コミュニティの信頼感の礎「心理的柔軟性」のつくりかた【コミュニティ思考を語ろう⑥】
Potage代表、コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。コミュニティづくりの専門家として、ファンコミュニティづくり、組織づくりのお手伝いをしています。
3月のCOMEMO記事から「コミュニティ思考」についてシリーズで語っています。今日は第6回目の記事です。(あわせて、Voicyで音声コンテンツも公開しているので、もしご興味ありましたらそちらも聴いてみて下さい!)
僕は、社会が今直面している課題への対応策を見出し、より豊かな社会を築くための鍵が「コミュニティの力」にあると確信しています。このコミュニティ思考に関する論考が遠くない未来に、より個々人や社会の可能性を解き放つきっかけになることを祈りながら執筆するので、どうぞ3回目もどうぞご笑覧下さい!
自律したメンバーによるコミュニティの複雑さ
コミュニティ思考を持っている人の要件として、自立していること、そして依存しないこと、さらに言うとそのための武器を持っていること。この辺についてご説明してまいりました。今日は、理想的なコミュニティがどう構成されて形作られていくか、そちらのお話をしたいと思います。いよいよコミュニティ本体の話に入っていきます。
前回、コミュニティを構成するメンバーは「それぞれが自律していて、その目標に向かって貢献できるための武器を持っていることが大事ですよ」という話をしてきました。
もちろん武器は、大きいものがあってもいいし、小さいものがあってもいい、その前提で、それぞれができる範囲で持ち寄るという発想が大事になってきます。
そして、自律の度合いも、人によって違ってくるものです。年齢によっても違ってくるし、経験とかキャリアによっても違ってきますが、理想としては、自分自身が自律を目指し、自分自身が何かコミュニティに対して貢献できる武器を持っておくことを大事にしていこうということなんです。
ただ、この「自律している人たちが、それぞれの武器を持ち寄って活かしあう」という前提で集まると、結果的にどういう場所になるかというと、非常に面倒くさい場所になることが多いです。それはそうですよね。人間は、自律している感覚が強ければ強いほど、人の言うことを聞かなくなるものです。人の言うことをある程度聞くこともあるかもしれないけれども、基本的には自立心の強い人ほど「自分のアプローチが一番正しい」という発想で動く傾向があります。そうなると、何か議論が発生した時に「自分の考えの正しさ」を主張するケースが増えてくるわけです。
コミュニティでの調和を保つための対話とすり合わせ
ではどう対処したらいいでしょうか。その答えの鍵は「心理的安全性」というキーワードに隠れています。心理的安全性とは「自分が思ったことをちゃんと真っ直ぐに発信できる状態」のことですが、これは、成功するコミュニティにおける最低要件でもあるのです。
自律的に機能する場所というのは、自律した人々が集まることで成り立つわけで、うまくいくと調和が取れるけど、悪い方にいくと皆が自分勝手になって終わるという状態になりかねません。
例えば営利企業であれば、統率をとるのはある意味簡単です。例えば会社においては、メンバーにはまずポジションを与えられます。ポジションには「職責」がついてきて、達成すべき目標が与えられます。海外ではこれをジョブディスクリプションと呼んでいて、これを達成することで組織から評価され、報酬が支払われる仕組みになっているのです。要するに「その人の地位と職責に対して、お金を対価として払うから、組織のためになる行動をしてください」というのが、営利企業のシステムなのです。
営利企業のシステムに乗っかっていて、縦関係(ヒエラルキー)が強い組織ほど、運営は比較的簡単になります。「とりあえず金を払うから、その代わり言うことを聞け」というマネジメントができるからです。上の言うことは絶対。それを外れる者は辞めてもらう。そうやって組織の統制を効かせることができるわけです。
ところが、コミュニティはその真逆です。コミュニティ活動においては報酬が発生しないのが一般的です。提供される価値に対してお金を支払うことができない。ということは、貢献に対するインセンティブの設計が難しくなります。責任もそれぞれが関与できる範囲で関わるという前提があるので、だれがどれだけコミットするかの定義と管理が難しいわけです。「自律的にすべてを回すことが求められる」ため、マネジメントの難易度ががぜん上がるのです。結果として、高い理想を掲げていたけれども、うまくマネジメントができなくて消滅するコミュニティも、決して少なくはありません。
