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ワンノッチは埋まったか~日銀会合プレビュー~
トランプ大統領就任式から一夜が明けました。その後、数々の大統領令への署名が報じられているものの、事前に想定された範囲内での挙動が目立っており、大きな混乱はないとの評価が支配的と言えそうです(少なくとも金融市場参加者の雰囲気では、ですが)。
というわけで、本邦金融市場の目線は1月23~24日の日銀金融政策決定会合へ移っています。既報の通り、利上げ見通しが支配的です:
12月会合が現状維持に至った背景をおさらいしておくと植田日銀総裁は「賃金と物価の好循環の強まりを確認する上で、春闘などもう少し情報が必要と考えた。米国など海外経済の見通しも不透明で、米国政権の経済政策に対する不確実性もある」と仰っていました。当時のレビューは下記noteにて:
要するに、12月会合は「賃金情勢と第二次トランプ政権にまつわる2つの不透明感がある以上、決断はできない」という説明でした。このうち後者に関しては(少なくとも今日の時点では)大きな混乱が認められず、利上げを阻むことにはなりそうにない、と考えて良いでしょう。
問題は国内要因である前者をどう評価するか、です。2025年度の雇用・賃金情勢については「もうワンノッチ欲しい」と追加情報を求める植田総裁の発言が注目されました:
このワンノッチは果たして埋まったと考えるべきでしょうか。結論から言えば、その可能性は高いように感じます。
既報の通り、12月会合以降、初任給を中心として大幅な賃上げに至る企業の動きは断続的に報じられてきました。1月に入ってからは「初任給30万円時代」というフレーズも登場しました:
1月21日には経団連が春季労使交渉(春闘)における経営側の基本指針となる2025年版「経営労働政策特別委員会報告(以下経労委報告)」を公表し、賃上げの勢いを社会全体に定着させることが「経団連・企業の社会的責務」と明記されたことが報じられました:
その上で「賃上げの原資を確保する価格転嫁には消費者の理解が欠かせない」との認識が示され、連合が掲げる25年春闘に対する「5%以上」という水準感について「経団連の方向性と一致」という評価も下されました。
また、ほかならぬ日銀も1月9日発表のさくらレポートにおいて「全体としては、構造的な人手不足のもと、最低賃金の引き上げもあって、継続的な賃上げが必要との認識が幅広い業種・規模の企業に浸透してきているとの報告が多かった」と雇用・賃金面に対して強気の評価を与えています:
ワンノッチの定義が分からないため不透明感は残るものの、国内の雇用・賃金情勢に関し、12月会合から前進している気配は間違いなくありそうです。
政治的に円安抑制は容認されそう
また、全面的にアピールできない日銀の本音として円安抑止のための利上げが容認されやすい、という環境も指摘されます。
1月20日のトランプ大統領の就任演説では米国製造業の復活が宣言されました。演説から読み取れる論点に関しては下記noteで簡単に整理しております:
演説では製造業の競争力を改善させる論点の1つとしてエネルギーコストの抑制が言及されておりましたが、コストという意味では実質実効為替相場(REER)ベースでプラザ合意以来の水準まで押し上げられているドル相場も製造業の重荷に違いありません:
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このままドル/円相場が続伸する展開についてトランプ大統領は愉快に思わないでしょう。また、日本の立場に照らせば、2月上旬に開催が見込まれる日米首脳会談までにはその修正を図りたいのでは?という邪推もできます(現にそのような記事は出ているようです):
また、1月28~29日のFOMCでは現状維持がほぼ既定路線です(本稿執筆時点で現状維持の織り込みは99.5%)。今回の日銀会合で現状維持を決め込んだ上に来週のFOMCを迎えれば、直地に日米金利差拡大を背景として年初高値までドル/円相場が高進するリスクは極めて大きいでしょう。可能であれば、その状態で首脳会談を迎えることは避けたいはずです:
![画像](https://assets.st-note.com/img/1737532502-5Wf92EJHiKxO7duPpLenF3wX.png?width=1200)
現状維持の方が大きいリスク
実際、政府・与党は利上げを容認する構えと見受けられます。石破首相の右腕であり、政権における経済政策運営を差配していると言われる赤沢経済財政担当大臣は1月14日の閣議後会見において日銀の利上げ検討と政府がデフレ脱却を目指すことに「矛盾することはない」と言及していました:
筆者は「デフレ脱却」というフレーズの使用自体、もう政策議論の中では使用を控えるべきと考えますが、日銀会合にも政府代表として出席する立場にある赤沢大臣がこうした構えを取っていることは重要な事実と感じます:
兎にも角にも、現状、日銀が利上げするにあたって日米両政府から歓迎されやすい雰囲気はありそうです。
もちろん、賃金情勢はともかく「第二次トランプ政権にまつわる不透明感」が消えたわけではないため、現状維持で乗り切ろうとする可能性がないわけではないでしょう。
しかし、思い返せば12月のFOMCでパウエルFRB議長は「第二次トランプ政権にまつわる不透明感」に言及しつつ、果断に利下げを選びました。同じリスクに言及した植田総裁は現状維持を選びました。その構図は非常に対照的だと感じました。
率直に言って、今後4年間、「第二次トランプ政権にまつわる不透明感」は金融市場に常駐するリスクであり、払しょくされることはないでしょう。その払拭を利上げの条件とするのは難しいと思います(推奨できません)。
しかも、上述した状況を踏まえれば、足許では現状維持を選んで円安を焚きつける方がその政治的リスクを増大させそうな気配まであります。今回、経済・金融情勢がオントラックにあること、もしくはやや上振れ傾向にあることを理由に+25bpの利上げを決断する公算は非常に大きいと考えます。
問題は総裁会見の情報発信でどこまでバランスが取かでしょう。0.75%や1.00%は中立金利到達の評価も出てくる水準です。今回の+0.50%までの利上げを踏まえれば、連続利上げをアピールする難易度は徐々に、しかし確実に上がってくるでしょう。
なお、「1%まで」の根拠が鮮明なわけではありませんが、昨年8月の日銀による自然利子率推計(▲1.0%~+0.5%)に関し、インフレ率2%を考慮した場合、「少なくとも1%」というイメージが得らる、と考える向きは多そうです。前回利上げを提案した田村審議員の発言は昨年、話題になりました:
「あと何回利上げできるか」が争点に
むしろ、今後の日銀について不安視すべきは「利上げの有無」というよりも「あと何回利上げできるか」であり、言い換えれば「利上げの終わり」がコンセンサスとなるタイミングです。それを市場参加者が確信するようになった時、ドル/円相場の水準は一段と押し上げられている可能性が高いでしょう。その際に米国の利上げ再開が注目されていると、金利差を理由とした円安、これを防衛するための利上げという構図がナラティブに注目されやすくなってしまい、投機筋が調子づきやすい懸念があります。この点は今月、以下のコラムで議論させて頂きました:
もちろん、金融政策による通貨防衛戦はまだ完全に始まってはいませんが、些細な過ちによってそうなりそうな可能性は依然大きいと言えるでしょう。
日米金融政策シナリオも含めた2025年のドル円相場見通しの勘所については以下にまとめております。よろしければご参照くださいませ: