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だるまさんが転んだ―シンクロニシティ(共時性)(下)

大谷翔平選手にヌートバーが「食事に行こうよ」と誘ったところ、大谷選手から「今、寝ている」と返事があったというエピソードに対して、大谷選手はマイペースだとか付き合いが悪いとか良く寝る選手だとか言われるが、そうだろうか

大谷選手は、プロフェッショナルてある。野球で金儲けをしている。大谷は一人で野球に取り組んでいるのではない。大谷はチームを組み、チームで大リーグで目標の達成を目指している

ヌートバーに誘われたその時間は、「大谷個人の睡眠時間」にとどまらず、大谷チームにとっての「大谷チームの睡眠時間」であったのだろう

大谷チームはシンクロニシティで動いている。大谷はマイペースではなく、大谷チームペースで動いている。だからヌートバーの誘いを断った。個人の判断で、チーム全体のシンクロニシティを乱せない。一人のシンクロニシティの乱れがチームの乱れになる。それがプロフェッショナルなのだ

1 企業人はプロフェッショナル

企業人も、プロフェッショナルである―そういうと、怪訝な顔をする企業人がいる。我々はなんのプロフェッショナルなのだろうか?

そもそもプロフェッショナルとは、プロスポーツや芸能の世界を生きる人のことをいうのであって、企業人は「お客さまが求めるモノ・コト・サービスを提供して、その対価をいただき、会社から配分された給料を貰っている」わけだから、企業人はビジネスのプロである。プロスポーツ選手、舞台に立つ芸人と変わらず、企業人はプロフェッショナルである。その意識が低い

また、企業人の仕事の基本は、チームでおこなっている。仕事は一人で行うことはあるが、大半の仕事はチーム全体でつながっている

そのうえで、仕事がバラバラにして成立つ仕事と、バラバラにしたらできない仕事がある。コロナ禍前はみんなが同じ場所に集まり、始業時間から就業時間まで、同じ空間と時間を共有しながら仕事をしていたが、コロナ禍を契機に、各自の仕事は場所と時間が自由になった。しかし会社の仕事全体において、チームがつながる時間までもバラバラにしてしまった

仕事には、二種類の仕事がある。バラバラに分割しても存在する仕事と、バラバラにしたら存在し得ない仕事がある

チームメンバーが仕事をそれぞれ分担しても、時間軸をバラバラにしてもできる仕事と、チームでひとつの仕事を同じ時間帯でシンクロしながらやらなければいけない仕事がある。それを区別して考えないといけないが、多くの会社・組織は、それをいっしょくたにしている

note日経COMEMO「日本のテレワークの本当の課題—シンクロニシティがない(上)」

2 だるまさんが転んだ

テレワークとは、どんな状態か?
生きている猫と死んでいる猫が共存する「シュレーディンガーの猫」実験のように、テレワークは、上司からすると、チームのメンバーが働いているのかそうでないのか、その仕事をしているのかしていないかが、その瞬間、分からない状態、それぞれが共存している状態である

テレワーク時代。チームのメンバーが分散して働くようになった。チームのメンバーが、物理的にひとつの場所に一緒にいなくなったので、チームメンバーの動きがつかめなくなり、チーム全体が見えなくなった。パソコンのカメラをオンタイム中につないでメンバーの仕事の管理をしている企業・管理者がいたり、パソコンいっぱいに受講生の顔を並べてオンライン講義をしている先生もいる。しかしみんなが本当はなにをしているのか分からない

やっぱりあかんわ、やはり出社スタイルに戻そう、対面講義をメインにしよう。本質はそうではない。大事なのは

シンクロニシティである

上司がメンバーに連絡したら、メンバーが即座に応える。逆もある。メンバーが上司に報告しようとしたら、上司が即座に応える。同僚に相談しようとしたら、先輩がアドバイスしてくれる

チームがシンクロニシティでないと、チームの仕事は淀む、滞る。チームの誰かが動いたときに、チームのメンバーがそれぞれが応えてくれないと、チーム全体の仕事は進まない。それは、昔、子どもたちが遊んだ、鬼ごっこの一種である

