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アートは街を変えられるか?ースペインで日本を感じる(下)


セゴビア・アルカサル王城

ディズニーの白雪姫城のモデルは、スペインの古城。セゴビアには、900年前に建てられた世界遺産のアルカサル(王城)があり、古代ローマ時代に建設された水道橋は、2200年後の現在も使われている

セゴビア・ローマ水道橋

スペインのバスク地方を走っていると、瓦の屋根の家が多いことに気がつく。瓦は、アジア・イスラム文化の影響。瓦の発祥は定かではないが、古代ギリシア、中国、イスラムにあったという。どちらにしろ、アジアから世界に広がったものである

スペインは、ギリシア、ローマ、キリスト、イスラム、アフリカの文明と文化が混ざり合っている。いかにも西欧という建物とアジアの建物が絶妙に融合している
 
様々な文化が重層化している。ひとつの土地に織り込まれた歴史、文化は、遠心分離機で分解しないと、その土地のことが理解できないことがある

そう、扇子も、スペインでよく見かけた。おそらく多くのスペイン人は、スペインの扇子が日本からもたらされたモノであることであることは知らないだろう。500年前の大航海時代に、スペイン人が中国由来の扇子から日本が発明した折り畳み扇子をスペインに持ち帰り、扇子として拡がった。逆は真である。パンも、タバコも、ボタンも、おじやも、カステラも、スペイン由来である

このように、文化は混ざり合う
現在の土地に歴史が幾重も折り重なる


1 まだまだ現役のキッズライド

                   マドリードにて

 日本ではあまり見なくなった「キッズライド」をよく見かけた。少子化だからというのか?他に楽しい遊び道具が増えたからだろうか?—日本では消えゆくコイン式電動遊具が、スペインでは現役で活躍していた 。 日本は古くなったら、新しいモノに取り替える、建て替えようとする。次から次へと、新しいものにする、アップグレードしようとする

まだ大丈夫なのに 

メリーゴーランドもよく見かけた。日本では滅多に見なくなったが、スペインの遊園地では常設として健在であり、祭りやイベントには移動式メリーゴーランドが回る。日本は、つねに新しいモノ・コトが良いと

それまでは、古いからと
賞味期限が切れたからと
それまでを簡単に捨てる

ビルの外壁の色も、そう。イタリアやオランダやオーストラリアもそうだったが、スペインの街のビルには統一感がある。国や行政がこの色にしろというのではない。各人、各企業それぞれが、「この街ではそうするもの」とビルの色を選び、ビルをデザインして、それでいて、街が調和している、統一している

それが都市文化・地域文化である 

一方、日本ではそれぞれがバラバラに、個性だ、独創性だと、自己主張する。あまりにも統一感がないので、行政がガイドラインを出すようになった。しかし表面的には守るようにするが、「そうするものだ」という共通の価値観がないので、バラバラなまま

オランダの街並みは美しく、統一感があって、まるで「絵」のようで、日本人にとっても人気がある。オランダの都市プランナーに、「建築するにあたって、なにか規制しているのか?」を訊ねると、「“この街はこうするのだ”とみんな思っている。建築コストは新しいビルをつくるよりもかかるが、古いものを活かすことは当たり前だと思っている」

旧の本質を活かして新の機能性と融合して、古いものを現代につないでいる。日本のまちづくりは「ガイドライン」という名の規制をしがちだが、オランダは「そうするのがいい」という価値観で、みんなが自主的に街を残そうとしている

日経COMEMO(池永)「500年つづく「まち」の設計図」

日本も、かつては調和していた
江戸時代の街は、綺麗だった
日本が失いかけているのは
なんだろう?

