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「ゆるブラック」を理由にした転職の罠—転職市場での厳しい現実

ブラック企業とは異なり、労働環境がホワイトすぎて成長が見込めない企業が『ゆるブラック』企業と呼ばれるようになっています。

この言葉は2019年頃に登場し、OpenWorkなどのサイトでも使用され始めました。

その後、ブラック企業・ホワイト企業に次ぐ『パープル企業』という呼称も広まりました。

ゆるブラックという言葉が誕生した2019年、特にIT業界では、まさにエンジニアバブル(2015年〜2022年11月)の最中でした。当時は「ゆるブラックだから」といって現職を退職しても真っ当な転職先が見つかる可能性はありましたが、現在の厳しい転職市場では、そのリスクが一層高まっています。特に最近では、転職に失敗し、転職先に恵まれない若手エンジニアが増えており、これを『転職氷河期層』と呼ぶこともできます。

若手の転職市場と『ゆるブラック』企業からの人材流動化

『ゆるブラック』企業という言葉は、現職に対する不満を煽り、若手が転職に向かう要因となっています。しかし、キャリア相談や面接に来る若手の中には、この影響で転職に迷う人も少なくありません。まずはその背景を3つ、お話します。

「技術力を身につけたい」若手のメンバー層にとどまるキャリア

若手エンジニアの多くが「技術力を身につけたい」という理由で転職を希望しますが、この技術力という言葉には曖昧さが残ります。彼らが求めるものは以下のような点です。

  • 今のプロダクトに飽きた

  • リーダーやマネージャーではなくメンバー層でいたい

  • 流行りのモダンな言語で開発したい

  • 技術的負債の少ないプロジェクトに関わりたい

特に小規模な企業では、キャリアパスが限られているため、転職が選ばれることが多いです。大企業なら社内異動で解決できるケースもありますが、交渉せずに転職する若手も少なくありません。

技術力が指す方向性として、テックリードのようなプロダクトを深く知り、技術的に牽引するような意味合いのキャリアを目指す人が少ないことに注意が必要です。リーダーやマネージャーになりたくない人が多いことから、メンバー層を転々とする方も見られ、その結果として1メンバーのままフリーランス化する人も多く見られました。

第二新卒をターゲットにした人材紹介事業の影響

みずほ情報総研が平成28年に発表したデジタル人材不足や、少子高齢化の進行により、若手は貴重な存在とされています。そのため、採用企業も若手の意見を尊重することが多かったのです。しかし、人材紹介会社による転職促進の煽りも強まり、「キャリアに迷ったら登録しよう」「市場価値を確かめよう」といったメッセージが頻繁に見られるようになりました。

現在では、即戦力の経験者を求める企業が増え、転職が厳しくなっています。

未経験者のITエンジニア育成に消極的な企業

未経験を採用し、育成したいという企業の背景には下記のようなものがありました。

  • エンジニアバブル以前から見られた背景

    • これまでも未経験からの育成実績があった

    • 経営層・面接官が候補者に自身の境遇を重ねて同情した

    • 経験者より採用コストが安い

  • エンジニアバブルの産物

    • 採用目標人数の達成が絶対だった

    • (派遣やSESの業態であるため)豊富なアサイン先を背景にとりあえず採用した

    • 人材紹介会社から経験者を紹介してもらうための呼び水として「先に何名か未経験者を採用する」という謎テクニックに従った

転職を前提にした未経験の人たちによるフリーライドに企業側が懲り、求人が減っていった側面があることにも注意が必要です。

エンジニアバブル崩壊後の転職リスク

転職は個人の自由ですが、特に以下の5点には注意が必要です。

スタートアップに安易に飛び込む

2022年11月以前と比べ、余裕のあるスタートアップは減少しています。スタートアップは自由度が高いように見えますが、実際には単に未完成な部分が多いだけです。それ故に転職後に規則が増えていくと不自由さを感じることがあります。スタートアップについてはレイオフもカジュアルに発生するようになりましたし、フルリモートからの週5出社など労働環境を悪化させることでレイオフパッケージなしで退職を静かに促すようなところも複数確認されるようになりました。

