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この時期に海外に行くということ (1) :渡航前の準備

日本を含むほぼ全世界で、引き続き新型コロナウイルス感染症の収束は、まだ見えてこない状況が続いている。一方でこの問題が起きてから1年以上が経過し、かなりこのウイルスに関する情報も集まってきており、また各国の状況についても明らかになってきている。

こうした中で今回、国際協力機構(JICA)の民間連携事業に関する海外渡航再開第1号として、私が取締役を務めるキャスタリア株式会社のエジプトでの教育案件が実施に移されることとなり、私は今この原稿をエジプトの首都・カイロで書いている。

もちろん状況は極めて流動的であり、あくまでここに書いていることは現時点(2021年3月下旬)の情報であり、私自身の経験した範囲でしかない点にはご留意頂きたい。本稿の内容をもとに渡航したことによる損害等についてはその責任を取ることは出来ず、渡航にあたっては各自の責任においてこの情報を参考にして頂けるなら幸いである

今後徐々に、海外出張のための渡航も再開されていくことであろうと思うので、今後海外渡航をすることになる方のために、そして現時点の状況の記録のためにも、何かしら役に立つことを願って、以下の通り3回に分けて書き留めておく。

1:渡航前の準備(本稿)
2:渡航から現地滞在
3:帰国前から帰国後

世界はすでに、ワクチンパスポートの実用化など、新しい時代の渡航のルール作りに向かっているが、残念ながら、日本はワクチン開発に出遅れただけでなく、こうした動きにも出遅れている。

その遠因に、新型コロナウイルス以前からの渡航ノウハウの蓄積が十分ではなかったことがあるのだとすれば、本稿の情報が、こうした動きを起こして行くことの小さなきっかけになれば、とも思う。

1回目は渡航前の準備について、今回の渡航体験に即して書いていくが、これまでの海外出張の場合とはかなり様子が異なるということを先にお伝えしておきたい。今までのように、行き慣れた場所であるからと言って情報収集や準備をせずに出かけることは、事実上不可能と言っても良いだろう。この条件を満たすだけの準備をしていなければそもそも飛行機に乗せてもらえない、という状況が現在である。

・情報収集:1次情報の大切さ

まず情報収集に関しては、現地の感染状況及びそれに伴う規制・制限や、渡航に際して必要とされる条件がどのようなものであるか、を確認しなければならない。

こうした情報については刻々と変化していくために、一次情報にあたることが欠かせない。一次情報とは、情報の発信元自身が発するもの、たとえば渡航先国の在日本大使館の情報や、あるいは外務省が発表している情報などである。こうした一次情報であっても、それが現在でも有効であるかどうかについても十分に注意を払っておかなければならない。こうした一次情報をもとに、分かりやすくまとめられた情報は、通常であれば便利に使えるものであるが、今の状況においては、こうしたものだけを頼ることは非常に危険であることを改めて書いておきたい。

また、こうした各国政府など公的機関の情報のほかに、搭乗する航空会社がどのような運用を行っているかについても、利用航空会社のホームページなどで、これも正式な情報を確認しておくことが必要だろう。

・渡航条件の確認と条件を満たす準備(PCR検査など)

一次情報を通して特に確認しておかなければいけないことは、渡航条件である。渡航先国によって渡航条件が異なり、またそれが日々変化する可能性がある。そしてこの条件を満たさなければ、現地に向かう飛行機に乗れないということが起こるし、最悪の場合は、現地に到着したが入国できないということも考えられる。そもそも外国人の渡航の受け入れを中止している場合もある。

とりわけ注意を要するのは、多くの国で条件とされている PCR 検査などによる陰性証明だ。こうした検査は渡航先国の条件を満たす書式で証明書を発行してもらう必要があり、それができる検査機関は限られているため、どの医療機関で検査を受けるか、探して決めなければならない。またこうした検査は、出国時に搭乗するフライト出発時の例えば72時間以内、といった具合に期限が決められているため、検査機関が検査後に証明書を発行するまでのタイミングや交付の受付時間・休日などを十分に確認しておく必要が ある。 検査機関を探す場合、下記の経産省と厚労省が開設しているTeCOTが参考になる。

・家族や関係者への説明と情報提供

またこうした準備先だって、自分が海外渡航をすることについて家族や関係者に説明し、特に家族については同意を得るとともに、渡航計画について十分な情報提供をしておくことも非常に大切だ。

私もこれまで海外出張は度々行なっており、家族もそうしたことに慣れているため、特に頻繁に足を運ぶ渡航先だと、計画の詳細について十分に説明をせずに出かけてしまうこともあった。しかし今回については、宿泊先やフライトの予定はもちろんのこと、同行する人が誰であるか、またそうした同行者の行動予定などについても事前に家族に書類を渡して説明するとともに、自分以外の関係連絡先などについても書類に記入しておいた。少しでも家族の不安を減らしておき、万一があった場合に自分以外にコンタクトする先を明確にしておくことも非常に大切だ。

