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ライブコマースのスター李佳琦が大炎上。KOLが影響力を増す世界は消費者を不幸にしている説

中国ECとライブコマースのとんでもないマーケットについては中国通のみなさんには説明不要かと思います。そんな中国ライブコマースで、最近大炎上が起き、ライブコマースって不要なんじゃないかとの議論が起きています。

中国ECとライブコマースの象徴として、ボクのnoteでも何度も紹介してきたスーパースターKOLの李佳琦(リージャーチー)が先日のライブ中に「これのどこが高いの!?」「お金が無いのは真面目に働いてないから」と視聴者と口論する事件が起き大炎上。その後、中国のネット民の間で様々な議論が起こっています。

※李佳琦(リージャーチー)を知らない人はまずはこちらを見てください↓

このニュース。日本のメディアでも多少は報道されていましたが、ほとんど全て、中国の経済が苦しいことや若者の失業に結びつけていました。中国でこれほど話題になった観点はそこではないと思います。


■ライブ中に起きた視聴者との口論について

この事件の経緯を簡単に説明します(こちら、すでに知っている方はとばしてください)。

9月10日に中国産ブランド「花西子(フローラシス)」のアイブローをライブ販売していたときに、視聴者から「79元(約1600円)は高すぎるだろ」とコメントが。これに対して、李佳琦が強めにコメントしました。

“这么多年都是79元,哪里贵了,不要睁着眼睛乱说,国货品牌很难的,有时候找找自己的原因,这么多年工资涨没涨,有没有认真工作。”
「ずっと79元だよ、どこが高いの? なぜ高いと思うかを自分で考えて。長年給料が上がってないのは真面目に仕事をしてないからじゃないか」

これを正論ととるか、視聴者に失礼ととるか。結果は大炎上となり、たくさんのフォロワーが彼から離れる自体に。ライブの数時間後に李佳琦は謝罪を投稿しますが、そこにもかなりのコメントがあり、影響力の大きさと中国での炎上の恐ろしさを実感しました。

深夜に投稿された「本当にすいません、期待を裏切ってしまった」的な内容。33万以上のコメント(9月21日時点)

大炎上ですので、当然ネット民からたくさんの意見があるのですが、その中で注目すべきは、「本来お得に買うはずのライブコマースなのに、彼がいるせいで高く買わされているんじゃないか?」「彼のせいで高いのに、視聴者の給料が安いのが悪いっていうのは理不尽だ」の意見。

この意見が生まれる構造と、この事件から始まった他ショップの施策とバズりが面白いのです。

■79元は高すぎ?ライブコマース産業ははたして社会に必要なのか?

中国ではライブ動画を見ながらモノを買います。タオバオなどのECサイトでは商品のセールスにライブ販売を組み合わせることがもはや当たり前になり、視聴者が数千万人に達するライブもたくさんあります。

みんながライブで購入するのは、MCが好きだったり、商品の宣伝が上手だから、など色々ありますが、シンプルにライブ動画から買うと安く買えるからというのが重要なポイント。各ショップはライブで最も安い値段を確約して、セールスKOLに紹介してもらうことが多いのです。

今回の件、色々な議論の中で「花西子(フローラシス)のアイブローが79元なのは適正ではないのでは?」が取り上げられました。こういうとき、ガチで調査してくる中国のネット民さん大好きです。

各ブランドのアイブロウのグラムあたりの価格の比較

中国でもかなり評判の良いシュウウエムラのクラシックチョッパー眉ペンシル3.4グラムの価格が200元で1gあたり58元。今回高すぎると言われた花西子はリストでもかなり高級な方と分類され、1gあたり985.71元とのこと。グラムあたりの価格が金よりも高く、ネット民からは「まさか国産のアイブローは黄金よりも高いなんて」と突っ込まれました。

そして、炎上した国産アイブローの値段の高さから、根本問題に議論は発展。根本問題とは、独占状態となるライブコマーストップセールスのあり方が最も深刻な原因ということ。

本来、ECの魅力は価格の安さ。テナント料や人件費の削減が実現できることで実店舗よりもお得に買い物ができます。そしてライブコマース時代ではフォロワー数や視聴者数が多く、成約額の高いセールスKOLがメーカーとの交渉力が強くなり、他よりお得だからますます影響力が高まります。これこそが“新小売り時代”にオンラインがオフラインに勝ち続けるコアな競争力です。