2 スペインの「キャプテン翼」は現在進行形

スペインのホテルでテレビを観ていたら、不意に日本のアニメが流れてきた。日本で1983年から放送されていたサッカーのアニメだった。40年前のアニメを現代のスペインのこどもたちが観ている
 
その日本のアニメ「キャプテン翼」が、「オリベル・イ・ベンジ」というタイトルで、日本人の登場人物たちが、スペイン語で語り、スペインのアニメとなった。40年前の日本の街で育ち、日本の学校の仲間たちとグランドでサッカーをして、世界をめざすという物語を、スペインのこどもたちがスペイン語で観て育つ。日本の「キャプテン翼」の主人公の大空翼の名セリフ「ボールは友だち」は、スペインのこどもの心を捉えている

そのアニメをつくった日本のサッカー代表が、2022年にカタールで開催されたサッカーワールドカップで、スペイン代表に勝った

漫画や童話や児童向けの本を読めば、その国の「社会性」がわかる。その国の人々のことを理解するとき、こどものころに読んだ「童話」「漫画」によって、その人の原体験の一端を知ることができる

悲しい結末を回帰する物語に、感情をひきおこさせる。有名な話だが、「フランダースの犬」の物語はご当地のベルギーの人たちはあまり知られていないが、日本人はアニメを見ながら最後のネロが可哀想だと涙する。日本人にはそのような可哀想な状態が我慢できない。ふりかえって決してそういう想いをさせてはいけないと考え、そのように行動し、そういう物語をずっと編んできた

スペインのこどもは、「オリベル・イ・ベンジ」をスペインのアニメだと思っているだろうが、日本のアニメのストーリーが持つ価値観が、世界のこどものこころを捉える。大きくなって、それが日本のアニメだと知ると、日本のことを知りたい、日本に行ってみたいと考えるようになる。それが、日本のマンガ、アニメのチカラである

しかし、現在の日本は
世界の人のこころに響いているだろうか?

3 都市を変える都市が持つ記憶

新しく建てられた美術館が、街を変えた

と言われるスペインの美術館が、世界から人々を惹きつける

ビルバオ・グッゲンハイム美術館

スペインのバスク地方のビルバオに、すごい美術館ができた。ビルバオ・グッゲンハイム美術館はニューヨークのグッゲンハイム美術館の分館、世界でも有名な建築家フランク・ケリーがデザインした建物。そりゃ、話題になるはずだ。確かにそうなんだけど、そんなに単純なものではない

器を作っても、中味がなければ、背景がなければ、そうならない

コンテンツをそろえたとしても
コンテクストが違っていたら
人のこころに響かない 

日本の多くの地域開発・まちづくりが失敗しているのは、これ、これが欠けている
 

ビルバオ・グッゲンハイム美術館

ビルバオモデルという言葉がある
都市再生に成功した欧州の都市として、ビルバオは「創造都市」として注目されている。ビルバオは大きく都市を変え、成功したと言われるが

もともと、ビルバオはバスク地方の中心都市だった

高速道路を走っていると、風力発電が並んでいる
風力発電のプロペラが高速道路からずっと見えていた

スペインのバスク地方の都市から、世界展開のエネルギー会社、風力発電のグローバル会社が生まれた

エネルギービジネスの規制緩和を捉えて、再生可能エネルギーとグローバル展開という経営戦略がすごかっただけではない。時代の潮流を捉えただけではない。 では、どうして、世界に展開できたのか?

それは突然ではない、まぐれではない 

イベルドローラ本社

 高さ165メートルの世界的エネルギー会社の本社があるビルバオは、200年前に発見された鉄鉱石を契機に、鉄鋼業・造船業を軸とした産業革命を起こして、スペインで最も裕福な都市のひとつとなり、産業・金融都市となった

その後、アメリカの台頭で70年代~80年代に経済危機となったが、 ビルバオには

この産業革命の記憶がある 

それよりもう少し前の記憶がある500年前、スペインはアジア・アメリカ大陸に向け、船を走らせ新たな土地を「発見」して、世界中の富を集めスペインは「太陽の沈まない国」と呼ばれた

その世界帝国の記憶がある 

ブラド美術館

街は変わることができるのか?

答えは、変わることはできるかもしれない。
街には、記憶、風土、歴史性、文化的基盤が埋め込まれている。その都市が持つ本質を掘り起こして、現在と融合・活かすことができれば、都市を変えることはできるかもしれない。しかし街を変えられないのは、その街の本質・必然性を理解せず、どこか他の表面的な物真似ばかりを、流行りものばかりを追いかけるからである

 流行り物は、廃(すた)りもの 

スペインのビルバオという決して大きくはないが、旧と新をバランスよく混ざりあいながら、成長しつづける都市を歩きながら、そう考えた


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