実際に、家族の同意が得られなかったために渡航を見合わせている人達も少なくないと聞く。もちろんこうしたことは個々の家族の方の考え方にもよるので、何が一概に正しいということは言えないが、渡航を押し切るのではなく、家族に少しでも安心して送り出してもらうことはとても大切なことだ。

・保険など

海外渡航時の保険についても、少なくても通常と同程度かそれ以上に考えておく必要があるだろう。どのようなことが起こるか分からない中で、特に現地での治療費用や救援者費用がカバーできる保険をかけておくことは必須といってよいのではないだろうか。クレジットカードに付帯しているものもあるのでその内容を改めて確認をしておきたいし、またそういった保険に入っていない場合には新たに旅行関係の保険に加入することも必要だろう。会社などが保険をかけてくれるのであれば、その手続きを確実に行っておく。

万一渡航先で新型コロナウイルスに感染発症した場合、どの程度の費用が発生し、どういった保険が機能するのかについては、まだよく分からないというのが現状かと思う。あまり過度に心配をしても何も出来なくなってしまうが、少なくても自分に適用される保険内容を理解しておくことは、いたずらに不安にならないためにも、とても大切だ。

・現在の健康状態の確認

通常の海外渡航の場合もそうだが、現在の健康状態を確認し、問題がある場合には治療等の対応をしておく事も通常以上に大事になっている。今回の自分の例で言えば、おそらく花粉症に起因すると思われる喉の周りの違和感が出発前におさまらなかったので、渡航がなければ特に通院などせずに様子をみていたと思うが、今回については事前に病院に行って特に問題がないことを確認し、投薬もうけた。新型コロナウイルスの影響で、どの国でも医療機関の状況が通常時とは異なることが十分に考えられる。このため、出発前に出来うる対応は最大限しておくべきだし、また予防的に対応しておくことも通常以上に必要になるだろう。そして、常備薬などを忘れずに用意していくことも必要なことだと思う。

・持ち物について

持ち物について、特に通常と異なるものは、滞在期間中に必要な量のマスクや消毒液、必要に応じて手袋、飛沫を防ぐメガネやフェイスシールドといったものが考えられる。こうしたものは現地で手に入る可能性もあるが、その状況は国や時期によって様々であると思われるので、国内で十分に準備をしていきたい。カイロの市内では、自分の見た範囲ではマスクや消毒液は多くのスーパー等で売られているが、感染流行が拡大すればすぐに品切れになる可能性がある。

また常備薬類についても出発前に準備しておきたい。過去の通例であれば、出発空港の売店等で手に入れることもあるかと思うが、現状では空港の店舗の閉店や営業時間の短縮が現実に起きているので、空港で調達することは考えない方が良い。

・組織としての対応の有効性~1人より2人

今回の渡航準備で痛感したのがこの点だ。渡航に関する情報収集や、万が一が起きた時の対応も含めて、所属する組織やチームとして、どのように組織的に対応できるかが非常に重要になっている。

もちろん個人で渡航する場合には自分一人で準備しなければいけないが、そのためには十分な時間をかけて準備をする必要があるだけでなく、外部の組織の力も借りることを検討したい。

今回は、出張手配に慣れた社内メンバーが、例えば PCR 検査機関の受付状況や渡航先国による検査の時間制限(出発何時間前までの検査が必要か)といった、細かいが重要なことを確認をして出張するメンバーにそれを知らせてくれる有難さを改めて感じた。複数の渡航者がいることを活かし、出張期間をずらして渡航計画を組んだことで、先発組が逐次実際の様子をリポートしてくれたことで後発組の渡航がスムーズになったことも大きい。

それでなくても出張前に準備で非常に慌ただしい時間を過ごすことは通常と変わらない上に、これまでの出張準備以上の対応を必要とし、間違いがないように細かく神経を使う確認業務を、出張者以外の手慣れたメンバーがサポートしてくれることは非常に心強いものがあるし、また効率的かつ正確に準備を進めるために必要不可欠と言っても良いと思う。

また今回の場合は、 JICA に関連した出張であるために現地の最新情報や渡航に関する注意点については、現地駐在のJICAの職員からオンラインで安全対策ブリーフィングを受けることができた。このように渡航先に受け入れ機関がある場合には、そこから情報を入手することも非常に重要かつ有益である。いずれにしても、社内外の他の人の力も頼って、正確で確実かつ効率的に出張の準備を進めることが非常に重要、ということは改めて強調しておきたい。

次回は、渡航に出発してから現地に到着し、滞在する間について書くことを予定している。


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