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ワーママのカーブカット効果 (後編) ⅲ.展開期〜ⅳ.レバレッジ期

こんにちは、ナラティブベースのハルです。前編につづきワーママから社会へ波及する 働き方における『カーブカット効果(※)について、波及の流れを4ステップに分けお届けします。後編は「 ⅲ.展開期」から「ⅳ.レバレッジ期」。このコロナ禍の2年で、やっと起き始めたワーママゲリラの波及とメリットが最大化する未来予測について、書いてみたいと思います。

(※)カーブカット効果=マイノリティにむけた施策が社会全体のメリットに波及するような効果を生むこと。詳細はぜひ前編の記事をご覧ください。

<カーブカット効果の波及4ステップ>
ⅰ.ゲリラ期(マイノリティ施策が局所的にはじまる)
ⅱ.共感期(施策のメリットを理解するコミュニティが生まれる)
ⅲ.展開期(マジョリティのメリットに展開される)
ⅳ.レバレッジ期(メリットが社会全体に広がり最大化する)

筆者ハルによる勝手な構造化

コロナで起きた「ふつう」の崩壊

前編で書いたように、2010年代は「ワーママの負の解消」という視点でみると、ITの後押しを受けて様々な新しい働き方とコミュニティが生まれるという動きはあったものの、そこから先の社会波及へのストーリー展開は簡単には生まれていきませんでした。
リモートワークも、わたしたち(ナラティブベース)が行なっていたようなフリーランスチームの働き方も、あくまで「ふつう」に働けない人=マイノリティのためのものという認知だったからです。

共感期と展開期の間には、マーケティングでよく使われる理論(*)でいうところのキャズムとも呼ぶべき深〜い溝があって、それを超えるには社会全体の視点・価値観の大きな転換が必要でした。
そして、この大きな溝をつなぐ架け橋=強固な価値観をゆるがすような大きな出来事となったのが、誰も予想だにしなかった世界的なパンデミック、新型コロナ感染の拡大によるリモートワーク普及でした。

多くの人が在宅勤務を余儀なくされることによって、今まで「ふつう」しなかったリモートワークを長期間、強制的にせざるを得ない状況になりました。そして、その中でのメリット、デメリットを実際体験することでリモートワークが自分ごと化し、今まで掛けていたマイノリティのメガネが、まず「リモートワーク」というやり方について外れていきました。「ふつう」の崩壊が起き、やっとリモートワークというマイノリティ施策がⅲ.展開期(マジョリティのメリットに展開される)へとつながって行ったのです。

(*)キャズム理論=新製品が市場に普及するためには超える必要のある大きな溝(キャズム)があるというマーケティング理論。製品が売れ始める初期市場と、マジョリティが形成するメインストリーム市場の間には消費者の価値観に大きな違いがあり、その価値観の転換が商品普及の条件となる。

リモートワークとメリット享受層の広がり

まさに、「コロナ前のリモートワーク」は、『社会を動かすカーブカット効果』の論文中で紹介された、「障害者のための即席スロープ」でした。

現れた時点では、ほとんどの人が「障害のある人にために作られたやつでしょ。健常者の自分には必要ないけどね。」といった具合に横目で眺めていたものが、あらゆる場所に設置されはじめると「全く違ったもの」に見えはじめます。「自分も?使うとしたら?」「メリット・デメリットは?」「違った使い方は?」「もっと改善するとしたら?」…、そういった自分ごと化した視点を誰もが持つようになることで、今まで一部のプレイヤーしかやったことのないマイナーなゲームが、はじめて全員参加のゲームになったのです。
(創業時からフルリモートワークの弊社メンバーもコロナ禍に家族やお客様の視点の変化を目の当たりにし、「不謹慎かもしれないけど今の感情を率直に言えば、わかってくれる人が増えてうれしい気持ち」という感想を繰り返し口にしていました。)

さて、カリフォルニア州から広がったスロープ(縁石のカーブカット)は、メリット享受層を、ベビーカーを押す人、台車を運ぶ人、スーツケースを持つ人、ランナー、スケートボーダーなど、当初想定のなかった大多数の市民に広げていき、その恩恵を社会全体のメリットへとつなげていきました。

