Huawei(ファーウェイ)の自動車への関わり方が自動車製造業の生態系をも変えてしまうのか
日本では、ほとんど報じられてないかもしれませんが、あのHuawei(ファーウェイ)の車製造が本格化してきたと中国ネットでは話題になっています。通信事業やスマートフォンがメインのHuaweiが自動車メーカーを目指すのか!?と驚きますが、実際にはここ数年、自動運転などで存在感が増してきていました。
↑このnoteで解説したように、自動運転といえばBaiduが有名で、今では北京でも無人タクシーがバンバン走っているわけですが、Huaweiの運転アシスト(ほぼ自動運転)も優秀すぎて、使っている人がどんどん増えています。
■Huaweiの車製造に関わる事例が次々と現れる。その特徴
そんななか、11月26日に行われたHuaweiのカンファレンスで、Huaweiと江淮汽車が共同開発した高級車「尊界s800」が発表されました。お値段は100万元(約2000万円)程度と言われています。
発表の大部分は車両の外観に関するもので、車両の技術的な情報は1枚のPPTに集約されていました。これを専門家やネット民が分析していて、強力な機動性、IoT、衛星通信などを活用した自動運転の精度がどこまで進化するのか、などが取り上げられていました(詳しく知りたい人は参考資料から御覧ください)。
ただ、未来のテクノロジーが詰まった車だとしても高額でお金持ち向け。明らかに通常の利用者向け(大衆向け)の車ではないので、大量生産を目標としない尊界S800がどのように利益を上げるのか、Huaweiの自動車製造はどこまでの規模を目指しているのかについても議論が行われています。
ちなみに今回の江淮汽車との提携により、Huaweiと深く技術提携をし、Huaweiの店舗で販売するEV車は「問界」(メーカーがSeres)、「智界」(メーカーが奇瑞)、「享界」(メーカーが北汽新能源)に加え、4銘柄目となります。
新たにパートナーとなった江淮汽車(Jianghuai Automobile Group)についてはこのあと詳しく紹介しますが、歴史ある企業で近年メキメキと存在感を増しています。今回のHuaweiとの協業もあり、彼らの工場には新たなラインを作り、今後5年間で年間20万台以上(尊界S800を含め)の生産規模を実現する見込みとのこと。
Huaweiは販売台数に関わらず、江淮汽車のスマート工場建設に参加することで、すでにある程度の利益を確保している可能性も言及されています。江淮汽車は生産拠点の構築を担当し、華為端末の関連分野での優位性を活用して先進的な製造能力を構築するといった連携。
江淮汽車との話以前にもHuaweiはさまざまな動きを見せています。北京汽車という車メーカーが200億元を投じて建設した享界工場では、Huaweiが関わって開発した「ADS 3.0スマート運転キャリブレーションシステム」が備わっていて、スマート運転キャリブレーションや品質管理などの製造プロセスで重要な役割を果たしているとのこと。他にも、長安汽車の工場でも、デジタル基盤を提供していて、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、AI、デジタルツインなどの技術を統合しています。Huaweiが自動車製造分野へのビジネス展開を徐々に深めている例はいくつもあげられている状況です。
■中国の自動車メーカーの躍進と苦悩。恐ろしい未来が予想される
ここまで読んで、日本の皆さんはHuaweiについてはもちろんご存じと思いますが、「江淮汽車」については業界の人以外は全く知らないだろうし、この漢字の読み方すらわからない(ジャンファイ チーチャーと読む)と思います。
江淮汽車は中国の老舗自動車メーカーで、60年もの歴史があります。今まで大きく取り上げられることはあまりなかったのですが、Huaweiとの協業により一気に注目が集まっていますし、直近の事業もかなり好調のようです。財務報告によると、2024年前三半期の江淮汽車の営業総収入は322億元、純利益は6億2,500万元で、前年同期比239.86%増となりました。
安徽省に製造拠点を構える江淮汽車は、もともと国営だったが民営化への改革を行った企業です。その後、新エネルギー車への取り組み、スマート自動車の推進、国内市場のみならず海外への進出など、想像するだけでも大変な道を着実に前進してきています。
乗用車部門では、様々な新エネルギー車が次々と開発・販売しています。「より優れた大空間スマートEVミニバン」がキャッチフレーズの瑞風RF8はミニバン市場で確固たる地位を確立。広々とした室内空間と安全性・デザイン性・走行距離など「最高のスマートEV」を目指しています。