では、どうやって調和を取っていけばいいでしょうか。結論を言うと「徹底的な対話とすり合わせ」を行うことが大事になってきます。これがコミュニティマネジメントの肝になるのです。
心理的柔軟性の重要性とその役割
その対話とすり合わせを行う上で基礎になるのが「心理的柔軟性」という考え方です。
「心理的柔軟性」とは、他の人の意見にどれだけ柔軟に耳を傾けられるか、他の人の価値観に対してどれだけ寛容でいられるか、その度合いのことを言います。これが、心理的安全性を生み出す上で、鍵となる概念なのです
もちろん人には譲れない価値観があります。しかし、大事なのは自分の中で譲ってもいいゾーンを設定し、その範囲であれば調整できるようになると、周りとの合意形成がうまくいくようになります。コミュニティ的な組織運営においては、この「寛容さ」を組織を構成するメンバー全員が持っていることが重要なのです。
コミュニティとは、参加するそれぞれのメンバーが熱量を持ち寄って、お金とか金銭的なリターンがない状態で、ある一つの方向性に向かって、価値観を取り合わせて、それぞれ受けを持ち合わせて行動するものです。ただ、そういう場は、それぞれの参加者が相手の言葉を跳ね返すようなガチガチな状態だと、結局うまくいきません。むしろ、相手の意見を受け入れる姿勢を持つというのが、とても大事になってきます。
相手からの意見には、もしかしたら、ちょっと耳の痛いような話とかもあるかもしれないですし、あるいは自分のもともとの価値観からすると、ちょっと違うかもな、みたいなこともあるかもしれません。しかし、それを一定の幅で受け入れる「余裕」を持つことによって、結果的にお互いの武器を生かし合い、強みと弱みを掛け合わせて新しい価値を生み出すコミュニティは生まれるのです。
この余白の部分が「心理的柔軟性」です。自分自身の確固たる価値観を持ちつつも「ここからここまでの範囲は譲っても構わない」という余白をあらかじめ設定しておくことで、結果的に周りの人たちから、「こうした方がいいんじゃないか」という話が出た時や、「こういう風にしたらいいと思う」という提案が来た時に「それはいいかもしれないな」と受け入れて、一旦その形でやってみようという意志決定や次の行動につながってきます。そしてその行動を通じてコミュニティは学習をし、更なる成熟を促すのです。
心理的安全性を高めるための共同作業の重要性
ただし、多様性あるコミュニティは、もともと違う価値観を持つメンバーが、それを持って集まってきます。そんなメンバーたちが心理的安全性を形成する上で大事になってくるのは「鎧を脱いで、お互いに心を向き合わせる状態を作る」ことです。
これに役立つのが、実はイベントなんです。もうちょっと正確に言うと、共同作業ということになります。これって実はイベントじゃなくてもなんでもよくて、極端な話、一緒にご飯を作るとか、一緒にバンドで演奏するとか、そういうことでもいいんですよ。要するに、お互いがリソースを持ち寄りながら、何かを一緒に形にすることができればいいんです。
イベントはどうしてメンバーが鎧を脱ぐうえで役立つかというと、イベントをつくる過程で自己開示が自然に始まるからです。例えば、「僕はファシリテーションができる」とか、「イベント企画やったことがある」とか、「裏方の仕事だったら何でもやる」といった感じで、それぞれの特性やスキルを明かし合うことで、理解が進みます。
さらに、顔を突き合わせて一つのゴールに向かって行動することで、トラブルを乗り越えて結束感が生まれます。雑談を通じて相手の人となりを理解することで、一定の敬意が生まれるんです。そんなことを重ねてゴールを達成すると、達成感が生まれ、結果的に仲良くなってきます。
良い共同作業は、初対面の人同士でも結びつきを強くし、仲良くさせる力があります。そして共同作業が終わった時には、最初に着ていた鎧を脱ぎ捨てているんです。これが大事になってきます。
コミュニティづくりにおいては「価値観を持ち寄る」ことが大事だと言いますが、重要なのは「鎧を着た状態」で価値観の擦り合わせをいきなりしないことです。価値観ベースのコミュニティ形成は大事なアクションですが、いきなりやらないことが重要です。最初に共同作業をして、お互いのキャラクターをつかんで敬意が生まれた後に、価値観を持ち寄りましょう。そうすると、相手が自分と違う価値観を持ってきたとしても、相手への心理的柔軟性が高まっている分、肯定的に受け取るようになるのです。
「価値観を持ち寄るのは大事だけど、まずは共同作業をして心理的柔軟性を生み出そう」この順番がコミュニティマネジメントにおいては鉄則だし、この繰り返しを行うことで、コミュニティはより持続的な存在へと進化するのです。