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航空機内でのマスク着用義務化の緩和について思うこと

 様々な場面におけるマスク着用に関する議論が活発化しているように感じる今日この頃ですが、私が最も懐疑的と考えていた航空機内でのマスク着用のある意味「義務化」についてようやく動きがありました。

 私は7年ほど前から釧路市にある事業所の産業医の委嘱を受けており、毎月1回出張しています。新型コロナが発生してからも月1回は航空機を利用した出張を継続していました。振り返ってみると2020年初頭は機内でのマスク着用に関するアナウンスはどうだったか定かではありませんが、いつからか搭乗の際にはマスクの着用が義務付けられ、健康上の理由がない限りは着用していない旅客は降機させられることが通例となっています。
 私はこの規則に関してずっと疑問に思っており、知人の機長に直接聞いてみたことがありました。その時のやり取りが2022年10月2日に投稿した記事「オールドノーマル」と化した生活様式を「ノーマル」に戻す計らいを|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com) ですので本稿と合わせてお読みいただければと思います。要は「感染対策」というより「旅客どおしの安心の担保」に重点が置かれているようです。
 
 公共交通機関でのマスク着用が推奨されているのは、「密閉した場所」に「旅客が密集」して「密接な会話」をする環境が生じやすく、新型コロナでは特に感染拡大が生じやすい「3密」であるからと理解しています。実際に「新型コロナウイルス感染拡大防止のためにお客様にはマスクの着用をお願いしています」とアナウンスは毎度おなじみになっています。
 マスクは感染防止には意味がないと言われる方もおられますが、毎日新型コロナの患者さんと会話をしている私がいまだ感染していないのはお互いがマスク(N95ではなく不織布)をしているからであり、マスクをしないで診療していたならば1度や2度の感染では済まなかったかもしれません。

 しかし航空機内では「お客様どおしの不安解消のため」と付け加えています。確かにマスクをしていない旅客どおしが隣で大声で会話をしていたら不安に感じる方もおられるでしょうから、ある種のマナーとしてすべての旅客がマスクを着用するというのは理にかなっているのかもしれません。ただそれ以上に「鼻と口を覆ってマスクなどを着用されないお客様はご搭乗いただけないこともあります」「お休み中の方でも客室乗務員がお声がけします」「食事が済まれたら直ちに鼻と口を覆った状態でマスクを着用してください」など「一瞬たりともマスクを外すな」と言われている気がしてなりません。また「多量の飲酒」をやめるようにとも言われますが、飲食店でアルコールの提供について議論された際にも「声が大きくなるから飛沫感染のリスクが高まる」ということで、アルコールがウイルスを拡散させるのではないですし必ずしも声が大きくなるとは限らないと思います。このあたり、マニュアル通りにアナウンスしなければならないのは仕方ないにせよ、いい加減に見直したらどうなのか?と搭乗するたびに感じていたところです。
 諸外国ではマスク着用が場所によって義務化されている国もありますが、日本ではあくまでお願いベースでありどこであっても義務ではありません。そのような状況でありながら機内だけがほぼ義務化(航空法にはないですよね?)され、従わない場合は降機させるということに人権問題は生じないのでしょうか?「飛行の安全を担保するために降機させる」のであれば誰もが納得するでしょうが、マスクをしないことで飛行の安全が保てないわけではないですよね?
 あくまで「旅客の不安解消」にこだわっている印象なのですが、それに対しても「機内の空気は上空の新鮮な空気によって3分ごとに入れ変わるため安心安全な乗り物ですのでご安心下さい」と説明があります。すわなち「3密」ではない(満席でも満員電車のように密着しているわけではなく全員が着席している・密閉していても十分な換気ができている)ということになるわけです(但し、3列のうちで隣の2人が大声で会話していたら密接な会話によって1人で座っていてもリスクは生じるかもしれません)。

 そもそも「マスクをしないとなぜ旅客が不安になるのか」ということなのですが、「新型コロナに感染すること」が不安なのであり学校行事などでも同様でしょう。しかし新型コロナ発生前に「インフルエンザに感染することが不安」「肺炎になることが不安」と思われていた方がどのくらいおられたでしょうか?さらには飲食店ではほぼすべての人がマスクをしておらず、「大声での会話」「多量の飲酒」など、機内でやめてくださいと言われていることが平気で行われているのに「新型コロナに感染すること」は不安にならないのでしょうか?私にとっては機内よりもはるかにリスクの高い環境と思いますが如何でしょうか。
 感染症になることに対する不安は少なからずあるでしょうが、「新型コロナは怖い」という発生当初の強烈なインパクトがいまだに払拭されていない背景があり、このような過剰な注意喚起がいつまでも続けられていることにも問題があるように感じます。新型コロナ出口戦略ーいつまでも守ってばかりいるのではなく攻めていかなければ何も見えてこない。そのためには正しい知識のアップデートと実践が望まれる|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com)

 誤解しないでいただきたいのは、マスクはもういらないということでは決してありません。3年間で習得した感染対策の知識を生かしながら「感染しやすい環境」「体調のすぐれない人たち」「周囲の人たちへの配慮」のためにマスクを着用することが本来望まれるべき姿であり、それが新型コロナ前に実践されていた「咳エチケット」なのです。私は全員に強制するものではないと思っています。
 今回の定期航空協会の決定は感染症法5類移行に伴うものと言われていますが、マスク着用を「旅客どおしの不安解消」を主たる目的に徹底してきたのであれば「5類移行」とはあまり関係がないように感じます。単なるきっかけのような気もしますが、なぜこれまで頑なにマスク着用を義務付けていたのか、しっかりと振り返りをしていただきたいと思います。

#日経COMEMO #NIKKEI #新型コロナとの付き合い方 #水野泰孝


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