これをリモートワークに置き換えるならば、メリット享受層はもちろんワーママだけではなく子育てにもっと関わりたいと願っていたパパや、その他病気や障害で場所の制約を抱えている人、その看病や看護をする人、家族の海外赴任についていった人、親が高齢で近くに住む必要がある人など、地方や海外に住むことで仕事の選択肢が狭まってしまっていた人…、さまざまな家庭事情を持つ人の「都合の良い場所で働く自由」というメリットへとのつながっていきました。これが展開期初期の享受層拡大です。

<家庭事情でメリットを享受する層>
・子育て(育児)教育をしていて家にいる時間がほしい
・病気、障害のあって移動が難しい
・介護、看病していて家や病院に近い場所にいる時間がほしい
・家族の事情で地方や海外に住んでいるが仕事の選択肢が少ない
など

多くの人がメリットを享受し始めると、実際のところは多かれ少なかれ家庭事情を抱える人こそマジョリティで、いままでは企業戦略に合わせて家庭事情を押し殺しマイノリティ扱いを避けている人が多かっただけではないかと改めて思えてきます。だからといってそれは個人の意識の問題ではなく、時代の当たり前やシステムがそうさせてきたことなのですが。(この点については番外編で書かせいただきました。)

そして、忘れてはならないのは、一旦キャズム を超え展開しはじめたストーリーはドミノ倒しに次々変化を生んでマジョリティのメインストリームに広がっていくということです。

意識変容は加速し、戻らない

リモートワークが定着し始めた今はまさに「展開期」の中盤で、上述のような「家庭事情を抱えた人の課題解消」という発想を超えて、「積極的にリモートワークのメリットを活用し生活を変えようとする層」が現れはじめています。つまり、移動時間が減ったり、住環境により目が行くようになったり、もっと違った働き方を望みたいと考えるようになったりなど、今まで諦めていた希望や理想を再認識し、メリットを活用しようというわけです。

<理想を再認識しメリットを活用する層>
・移動時間がない分、趣味や新しいチャレンジをはじめよう
・住環境や教育環境のために地方移住、海外移住を検討したくても仕事事情で諦めてきたけど今ならできる
・時間や場所に縛られずパラレルに働けるから副業もはじめたい
など

特にコロナ禍のリモートワーク浸透を契機に、働き方をもっと自分でデザインしてみたい、より自律的なものに変えていきたいと転職を希望する人副業を始める人フリーランスになる人が増加しています。副業制限についても、その理由の公表が要請されるようになりました。

昨年あたりからリモートワーク前提の入社で「リモートネイティブ」などと呼ばれはじめた新卒の世代は、なんと今年は、多様な働き方前提に就職後のキャリアも転職・副業を前提に考える「転職ネイティブ」などとも呼ばれはじめているそうです。

こういった時代の流れを汲んで積極的に行動を起こす層を、企業側が人材の囲い込みの発想で縛ろうとしたところで足踏みくらいはさせられたとしても、遅かれ早かれ「古い考え方をもった組織」というネガティブな印象を与えることになるでしょう。

リモートワーク普及は、メリット享受層を広げたことによって社会全体の視点・価値観の大きな転換を促進し、意識変容を加速させました。その意識は間違えなくこれからの社会を担う世代に広がりつつあります。今はまさに戻ろうとしても戻れない「展開期」の真っ只中にいるのだと感じます。

多様な働き方前提の社会で何が起きるか

多様な働き方、自律的な働き方を前提に考える層が今後ますます広がっていくことで、今までに経験したことのない課題もたくさん出てくるでしょう。しかし同時に考える必要があるのは、このカーブカット効果が社会全体に波及しメリットが最大化する状態とは、どんな状態なのかということです。

話を少し「ワーママの負の解消」に戻しますが、弊社ナラティブベースはワーママの新しい働き方として、「オフィスを持たないフルリモートワーク」「多様な関わり方ができる柔軟な組織づくり」に取り組み続けてきました。多様な関わり方ができるよう仕事は全てプロジェクトベースのコミットで、多くのプロジェクトを抱える人もいれば、一つのプロジェクトの関わる人もいます。すべてのプロジェクトで同じ役割を担うことで専門性を尖らせる人もいれば、プロジェクトによって担う役割を変えて自分のキャリアを模索する人もいます。フルリモートかつコアタイムもありませんので、海外から参加する人や子育てで日中忙しい人は日本の夜間早朝の時間帯をメインに仕事をしたりします。中には聴覚に障害があってマスク生活のコミュニケーションが苦痛でリモートワークに切り替えた!なんて人もいます。

