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「複業」をルールにしたら「柔らかく」なった 〜生きるって複業(後編)

こんばんは、uni'que代表・若宮です。

弊社は「全員複業」というのをルールにして、女性向けサービスのスタートアップをしています。

それは前回書いたように、女性がもっと自然に活躍できる社会をつくるため、「時短」や「複業」をもっと当たり前にしたいからなのですが、

「複業」は沢山良さもあるものの、やはりそれなりに苦労があります。

今日は1年半複業スタートアップをしてきての苦労、その実感と実情について書きたいと思います。


複業のリスクについて

企業の目線から「副業解禁」についての是非が言われる時、リスクとしてあげられるのが、以下の3点でしょうか。

1.人材流出リスク
2.情報漏えいリスク
3.過重労働リスク

「1.人材流出リスク」についていえば、複業するから退職の可能性が上がるかといえば、むしろ逆ではないかと感じています。

複業で他のことにもチャレンジできるなら、辞める理由がなくなるからです。

企業で働くひとが転職を考えるのは、年収のためという人もいるでしょうが、ある程度実力がついてきて社内の仕事だけだと、やりがいや成長機会の物足りなさを感じた時が一番多いように思います。また大企業ではジョブローテーションがあったり希望部署に必ずしもいけるわけではないのでそういう不満もあるでしょう。

このままこの会社にいていいのか?もっと新しいチャレンジをすべきではないのか?

そういう時、複業で新しいチャレンジができればわざわざ辞める必要がなくなるのです。ある時期会社がつまらなくても他でやりがいを見出し、そこでの成長を経てまた会社で活躍できる時期をつかめばいいからです。

変な喩えですが、学校でいじめにあって学校が苦しくなった時、そこしか居場所がなければ学校を辞めるしかないですが(時にはもっと深刻な「辞める」になることすらあります)、他に居場所があれば続けていけるというのに似て、閉塞の度合いが下がることで続けていけるようになるのです。また閉塞感という意味でいうと、会社員は時に評価や出世を気にしすぎて創造性が下がってしまうことがありますが、他にも活躍できる空気穴が開いていることで保守的になりすぎることもありません。

情報漏えいについても、そもそも専業だからといって四六時中監視できるわけではないですし、退職してしまえば止めようもありません。専業であれ複業であれ、moralとmoraleがあれば禁じなくとも漏洩リスクは少ないと思います。

また「過重労働リスク」については、前回述べたように、副業を禁じようが禁じまいが家庭やボランティアなど、他の業でも起こりえますし起こっています。要は「副業」を禁じても防げるリスクではないのです。


複業の大変なところ

自分自身も複業をし、また複業メンバーだけのチームをマネジメントしていて大変なことは「過重労働」というよりは

a) アンコントローラブル要因が増える
b) マインドシェア維持が難しい

の二点だと思っているのですが、これに関してはたしかに工夫とモードチェンジが必要です。


a) アンコントローラブル要因が増える

よく複業について話すと「時間足りなくないですか?」と言われるのですが、マルチタスクには慣れるので配分とペースがつかめれば実はそれほど大変ではありません。たとえば家事や習い事があっても、決まった時間や決まった曜日であればそれほど苦ではなく続けられますよね。むしろ仕事を切り替えると実は気分転換になったり、一つのことをだらだら続けるより短時間でタスクに集中してパフォーマンスがあがったりします(個人的にはこの集中状態を「マルチタスクハイ」と呼んでいます)。

そして複業の境界を溶かすことができるようになればさらに楽になるので、あれだけ色々やってたら寝る暇ないでしょ?とか言われることも多いのですが、「全然そんな事なくて7時間は寝れてる…」というのが実感値です。

複業で大変なのはむしろ、定常時ではなくなにかトラブルが発生した時。どんな仕事をしていてもかならずトラブルは起こりますが、複業をしているとそういうトラブルの爆弾が増えるのです。

そしてどれかの仕事で障害やトラブルがあると、トラブルシュートのため一つの仕事に割く時間が一気に跳ね上がります。さらにそのタイミングは予見できないので他の仕事に食い込んで影響が出てしまうわけです。これが重なると死にそうになります。

