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世界の人にとって「なんでもあり」の日本―美しい日本④(最終回)

「日本はスゴイ」というテレビ番組の視聴率は高い。なぜか?それを観たら気持ちよくなるから。日本は美しい、日本はすごい、日本は美味しいと日本に来た外国人から言われると、嬉しくなるから
 
日本が拠って立つのは、そういう評価
 
外国に出た日本人の多くは、おどおどする。欧米に行き、欧米のカルチャーに合わすのが苦手である。日本だったらダメということが、世界では大丈夫ということがある。世界では食べっぱなしで外にでてもなにもいわれないのに、日本人にはそれができない。食べ終わって食器はどこに片づけたらいいのだろうと、おどおどする
 
なぜ欧米の人は食器を片付けないのだろうかと違和感があるのは

美しさに関する感性が一致しないから


1 斉という漢字に込められた価値観

国歌斉唱の斉(せい)は、不思議な漢字
そろう、そろえる、ととのう、ひとしい、おさめる、おごそか、つつしむという意味があり奥が深いが、この斉という漢字に
 
美しいものに対する
日本人の共通している価値観が
込められている

 
外国人が感動するのは、観光の日本の美しさだけではない。ものづくり、もてなしにも、日本の美しさがある

日本の3つの美しさ
⓵ 意匠的な意味の作為・無作為が存在していると理解できることが美しい
② あるがままのカタチ、あるがままが美しい
あるべきものが、あるべきところに、あるべきカタチであるが美しい

note日経COMEMO(池永)「日本が生き残る道-美しい日本 ①」

日本料理もそう
寿司にしても刺身にしても、「あるものを、あるとおり」にお客さまにお出しする料理に、外国人は喜ぶ。目の前で、魚を切ってお皿に盛り付けたようなのに芸術品のように美しくなる。そこには、とてつもない手数が加えられていることは見せない

美しいとは、「うまし」ともいう 

うましとは、甘し、旨し、美しと書く。うまい、味が良い、満ち足りて素晴らしい、よい、美しい。この美しさは

ある定められた手順を守る
ことが美しさとなり、価値を創造する

この創造される価値は、機能的な価値や情緒的な価値ではない。それらの価値を超えた精神的価値、斉、均斉という言葉がしっくりいく感覚である

2 均斉とは、一点に合わすこと

椅子の上に、ペットボトルが1個置いてあったら
 
美しくなくなる
 
日本人は均斉がとれていない、バランスがとれていないと、違和感がある。バランスとはなにか?
 
バランスとは、一点に合わすこと
AとBがあり、AかBかではなく
バランスさせる

 
世界はAがだめでBがだめになると、つぎはCでどうだと考える
日本人は、「AでありBでもある」と融合させようとする
 
リアルかバーチャルではなく、リアルもバーチャルも
リアルとバーチャルを融合させて新たな価値をつくりだそうとする
 
1+1=2ではない
1+1をXにもYにもZにする
1+1から、新たな価値を生もうとする
無意識に、無作為に
 
能では、それを「あわい」という
内と外をつなぐ縁側が、それ。内でもあり外でもあるが、「間(あいだ)」とはちがう。重ねあわせて、新たな意味を生みだす
 
陰陽融合 という言葉もある
太陽と月は、互いに存在して、互いに認めあい、朝陽と夕陽の美をつくりつづけあう。陰と陽は常に変化し、互いに増えたり減ったり、互いに競争しながら成長する。どちらも存在して、互いが成長していく

3 思想の承継が日本の美しいをつくった

日本人は当たり前のようにモノを綺麗にバランスよく並べるが、外国はその真似ができない
 
中国の百貨店のデイスプレイの仕上げは、日本人がしていたことがあった。そうでないと、美しくなかった。だから日本人が最後の仕上げをしていた。マクドナルドもそう、セブンイレブンもそう、ミスタードーナツもそう。外から来たモノ・コト・サービスを日本人が磨き、洗練させ、美しくさせた

日本人は価値観に美しさを入れる

日本の美しさはどのようにして作られたのか?
日本料理や芸・工芸の世界は、かつては親方はやり方を教えなかった。弟子を自分のそばに張りつかせて、親方がやってみせた。見せて、学ばせた
 