退職しても尚、自由さを理由にスタートアップを渡り歩く方が少なくありませんが、職歴が増えすぎて普通の企業の選考に落ちる方も居られるので注意が必要です。

内定がない状態で退職する

一部の人材紹介会社は、内定が出る前に現職を退職するよう促すことがあります。しかし、これは非人道的であり、安易に従うべきではありません。

フルリモートワークを絶対条件にする

2020年のコロナ禍をきっかけにフルリモートをするためにITエンジニアになった人たちが少なくありません。ITエンジニアになる動機が『フルリモートができる』なのでいかんともしがたいのですが、未経験・微経験といった教育が必要な状態でフルリモートが絶対となると身元を引き受ける企業は減ります。週1-3日の出社は許容しないと就業先が見つからない状況になっています。地方在住であっても、エンジニアのリーダーが居る支店に出社するくらいの気概があると受け入れの可能性が上がります。

現在ではフルリモートワークを絶対条件にすると、利己的な人材の象徴になっている側面があり、面接落ちする理由にも繋がっています。

短期間での転職を繰り返す

1〜2年以内の転職を繰り返すと、企業からは「定着しない人材」と見なされます。

特に人材紹介を通じての転職では、採用コストがかかるため、警戒されがちです。人材紹介フィーが上昇傾向にあることにも注意が必要です。現在の人材紹介フィー相場は40%が下限ですが、一部エージェントでは45%にする動きが見られています。

27歳以降のキャリアチェンジのリスク

営業だったりITエンジニアだったり小売業だったりと、キャリアチェンジを伴う転職を複数回繰り返すかたが居られます。若いうちはキャリアチェンジを伴う転職も許容されますが、目安として27歳を過ぎると転職市場は厳しくなります。自分探しの転職を続けていると、年齢とともに採用のハードルが一気に高くなるため、注意が必要です。

ITエンジニアの転職氷河期層の形成

勢いで辞めてしまっても、受け入れてくれる企業はありますが、それが良い企業かどうかは別問題です。

ITエンジニアとしての経験が積めないまま、SESにしか内定をもらえない若手が増えています。未経験で入社したSESは非ITエンジニア職(コールセンター、家電量販店店頭、ノンデスクワークである警備員や期間工)にアサインされる傾向ができています。これにより、ITエンジニアとしてのキャリアが進まない転職氷河期層が形成されつつあります。転職氷河期層を脱するためにはプライベートで自己研鑽を行い、(ポートフォリオのようなライトなものではなく)しっかりと作り込んだプロジェクトを立ち上げて企業にアピールすることが求められています。

就職氷河期世代とITエンジニア転職氷河期層の違い

現在、安心して転職できる企業の採用ハードルが高くなっています。適切なキャリア形成をしていれば、良い企業に転職できる可能性はありますが、それができない場合は博打の要素が強まります。

転職市場で成功するためには、以下の4点に注意することが重要です。

  1. 現職での取り組み方:25歳を過ぎると、現職での問題に対して自分がどれだけ働きかけたかを企業側が見るようになります。不満があったとしても、それに対して建設的に交渉した上で改善が叶わなかった、という話であれば受け入れられますが、そうでない場合は対人コミュニケーション力が低いと評価される傾向が見られます。

  2. 肩書の重要性:肩書がないまま30歳を迎えると、書類選考で不利になるリスクが高まります。肩書を得た上で、その役職を少なくとも1年以上務めて初めて、肩書に相応する評価が得られると考えて良いでしょう。途中で投げ出さずにやりきる、という項目が重視されています。

  3. キャリア選択の主体性:転職活動で、人材紹介会社の指示に従いすぎると、失敗した際に担当者のせいにする方が居られます。自分の意思でキャリア選択をしていないと、転職を繰り返すリスクが高まります。きちんと自分の意志でキャリア選択をしたと自分自身に言えるようでなければ、自省することなく転職を続けてしまいます。

  4. すぐに転職しない:自分の会社が『ゆるブラック』かもしれないと思った時は、すぐに転職を考えるのではなく、まずは上司や人事に相談することが大切です。転職は一つの選択肢ですが、転職業界に左右されるのではなく、自分自身のキャリアを守るためにも慎重な判断が求められます。人材紹介業界は親身に見えるかもしれませんが、彼らもビジネスなので利益を優先して動くことも多いです。

このように、若手ITエンジニアが転職に挑む際には、慎重に状況を見極め、自身のキャリアを戦略的に進めることが必要です。エンジニアバブルの終焉後に現れた転職市場の厳しさを踏まえた計画と行動をするようにしましょう。

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