今年の1月後半から2月の中旬までがまさにこの感じで、ちょっと死ぬのかなと思いました。

1月の後半にアート関連の出張で香港に行ったのですが、その出張中に自社サービスYourNailの記事がyahoo!トップに掲載され注文が爆増。香港滞在中もお客様対応に追われ、飛行機に乗って空港につくとまた問い合わせがたまっていて移動しながらカスタマーサポート。大量注文に加え不具合も出てサービス対応に追われる中、運営で携わっていたアートプロジェクトでメインの運営メンバーが抜けることになり、そのカバーのため稼働が想定していた3倍くらいになってしまった。さらにアーティストが急遽出演できなくなったりなどのトラブルもありながら、大丸松坂屋さんの社内研修などで千葉→福岡→名古屋と出張が続き、大型の提携をまとめてプレスリリースとdemo dayのピッチをして、その足でダッシュで福岡に飛び翌朝にはスタートアップのコンテストに登壇したりと、移動中もつねになにか対応している気を抜けない日々が続きました。

このように、トラブルや特殊なイベントが生じてしまい、それが重なるとこれは確かになかなかつらい。

「悪いことは重なる」とよくいいますが、年に何回かこういう時期があります。これは本当に複業の課題なのですが、対応としてはできる限り早めにギブアップをして周りに頼れるところはSOSを出す、ということかなと思います。何回かこれを繰り返すと分散対処が速く上手くできるようになるのか、サイヤ人的に死にかけると強くなるのか、徐々に不測のトラブルへのキャパシティが上がってくるので乗り切れるようになってくる気もします。

あと、細かいことは諦めれるようになります(笑)。冗談のようですがこれ、意外と大事です。手を抜いてはいけませんが、メリハリも大事。複業の場合そもそもコントロールできないことが多いのですから、アンコントローラブルは仕方なしと受け入れたほうが上手くいくのかもしれません。


仕事を一つしかしていなくても事故や病気など大きな変化があることはありますし、天災だって起こるかもしれません。コントロール出来ないことは諦めつつ、トラブルキャパシティを上げておくと、そういうトラブルに対する柔軟性や靭性を養うことになるかもしれません。またクライシスマネジメントという観点では、見方によっては、一社に依存していると倒産やリストラの影響は大きいけど複業の場合爆弾はたくさんあっても分散しているのでかえって安定的、という考え方もできるでしょうか。


b) マインドシェア維持が難しい

一点目とも連動しますが、他の仕事が火を吹くと、自社の仕事へのマインドシェアが維持できないことも時々あります。

YourNailをリリースしたばかりの時がまさにそれで、サービスリリース後2日後にランサーズにタレント社員として入社し、その週末には佐賀にまちづくりワークショップの講師の出張もあったのですが、ちょうどそこに身内の不幸が重なったりして、リリースしたばかりの大事な時なのに、2日くらいYourNailのことが頭からすっぽり抜けてしまった(汗)

こういうマインドシェアの低下をどうするか、というのはまだ実験中ではあるのですが、コミュニケーションの頻度、しかも目的的ではないコミュニケーションを適当な頻度でできるか、がポイントではと思っています。

複業の場合時間がないので、どうしても数少ない時間を有効活用しようと、連絡をとるときには目的のある事だけを伝えがちになります。これは一見効率的なのですが、これを続けていると目的がある時しか連絡自体しなくなり、コミュニケーションが低下します。

マインドシェアを維持できているとは、それを意識していない時でもなんとなくずっと無意識に頭の隅にはいる、みたいな状態が理想だと思うのですが、そういう状態を作るためにも「目的的でないコミュニケーション」が大事なのではないか、と思っているところです。


細かいことは諦める。アンコントローラブルを受け入れる。目的や効率だけ求めすぎない。

こういうある種、肩の力を抜いてゆらり構えるみたいな感じでいる方が「あそび」ができ、複業のパフォーマンスを出すためにむしろ適しているのではと感じています。

日本はかつて、製造業のパラダイムで成長してきて、低い不良品率や非常に時間に正確な鉄道などの効率性を作り上げました。しかし一方で電車が数分遅れただけでイライラしたり、ちょっとした表現やミスにも過剰に反応する、不寛容でピリついた社会になり、それが閉塞感を生んでさらにストレスを上げる悪循環になっている気もします。


すべてがコントロール可能ではない。(勿論できるベストを尽くした上でですが)コントロールできないことはそれとして受け入れ、諦めをベースにどうするか考える。そういう余裕がもう少しあってもいいのではないでしょうか。

何より、スピードスケートじゃなくてフィギュアスケート型のスタートアップを目指し、女性がもっと自然に活躍できる社会をつくることをミッションとしている弊社としては、トラブルごとにギチギチギスギスしたりしない、柔らかい経営が合うと思うので、そういう方向をもっと掘り下げてチャレンジしていきたいと思っています。


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