[レポ]フランクフルト・ブックフェア2024:マンガの行方と「ニューアダルト」の台頭
ドイツのフランクフルトで国際書籍見本市「フランクフルト・ブックフェア」が開催されました。今年も様子を見てきたのでざっくりレポートしてみます。
10月16日から20日まで開催されたフランクフルト・ブックフェアですが、76回目となる今年は23万人(業界関係者+一般来場者)を動員し、世界153ヵ国から出版社など4,300ブースが出展しました。昨年よりも微増したようです。(主催者公式発表)
ただ、コロナ前となる2019年の30万人超/7,450ブースの水準には戻っておらず、出展費用の高騰などが中小出版社の足かせになっているとの見方もあります。(出典:独翻訳業界ポータル)
筆者はここ数年、日本出版社のマンガ展示とドイツのマンガ翻訳出版社のブースを見て回っています。今年も「気づき」を書き出してみます。
マンガの動向:日本の出版社
日本の出版社については、ブース数は若干増えた印象でした。ただ、隣接する韓国や中国と比べると、ブースのデザインは質素でライセンス取引きという実務重視の姿勢がうかがえました。
とはいえ、大手出版社だけでなく、中小の出版社もマンガを展示していたり、アニメ化などメディアミックスに強い専門出版社を見かけるなど、日本の出版文化の層の厚さは感じました。関係筋の話(すみませんソースは明かせません)によると、ドイツの翻訳出版社(すみません具体名は明かせません)とも商談をしていたりとマンガの海外進出はこれからもまだまだ続きそうです。
マンガの動向:ドイツのマンガ出版社
今年、最も目立っていたブースは、ハンブルクの新興マンガ出版社altraverseでした。同社は『葬送のフリーレン』や『鋼の錬金術師』(廉価版)などのドイツ語版を手掛けていますが、一番の稼ぎ頭は韓国のウェブマンガ『Solo Leveling』(邦題:『俺だけレベルアップな件』)です。同社の直近の週間ヒットチャートでも、TOP20のうち半分が『Solo Leveling』の各巻で占められています。
大手のカールセン社も大量にマンガを展示していましたが、前年からの変化は特に感じられませんでした。相変わらず手堅いなという印象です。
一方、今年気になったのは、シュツットガルト近郊のコミック出版社Cross Cultのマンガレーベル「Manga Cult」でした。同レーベルは立ち上げ後に『鬼滅の刃』で大きなスタートダッシュを達成しましたが、最近は、『GTO』や『幽遊白書』もリリースし、日本マンガのドイツ受容史に欠けた名作を補完しているように見えます。特にロボットアニメがほとんど受容されてこなかったドイツで、ガンダムの前日譚的な作品『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を刊行するあたり、旧作の掘り起こしにとどまらず、ドイツにおけるマンガ史の補完的役割に挑戦しているのかもしれません。一度、じっくり話を聞いてみたいものです。
「ニューアダルト」の台頭
かつてフランクフルト・ブックフェアではマンガ出版社のエリアにファンがコスプレイヤーが大挙して押し寄せ、それに目をつけた主催者が入場料にコスプレ割引を設けて後押しするなど、注目されていた時期がありました。しかし、メディア報道を見ると、今年最も注目されていたのは「ニューアダルト」というジャンルでした。とはいえ、筆者自身はそれほど注目しておらず、現地の様子もほとんど見れなかったので、報道から実像を探ってみます。
どうやら「ニューアダルト」とは、若い女性を中心とした読者層に向けたファンタジー要素を含んだりする恋愛小説のようです。今年のフランクフルト・ブックフェアでは、なんと、通常のホールから独立し、そのジャンルだけで約8,000平米の1ホールを使用していました。作家のサインを求める列は中庭にまで伸びていました。(現地報道)
筆者が見かけたLYXという出版社のブースもビジネスデーにもかかわらず、若い女性たちで賑わってました。
このLYXというケルンの出版社ですが、ドイツの出版業界誌『Börsenblatt』の記事によると、今夏にジャンルとしては初となる専門イベントが実施されていました。多数の作家が招待され、トークイベントやサイン会が行われ、4,000人が来場したそうです。
また、日経新聞によると、米国でも恋愛小説とファンタジー小説を組み合わせた「ロマンティシー」というジャンルが盛り上がっているようです。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO84083160S4A011C2KNTP00/
感想:マンガxニューアダルト
ここからは筆者の感想となります。日本のマンガの海外進出は堅調で今後も伸びそうな気配はあります。一方で、このニューアダルトの動きも看過できないなと強く感じました。というのも、ドイツでは少女マンガが強い時代もあり、このニューアダルトというジャンルと若い女性読者を取り合うことになるのでは思ったからです。であれば、日本側がそのコミカライズやアニメ化を行えば、新たな成長分野を作れそうな気もします。また、こういった恋愛小説を日本の読者に提案してみるのも面白いかも知れません。筆者がこのジャンルに注目したのは今回が初めてなので、的外れなことを書いている可能性もあります。詳しい方がいればぜひ教えていただきたいなと思いました。
今回はドイツにおける日本マンガ事情や現地の出版トレンドを紹介してみました。みなさんはどのような感想をお持ちになられましたか?
おまけ:過去のレポ記事
折角の機会なので、過去のレポ記事をリストアップしておきます。合わせて読んでみてください。
2023年版
2022年版
2021年版
2018年版
タイトル画像&記事中の写真:すべて筆者撮影。