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保険診療・診療報酬の仕組みを理解する

 診療報酬という言葉はご存じの方が多いと思いますが、その仕組みについてはよくわからないのではないでしょうか。私も勤務医の時にはあまり(というよりほとんど)気にしないで診療を行っていましたが、いざ事業をするとなるときわめて重要な案件になります。2年ごとの診療報酬改定時期になると関係省庁や医師会との間で議論がなされるところではありますが、具体的な保険診療の仕組みや人件費などの維持管理費などを含めて医療機関や診療科によって大きな差があることから一概に上げ下げのどちらが妥当かを決めるのも難しいところであると思います。
診療報酬の改定とは 医療の単価、物価を反映 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 今回の改定で問題となったのはおそらくCOVID診療による種々の特例措置でかなりの増収となった施設が目立ったことが一つの要因であるのではないかと推測します。確かに5類に移行する前まで発熱外来を行った施設に対する特例措置があったことは事実であり、一時期は診療所で発熱患者さんの診療を行う際には多くの手間と人手がかかることなどから、初診料のほかに院内トリアージ加算など特例として算定可能な点数が設けられ、検査などをしなくても588点(報酬額は5,880円)、さらに外来で迅速検査でCOVIDと診断した場合は二類感染症患者入院診療加算+救急医療管理加算が算定可能でありましたので、1人当たり20,000円以上の報酬となっていたわけです。これらの加算に関しては、たとえ発熱がない上気道症状の患者さんであったとしてもCOVIDの疑いということであれば(承認されたかどうかは別として)加算は可能だったかもしれませんし、発熱がなくても検査を希望される患者さんが多かった時期においては来院するすべての患者さんに検査を行っていた施設も多かったと思われます。当時は必要であるからこそ行っていたことに相違はありませんが、そのあたりの線引きが曖昧で不必要な患者さんに対しても加算することは可能であったわけです。私はこのあたりの判断を37.5℃以上の発熱あり・なし、あるいは接触者である・なしで線引きをしていたのですが、全員に検査を行う施設が親切な施設、検査の必要性を考えている施設が不親切な施設などと揶揄されることも多々ありました。
 
 そもそも保険診療は3割負担の場合、7割は保険で賄われるということであり(少し乱暴な言い方かもしれませんが)本来かかる医療費を7割引き価格で窓口に支払っているということです。しかもCOVIDの特例では検査費用は無料でしたのでPCR検査だけでも15,000円近くが公費で賄われていたことになります。「すべての患者さんに無料でPCR検査を」ということが掲げられた時期もありましたが、私自身は納得し難いところではありました。限られた貴重な医療資源は本当に必要な方に使用されるべきであり、自費で行うのであればまだしも保険診療ですべての患者さんに実施すれば保険点数は急騰しそれだけ必要性の低い税金も使われてしまうのです。COVIDの流行がまだ始まったばかりの頃の記事にもその旨明記しています。
無症状者のPCR検査のあり方|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com) 臨床検査は安心材料ではない|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com)

 現在、発熱のない上気道症状で医療機関を受診した場合「発熱がなくCOVIDやインフルエンザが否定的」と考えられる時に、検査をせずに薬だけもらう場合は300点+処方料程度なので窓口支払い額は1,200円程度ですが、「発熱はありませんがとりあえず検査をしましょう」などと言われて検査をすれば特例加算も含め10,000点を超えるので支払額は3,000円程度に上がります。もう少し具体的に説明すると、発熱のないかぜ症状の患者さん10人にすべて検査を行うと100,000円以上の収益になりますが、現段階では検査の必要性は低いことをしっかりと説明して発熱したら受診するように指示をしただけであれば30,000円程度の収益となりその差は歴然としています。
 もちろん医療者側からすれば「検査をしなければ正確な診断はできない」との意見があるでしょうし、患者さん側からすれば「検査をすれば安心」という意向があるからこそなのですが、感染症専門医からは「詳細な問診と検査の意義を理解したうえで実施していただきたい」というのが本音です。特にこの時期は検査キットも流通が少なくなっている状況で「何でも構わず検査」ということが保険点数の高騰や医療資源の枯渇に結びついているのではないでしょうか。
最近の感染症流行状況から「とりあえず」は控えていただきたい|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com)
 
 COVIDだけではありません。例えば生活習慣病で定期的に通院される方におきましては「生活習慣病管理料」(高血圧症で620点、脂質異常症で570点、糖尿病で720点)が算定されますが、毎月算定可能であることから高血圧や脂質異常症などで症状が安定している患者さんでも医療機関によっては1か月ごとの受診を促しているところもあるかと思います。安定している患者さんからすれば薬はできるだけ多く欲しいというご要望があるでしょうから、総合病院などでは2か月分の薬が出ることもあると思います。名目上は「こまめな診察が必要であるために1か月に1回まで算定できる」ことになっていますが「薬だけだしておきます」という一言で診療終了するようなことを1か月ごとに繰り返している背景にはできるだけ加算を増やす意図があると思います。1か月に1回算定できる報酬が2か月に1回になれば半額になってしまいますが、私は症状や検査所見が安定していてご希望される患者さんに対しては毎月受診していただくのも大変だと考えた上で2か月分の処方を行っています(その分収益は減ります)。
 
 医療機関側も事業経営がかかっていますので「取ることができる加算はできるだけ取る」ことが必須である一方で、ときに「必要以上に取りすぎている」こともあるのです。当然ながら患者さんからすれば保険診療であれば過剰に請求されていることはないだろうと思われるでしょうが、保険点数の仕組みを理解していただくと本当に必要な医療、あまり必要でない医療の本質が見えてくるかもしれません。このあたりの状況を現場で携わっていない方々の判断のみで上げ下げを決められてしまうのは事業者としては何とも言えない気分になります。
財政を追う:診療報酬増減、綱引き 医師会、経営厳しく賃上げを/財務省、コロナ禍で利益蓄積 | 毎日新聞 (mainichi.jp)(取材を受けた記事です)

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