また、商用車部門(トラック)でも、江淮汽車は新エネルギーシフトを加速させていて、帅铃EV5、帅铃ES6などの新エネルギートラックを次々と投入しています。新エネルギー商用車の売上は70%以上の大幅増なうえ、ピックアップトラック分野でもEVピックアップトラックを次々開発・販売しています。
今回のHuaweiとの協業は、車種の共同開発以外にも、鴻蒙(ハーモニー)OSエコシステムの構築や、華為のデジタル給電による世界最速の急速充電などのプロジェクトでも協力していくとされています。
ただ、気になる点はネットでも議論されています。以前に中国のEV車企業、注目されているLIやNIO、XPENGなどいわゆる“新車企業”を研究した時にボクも気づいたことがあります。
EV技術や無人運転に関する技術の開発がEV車企業に集中していて、車の生産についてはほとんど既存の自動車企業が担当。つまり、既存メーカーはある意味、完全に下請け会社になっています。
そんな状況下で、「組み立てだけじゃダメ」と危機感を持ち、最初に自社工場を積極的に建設していた「威馬」はすでにほぼ破産状態、他社に救いを求めていた状況です。
世界屈指の自動車企業となったBYD(ほぼ自社生産)などは例外としても、既存の車製造企業からしたらHuaweiなどとパートナーとなるのは生存や発展のためにはやむなしなのかもしれません。
ただ、自動車メーカーは自分たちの未来を真剣に考えなければいけない状況になっています。仮に、近い将来Huaweiが完成車のサプライチェーン統合、生産、販売のすべてを一手に握るようになれば、協力する自動車メーカーは完全に「下請け工場」と化してしまう可能性があります。
一方のHuaweiは2019年5月に車関連の事業ユニットを立ち上げた際に「車を作るではなくスマート車のソリューションを提供する」と明言しています。その後、2023年には「Huaweiの車を生産しない決議」を発表、2024年の当直社長は取材時に「車の生産は絶対しません」と公言していますが、はたして。
■日産やホンダだけではない。中国で車を売りたい海外メーカーの苦悩
ここからはちょっとおまけで、中国での海外自動車メーカー各社の事情について。SNSを見ると日本のみなさんが中国EVを揶揄する投稿は相変わらずたくさんですが、それと同じくらい日本の自動車企業の苦戦ぶりを目にします。特に話題の日産については、中国ではもう何年も前から販売台数が激減していました。
中国で苦戦してるのは日系企業だけではありません。アメリカのGMがまるでダメ、ドイツのベンツも売れてないことなどはよく報道されていて、特にここ最近中国のネットでこんな一枚の画像も出回っています↓
中国人みんな大好きなBenzのEV車が2024年10月には販売台数がまさかの0台になったと、ネットで話題になりました。
その後メディアの取材では、2022年の車種ですでに販売が停止していて、その次の2025バージョンは発表済みだが、販売はまだ開始していないそうです。しかし、見解に対してネット民は全く納得していません。
コメントでは、この車種の販売金額は50万元台(約1000万円)であり、EV車としての技術もそこまで評価されていないのに高い。仮に40万の予算があれば、中国の銘柄だと相当選び放題なので、今までブランド力があった高級外車のBBA(Benz、BMW、Audi)はそろそろ魅力がなくなるではないかの意見も。以下ネット民のコメントで興味深いものはこちら↓
ー(値段は)25万元が限界でしょう
ーEV車市場のおいて、BenzとBMWは(高級車ではなくむしろ)その辺の雑魚メーカーになるだろう。コア技術は全部中国が持っていて、BYDの一回の充電で1400KM走れる車は14万元、ドイツ車は全く勝ち目ないだろう。
ー20万元で問界のスマート車を買う方が真っ当だろう。
ー見た目ダサいし、座り心地良くないし、運転感覚も良くない、故障しやすいし、成金たちは金を持ってるバカではないから。
ー性能は低くて、技術はダメで、中国市場においてあまり魅力を感じないです。
ー現在のEV車の性能と価格から見れば、ガス車の定価が高すぎるだろう。
長くなってしまいましたが、自動車業界の状況に興味がある読者の方が多いと感じております。日本のみなさんに参考になることが少しでもあれば幸いです。今後も、新しい動きがあったらnoteで紹介したいと思いますので、興味がある方はぜひハートとフォローで応援をお願いいたします。
(参考資料)