李佳琦や、以前にも紹介した薇娅などのトップレベルになると、メーカーとの販売依頼の契約段階ですでに「自分のところが全ネットセールス上で最もお得にしないといけない、これを破ると大きな違約金が約束される」となります。一番安くしたり、一番おまけが多かったり、とにかくどこよりもお得じゃなきゃだめです。

これが常識となっているので、消費者はオフィシャル店舗よりもKOLのところで購入する方が絶対お得だという認識を持っている状態になり、メーカーのKOLへの依存度がますます上がる構造になります。一番安い値段+KOLへの高額依頼料によって、もしも販売数が好調だとしてもメーカーにとってはそれほどいい商売にならないケースがたくさんあるのです。

ちなみに薇娅さんは色々トラブルを起こし、現在見ることはできません⤴

つまり、ここまでの中国のライブコマースは、
・消費者にとってお得だった
・KOLが儲かる、影響力をどんどん強める
・メーカーは販売数が良かったが利潤は微妙なケースも多い

という状況でした。そして、この状況がさらに加速していきます。

■KOLの生み出す新たなビジネスモデルを喜ぶ人はいるのか

寡占化がどんどん進んでいくなかで、状況はますます深刻になっていきます。今まではまるで消費者の味方となっていたKOLでしたが、より多くの利益を得るため新たなステージに突入します。

それは、メーカーの商品の値段までもがKOLが主導するかたちで決定されてしまうというもの。Zhihuにあったわかりやすい例で説明します。

とあるメーカーは原価3.9元のアイブローを販売価格9.9元としていて、年間5万本を売れていました。独占状態のKOLに販売の依頼をしたら、KOLからは販売価格を199.9元にしてくれれば依頼を受けると。メーカーはその高い定価だと絶対売れないと思ったが、KOLに信じて賭けてみた。

KOLはライブコマースで「メーカー提示価格199.9元の商品が、自分の交渉力によって79.9元で購入可能となった」と宣伝し視聴者からは大好評。結果3分間で50万本が売れた。

そうすると、KOLが3分間でメーカーの10年分の販売数を達成しメーカーは大喜び。79.9元の商品には、KOLのテナント料が60元、メーカーの利潤が16元。3分間でKOLが3000万元、メーカーが800万元の収入を実現しました。

ところで、本来9.9元で買えたはずが79.9元で買わされた消費者はハッピーですか?

最初、この流れを知らなかった消費者たちは、KOLのおかげで買い得したと思ったが、いつも買っているものが実は安く買えなくなっていると徐々に気づきます。社会に勢いがあり、国潮ブームでは若干高くても平気でしたが、経済成長が低迷し、コロナ禍の影響で節約ムードが広がると、価格に敏感になったみんなが、なぜ安く買えなくなったのだろうと考え始めます。

影響力が高まりすぎた独占状態KOLには、もはやメーカーとグルになる必要すらない。自分のところを全ネットで一番お得にしろと要求すれば、その”価格決定権力”をKOLが永遠に保持することになる。

今回の炎上はこのような構造と背景からです。ライブ中に視聴者が「ちょっと高いのではないか?」とコメントにしたら、「購買能力の低い消費者自分自身の問題だ」と指摘されました。これは、経済成長の低迷というご時世もありますが、KOL依存が高まりすぎたEコマースの構造が問題を生み出している。

李佳琦の2021年の推定年収は18.5億元(380億円程度)。ライブコマースセールスのトップとして頑張ってきて、その成功には個人の努力や才能はもちろんあるでしょうが、時代の波にうまくのったことも大きいでしょう。叱られた消費者目線からは「あなただけ言われたくない」とか、「あなたにつべこべ言われる理屈がない」と思われても仕方ないと思います。

消費者が不利益を被るようになってしまっているライブコマースでは今後何かが起きるかも。また、この状況をただ眺めているだけの中国さんではないです。この炎上事件は絶好のチャンスとばかりに続々と、想像を上回る新たなトレンドが生まれています

長くなってきたので、続編で紹介します。ちなみに、日本でも中国向けにライブコマースに取り組む自治体が現れたというニュースを見ました。

続編では、こういった日本で中国向けに取り組む方々のヒントになる内容に溢れてると思います、ぜひフォローしてお待ち下さい。

↓後編はこちらです(2023年9月28日追記)

https://note.com/beijingball/n/n9ec0d4a65899

(参考資料)


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中国情報局@北京オフィス
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