを把握しなければならなくなる」ということで否定的な見解もあります。

「他で働く余力があるなら120%働け」が本音では

副業・兼業は、通常本業先での就業時間外に行われるので、本業先では「100%」働いていることになります。
それにもかかわらず、「本業に専念できない」、「疲労による業務効率の低下」を理由として副業・兼業を禁止するのは、「プライベート領域も含めて身も心も本業に専念せよ」として、いわば100%を超えて120%本業に専念せよと言っているに等しいといえるでしょう。

しかし、このような考え方が、労働契約法の考え方からして通用しないのは、上記で述べたとおりです。

企業としては、この「本業に専念できない」、「疲労による業務効率の低下」が副業・兼業を禁止する根拠となるかを見つめ直すべきでしょう。

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