わたしたちがつくってきたいわばゲリラ活動の産物のような組織の運営方法は、地道に続けていたらうまく行ったことが生き残り偶然そうなったといったお世辞にも戦略的なものではなかったのですが、少しカッコをつければ進化の過程にとても近い経緯を持っています。
興味深いのは、こういった多様な人が多面的な関わり方をすることができる組織では、どちらが優れているという発想はなく相互成長が基本となる、今まで評価されてこなかった人・能力が評価されるといった現象が起きるのです。

これらの現象はⅳ.レバレッジ期(メリットが社会全体に広がり最大化する)でどうメリットが最大化していくのかのヒントになるようなエッセンスが散りばめられていると考えています。ここでは自社ナラティブベースで起きたことから4つのエッセンスを簡単にご紹介します。

『プロジェクトベース型リモートワーク組織』のエッセンス

(1) 目的に必要な「部分」が重要視される
プロジェクトベースなのでコミットもスキルも部分的でOK。
誰もが全体ではなく部分の総体で貢献し、それ自体が多様性となる。
今まで働けて(役立てて)いなかった人やスキルが表に出てくる。

(2) 働き方が誰にでも持続可能な状態になる
1の関わり方が可能なことによって、変化しながら持続的にコミットするそれぞれに合わせたパターンが自律的に設計できる。
持続的であることが関係性を強化し相互理解につながり3、4を生み出す。

(3)補い合いが成長の必然性になる
多様かつ部分的な(人やスキルの)組み合わせを機能させるため、
認め合いや協力が必須となり、互いに成長のきっかけ・必然性となる。
手を伸ばしあうことが当たり前なのでリモートワークがうまくいく。

(4) 今までと違った能力発揮が起きる
以上の環境から既存組織では起こりづらかった能力の発揮や評価、チーム内での相互成長が起きる。それが新しいプロジェクトを生み、個人の自律的なキャリアにつながっていく。

ナラティブベースで起きたこと

<補足関連記事>
▼リモートワークでは今まで組織の中で評価されづらかった女性性の能力発揮が必要となりその価値が再認識されます。

▼今の業務に必要かにとらわれずチームで互いの能力を観察しあうことで職務経歴書には書かないスキルが発見されそれがキャリアにつながります。

共同体が働く「レバレッジ期」へ

今まさに働き方が大きく変わる中で、企業と個人の関係性の変革が必要な時代に突入しています。しかし、ここまで見てきたストーリー(流れ)からわかるように、次の時代はこれまでと大きく視点・価値観が異なり、今までの前提や価値観に立った考え方ではよりよい未来、働き方は描けないということです。

働き方が多様化し、時間も場所も価値観もバラバラな人が各々の人生に合わせその都度連携して働く未来

そこでは、これまでの「ふつう」から私たちが分類してきた、勝ち組・負け組、頭のいい人・悪い人、障害のある人・ない人、時間をたくさんコミットできる人・できない人、といった分け方がもはや邪魔にしかならないでしょう。多様なプレイヤーを部分的に受け入れられ、それでもなお持続的に強くつながれる、そんな柔軟な組織のあり方が必要だと思います。

個人が全体性を評価され競いあいマジョリティでいつづけることが有利な時代はもう終わらせ、部分的でも貢献できることが評価され手を差し出しあう全員がマイノリティでよい多様な時代へ。

ワーママ歴20年、不満をくすぶらせ続けてゲリラ活動に勤しんできたわたしは今、ゆるやかな共同体が出来ては働き、消え、また再結成して働く…
リモートワークのメリットが最大化した行く末に、そんな未来をイメージしています。


最後に、論文の中でも最後に引用された、今から半世紀前のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア博士(キング牧師)の手紙の一節を取り上げて終わりにしたいと思います!

「私たちは逃れようのない相互依存のネットワークの一員であり、ひとつなぎの運命で結ばれている。一人に直接影響を及ぼすものは、それがなんであれ私たち全員に間接的に影響を及ぼすのだ」

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア博士の手紙
(SSIR「社会を動かすカーブカット効果」より)

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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