だるまさんが転んだ

である。鬼が「だるまさんが転んだ」と言って振り向いた瞬間は、みんなは止まらないといけないけど、鬼が振り向いていない時間は動いていい。また「だるまさんが転んだ」と言って振り向いたときは、みんなは止まる。 そんな遊びである。この遊びにはルールがある

シンクロニシティが求められる

「だるまさんが転んだ」で動いている状態と止まっている状態を分けるのは

振り向いたとき

それは、自分の意思とは関係ない。相手がいつこっちを振りむくか分からない。相手が振り向いたら止まる。相手が振り向いていない間は動ける。これが

シュレーディンガーの猫であり
かつシンクロニシティ(共時性)

フタが閉まっている間は生きているかもしれないしそうでもないかもしれないが、フタを開けた瞬間は、生きていないといけない

テレワークは、「だるまさんが転んだ」である。会社やお客さまから電話があったら、どこにいてもすぐに出る。問われたら、すぐに答える。頼まれたら、すぐに対応する。電話をきったら、それ以外の仕事をしてもいいが、また電話があったら、すぐに対応する。「だるまさんが転んだ」でないといけない

だるまさんは、いつ振り向くか分からない。振り向いたら、止まっていないといけない。テレワークは、これを担保するルールをつくったらいい。仕事が9時から17時までがオンタイムだとしたら、その時間帯に電話やメールがあった時間がオンタイムとなり、ただちにオンワークになるというルールを決めて徹底したらいい。そういうルールをつくっている日本の企業・組織はまだ少ない

3 未知のハイブリッドワーク時代の必要十分条件

山を登っている最中に会社やお客さまから電話があったら、すぐに電話に出てパソコンを開けて、すぐに対応する。電話が終わったら、またハイキングに戻るのはいい

しかし現実はそうなっていない。山登りをしていて、時間ができたときに、パソコンを開けてメールの確認をする。緊急案件を発見して、慌てて電話連絡をしたりメールを送る。すると相手は

「もう少し早く連絡してくれなかったの?」
「すみません、気がつきませんでした」

このようなタイムラグが、テレワークで、社会のなかで増えている。そこまでこだわらなくてもいいじゃないかという人とそれでは困るという人がいるが、問題なのはテレワークにおいて、このあたりのルールが曖昧になっているということ

テレワークは仕事である。単独で自己完結できる仕事はいいが、チームで仕事をする場合、オンタイムではチームメンバー全体がシンクロニシティしながら仕事をする。そういう意識が薄れた。だから仕事の生産性がより落ちた。

テレワークになって、働く時間と働く場所が弾力的になった。一人でその仕事をしながら、与えられた仕事以外のことをする人がいる。「テレワークの67%がさぼったことがある。上司の87%は部下のさぼりを黙認」という調査結果もある

しかしそれは、コロナ禍前からもその傾向があったのでは。オンタイム中に、カフェでコーヒーを飲みながらパソコン作業をしている人。休憩に出たまま、決められた休憩時間が過ぎても席に戻ってこない人。パソコンでネットサーフィンをしたり、ゲームをしている人、スマホをひたすら触っている人。もともと仕事をしていない人、仕事をしているふりをしている人、隠れ失業者が問題になっていた。コロナ禍の3年が経って、それが目につくようになっている

そういうなかで、生産性を高めよ、DX化だとかロボットだの議論がされている。コロナ3年のテレワーク社会実験を経て、この4月より5類に落ち着いてきたから、「生産性が低くなる」テレワークはやめて、出社勤務に戻そうとしている。本当に、そうだろうか?

時間と場所の弾力性が自由になったからといって、なにをしても許されるのではない。オンタイムでは電話がかかってきたりメールが来たら、即座にオンタイムとなり、オンワークにならないといけない

チームで仕事をする限り、チームメンバー全員がシンクロニシティ(共時性)になって、チームで仕事をする。これが本来のルールである。ハイブリッドな働き方をしていても、チームのメンバーがシンクロニシティ(共時性)でワークできたら、チームメンバーの時間がひとつにつながる。これは有名なラグビーのチームプレイの精神を表す

One for all ,All for one

に通じる。一人はみんなのために、みんなは勝利のために。シンクロニシティのワンチームでなければ勝てない。会社のチームワークも、ワンチーム。ビジネスのチームワークで、スポーツのチームプレイに学ぶことが多い



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