ああだ、こうだと、口で説明するのではなく
自分がする姿を見せて、習得させた

親方がやった結果が素晴らしいと思えば、弟子はその結果にどのようにしたら自分もたどりつけるだろうかと粉骨砕身して、習得しようとした
 
親方は自分でやってみて、結果を出した
結果こそ、すべてだった
 
その結果を観た人が、なぜその結果になるのだろうかと考え、それを習得したいと思い、行動する。その努力の末、その人の結果が出てはじめて、親方の「思想」が伝わったことになる。学びの本質は、これである
 
旧海軍の山本五十六元師の有名な言葉「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かず」は、まさに技術の継承ではなく、自分がする姿を見せて結果をだすために、なにをしなければならないのかを考えさせるという「思想」の承継の教えだった

この思想の承継が日本の美しいをつくった

4 日本のエレベーターのスピードも、美しい

日本のエレベーターのスピードも美しいと感じる
世界のエレベーターに乗ると、不安になることがある。日本人のスピード感が合わない。しかし日本のエレベーターは、日本人の移動感覚にあわしているのではないかと思うほど、乗っていても不安にならない。揺れや騒音を抑える装置や気圧の制御など、快適性を支える技術が盛り込まれているというが、それだけではない創意工夫が込められている。だから美しい
 
信号の点滅の速度も変えている
高齢者が渡ろうとしても横断報道が渡り切れない場合は、青信号になっても自動車は待つ。渡り切れない人がいても、自動車は動かずに待っていた。日本人の美徳があった

しかし待たなくなる人が増えた。クラクションを鳴らす人が出てきた。社会全体が美しいと思うことの価値観がない人がいると
 
まわりを不愉快、不安にさせる
 
旧東海道五十三次の街道には1604年に徳川家康の命で植樹された松が400年の時を経て残り、街を美しくして、人々を安らげている。日本人はお金をかけ、時間をかけ、じっくりと街路樹を育ててきた。だから街を歩くと、気持ちよかった。しかしそんな街路樹が倒れて誰かにあたったら面倒くさいからと、切るようになった

街は美しくなくなりつつある

5 なんでもありの日本

日本のマンガやアニメの登場人物はかつて死ななかった
バイキンマンはアンパンマンにパンチされて山の向こうに飛んでいっても、翌週にはなにもなかったように登場してきた。冴えない主役が、どんどん立派に成長していく物語が多かった。日本のマンガやアニメにはそんな価値観が色濃かった。社会的ルールやモラルやヒューマニテイを教えるのは、日本のアニメがよいと思われ、世界に拡がった側面があった
 
外国人はそんな日本に憧れる
生活保護や社会保障を悪用しているとか、奈良のシカを蹴ったとか、そんな人もいるけど、大概の外国人は日本に憧れている、日本を美しいとおもっている。日本は安全で、親切で、スマホや財布を落としても戻ってくる国だと思っている

日本人はかつて外から来た人を
温かく受け入れてきた
 

日本人は外から学びつづけてきた
古代日本は、あらゆる領域で渡来人にリードしてもらった。海外のすぐれた人から、世界最先端のモノ・コトを学び、元よりも優れたモノ・コトをつくりだした。シルクロードを歩いてきた世界の人たちから学び、遣隋使・遣唐使たちは中国で学び、多くのモノ・コトを日本の持ち込み、平安・鎌倉時代に日本流に編集して洗練させた。室町・安土桃山時代には世界から新たな西洋技術に学び、古代から承継してきたモノ・コトと融合・進化させ、さらに江戸時代に円熟させ、幕末には蘭学を学んだうえに、明治維新に怒涛のように人材を世界に送って学び、それまでの日本的のものを再編集した。そして戦後日本も、世界に学び吸収して、“Japan As Number One”と持てはやされたほどになったが、そこから慢心した、失われた30年を超えた

note日経COMEMO(池永)「なんでもあった日本から、侮る日本へ(下)」

かつて日本には八百万の神がいた
なんでもある国だった

世界一学びつづけた日本の本質は、「なんでもあり」だった
日本人が「なんでもあり」だけではなく

世界の人にとって
「なんでもあり」の日本だった

なにもかもが世界から日本に入ってきて、日本は世界から学んだ。「なんでもあり」の日本は、日本人も外国人も対等で、お互いを理解しあっていた。日本が外国人を取り込んでいくとか、外国的なものを取り込んでいくのではなく、日本で、日本と外国が混ざりあっていく「なんでもあり」が、世界のどこにもない独創的なものを生みだして、それを日本の美しいに洗練させた
 
現在、そうではなくなりつつある
しかしその美しさがまだ残っている
現在ならば、間に合う


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